ヒューマンキャピタル2017「キリンビール高知支店に学ぶ!メンバーの心に火がともる組織マネジメント」 Part.2

2017.08.3

高知支店独自のキャンペーンのなかで、初めて「理念」ということが解り、V字回復が始まった


 本社のせいにしないで自分たちでやろうと思っていたときに、誰かが広告をやろうと言い出して、高知支店だけで独自の広告キャンペーンをやりました。

 当時、お客様の気持ちはアサヒビールに行っているので「もう一度キリンビールに帰ってきてくれ」と言っても駄目なんです。そこで、感謝をすることにしました。「高知の人、いっぱい飲んでくれてありがとうございます」という意味で「高知が一番」というキャンペーンをやって、それが幸いうまくいって多少の灯りが見えたわけです。

 そして、ラガービールの味を元に戻さないといけないと社長へ直談判をして、1998年、ラガーの味を元に戻しました。そこで、「高知のおかげでラガーの味を元に戻しました」キャンペーンを行いました。この途中で大きな変化が支店の中にありました。初めて「理念」ということがわかったんです。

 それまでは自分も含めて普通のサラリーマンですから、上から与えられた目標をやるのが仕事だと思っていた。でも、そういうものではない。お客様のところに行って毎日、飲みながらお客様の声を聞いているわけですよね、そうすると、たとえば自分が子供のころ、よく自分の両親が、ちゃぶ台であんなに大事に、おいしそうにキリンビールを飲んでいてくれたと。そういうお客様の人生の大事な記憶の一部になっているわけです。ブランドというのは、そうやってお客様のものになっていたんだと。キリンビールはそういったブランドを勝手に変えたから叱られたんだということが、3年経って初めてわかったんです。

 あるいは、今日一日会社で嫌なことがあっても、冷えたビールを飲むことによって本当に疲れが取れた、明日頑張ろうという気になれる。1本300円の商品だけど、お客様にとってはすごく大事なものなんだということを、お客様自身が教えてくれるわけです。

 そうすると、もう数字じゃないんですね。もっとおいしいビールを作って、高知の人にこれがいいんだ。今日仕事を頑張って、明日はもっと頑張れるというように思ってもらう。それが自分たちの使命だと。そこで大きな変化がありました。必ず勝つ精神が生まれたんです。

 営業としてあるべき状態も、お客様が教えてくれるんですね。「ビールは何でもいい。似たような味だけど、やっぱり売れているビールがいい」というわけです。そうすると「飲み屋さんにいっぱいあるものがいい」「スーパーにいっぱいあるものがいい」「それが売れている証拠だ」と言う。そういう状況をつくる。それまでは考えてみたこともなかったけれど、つくるしかない。

 たとえば、飲み屋さんの営業でいうと、カバレッジという物差しがありました。何%の飲み屋さんにキリンが置かれているのか。当時は45%でした。この45の数字を46とか1上げるということではなくて、100しかないんです。100%にしないと、高知のお客さんは、「全国はアサヒビールだけど、高知はキリンビールが一番いい」と思ってくれない。100%にしないといけない。それが「あるべき状態」=「使命」なんです。

 そうすると、行動が変わります。ひとつの飲み屋さんの営業の滞在時間も今までみたいに20分では駄目なんです。3分にしないといけない。「3分でキリンがよく来てくれた」「こういった情報をよく持ってきてくれた」となると、お客様でももっと売らないといけないとなってくれます。あるいは、田舎ですから、移動効率が悪いので、どうしたらいいのかということを工夫してやっていく。そういったことを実際にやってみたところ、最初の年に3分で全部の店を回れたんです。全部の店を回れたら、カバレッジが5%上がりました。

 問題はそこから先です。毎年カバレッジが5%ずつ上がっていったんです。最盛期、僕の次のその次の支店長のときにはカバレッジが90%になりました。これは何ひとつ特別なことをしなかったからです。行動スタイルを変えなかったからです。人も増やしてない、お金も増やしてない。

 スーパーマーケットの売り場でも同じことをしました。これはけがの功名ですけれども、キリンが取引先から相手にされなくなったんですね。したがって、いままでのようなお願い外交は全然通用しなくなった。だから、キリンだけが唯一スーパーマーケットの話やロジックを聞いて、スーパーマーケットのロジックの中にキリンビールが入って、そこからキリンの情報を出していこうと。一緒に汗をかいて売り場をつくっていくことになり、1年、2年するとスーパーマーケットの売り場はキリンだらけになりました。本社からもいろいろな施策、キャンペーンや新商品なども出てくるのですが、それを利用して個々の関係をつくっていけばいいんだと。個々の関係を構築することができたのです。

 みなさんもそうだと思うのですが、お得意先も人ですから、一人ひとり正解が違いますよね。それを自分たちで発見して、解決していくことができるようになっていったんです。個人が自由になったということです。

 最終的には、キリンビールの全国のシェアが40%のときに、高知支店ではシェアが70%にまで躍進をしました。全国のキリンビールのシェア2位の愛知県が44%ですから、別の文化ができたということだと思います。2001年には高知県がトップシェア奪回をしたのです。

舞台が大きくなっても勝つための基本は変わらない。
理念、戦略、戦術をつくり、違う市場でも基本を貫く

 6年間高知におりまして、次は四国の本部長になったのですが、高知ではひたすらお客様のことだけを考えて一所懸命回っておりましたので、これをブレイクダウンして方針をつくることから始めました。
 そこで、3つの方針をつくりました。ひとつはやっぱり基礎体力づくりです。企業間の競争力の格差は、大部分は実行力の格差、とくに現場の実行力の格差によるものです。この実行力をつける。さきほど申し上げたような基礎トレーニングを徹底し、それによって応用問題が解けるようにして、営業の自由度を高めていく。
 2つ目は、理念、戦略、戦術。何のために仕事をするのかということ、戦略をすべて吟味しました。理念や戦略、戦術というものと今日やらなければならない仕事の関係を1本軸としてつくらないといけない。キリンもそうでしたけれども、普通は「今日やる仕事」と「理念」というのは切り離されています。そこで毎週月曜日、今日やる仕事、今週の目標、その意味することを繰り返し伝えていきました。
 3つ目は、やはり正解が全部違いましたから、各県別に正解を見出して責任をもって各支店が実行するということです。四国は当時アサヒビールがど真ん中に工場を造ってしまったために、高知以外は大苦戦のところでした。それが今申し上げました3つの方針、これによって一気に四国の数字が改善されて、四国4県がキリンビールの中ですべてベストテンに入るという状況になったのです。
 こういった施策によって、お客様の満足度を高めるという理念、自分たちはそのためにいるんだという理念、これが体現化されたということです。これからAI時代を迎えるに当たって、AIには絶対できないというところとして、理念の体現や体質ということがいわれていますけれども、それができたということです。

「しつこさ」がもたらした勝利。数値管理からビジョンによるマネジメントへ

 次は、東海地区本部長として名古屋に行けということで東海地区に参りました。さきほど申し上げましたように、それまで徹底して現場を掘り下げておりましたので、こうすれば売上が上がるということがわかっていての着任でした。今度は、部下が400人。でも数値管理ではなくビジョンによるマネジメントという四国と同じ考え方で、同じことをやったところ、東海地区では圧勝いたしました。
 東海地区ではキリンがかろうじてトップを取っているところでした。愛知県は1位ですけども、静岡、三重、岐阜は既に2位に転落していました。しかし、その3県がまたトップを奪回して、愛知県は圧勝したのです。キリンビールのシェアが下がり続けているときに東海地区と四国が伸びているということになったのです。
 愛知県を出るときに全員を集めました。田村の良かったこと、悪かったことを教えてくれという話をしたんです。
ちょっと驚いたのですが、全員が田村の良かったことは「しつこさ」だと。「しつこいことが良かった」と言っていたんですよね。たとえば、私の本でも紹介しておりますが、田村から3年間、同じことを千回言われたって言われたと。やっぱり、そのぐらい言っているんですよね。
 何を言ったかというと、飲食店さんを担当しているチームには「すべてキリンにしろ。ただし金は使うな」。これだけしか言ってないんです。ビールメーカーは競争していますから、すべてキリンということはあり得ない。けれども、「すべてキリンにしろ。ただし金は使うな」と言われているうちに、だんだんその気になってきたというようなことを言っておりました。
 このときに学んだのは、人間というのは自分の経験の中でしか理解することができないということです。私としては当たり前のことだと思っていても、相手には全然理解されない。何か言われると、自分の経験の中で、自分の心の中で確認している。したがって、自分が経験してないことはわからない。しかも、都合のいいように解釈するのが人間です。都合の悪いことは右から左になるのです。これは、けしからんということではなく、人間というものはそういうものなんだということがよくわかって、次に本社に参ったということです。

すべての施策をお客様の視点に立って全面的に見直し、
営業本部に着任して3年後にトップシェアを奪回!


 商品と営業、両方の代表権を持って、責任と権限を一体化させるということで本社の営業本部に行きました。着任したときには、じつは実行プランまでもう全部出来上がっておりました。なぜなら、狭い高知のひとつのエリアを掘り下げたときから、ブランドも商品もマーケティングも、すべて一体性、一貫性をもってクリアになっていたからです。
着任早々に、すべての施策をお客様の視点に立って全面的な見直しをしました。今度は部下が4,000人になりましたから、その実行力を上げていくということです。基本活動を徹底する。そのためには時間が必要ですから、無駄を排除する。どこに無駄があるのか、自分たちで考えろと。
 そして、着任して3年後にキリンビールは9年ぶりのトップシェア奪回ができました。ビールのような嗜好品は一度2位に転落すると、再びトップにはなれないといわれています。みなさんもそうでしょうけども、売れなくなったビールは飲みたくないですよね。ただ、そのときはキリンとしては何のヒット商品もなく、申し上げた理念と現場力だけでトップシェア奪回をすることができたのです。

 

 田村の強みはしつこさだと分かりましたので、この2枚のシートで4,000人との対話集会をしょっちゅう行っていました。我慢比べのようなもので、5時間、6時間やっていると「田村さん、もう勘弁してください」というようになりますが、そこまでやります。この2枚のシートを通して何を言っているかというと、正解なんかわかるはずがないと言っているのです。

 それまでのキリンは膨大な調査をやって分析をして、翌年のプランを作って1年間実行するのですが、うまくいった試しがない。それは市場が変化しているからです。市場は常に変わっている。ライバルの動きも含めていろんな変化がありますから、市場を変化するものだとして捉えなければならない。市場はダイナミズムがあるものだとして捉える。だから、現場が大事なんだと。何があるかわからない。正解がわからなくても前進する。動きながら考えるんだ、修正していくんだというわけです。

 

 それまでは、会議室で正解が出るまで待っていたんですね。手遅れになることも多かったし、会議室で正解が出る保証もない。そこで、これからは自分の力を信じて、主体的に「この状況を自分の力で突破する」というスタイルで行けと。諦めるなと。

 そのエネルギー源は何かというと、やはり「理念」です。売上、利益を上げることではなくて、お客様に喜んでもらう。お客様の満足と価値が大事だということです。これを具体的な事実を踏まえながら、しつこく言っていくわけです。

「これからの営業とは」の図の左にあるものが、従来型の一般的なマネジメントの方法です。目標は実現可能性がないといけませんから、前年比101%とか102%とかで行う。上から指示されたことを、自分のできる範囲内で処理することが従来の仕事だったんです。
でも、そうではない。これからは理念に照らして「あるべき状態」と「現実」がある。このギャップを埋めるのが仕事だという定義です。高知の事例で申し上げましたカバレッジ45%と100%、この間を埋めること。これが仕事なのです。
 この仕事の方法には、うまくいくための前提があります。まず、お客様の視点に立ったシンプルな戦略、戦術が必要です。シンプルにしないとセールスが動けませんし、セールスの先にいるお得意先も、この会社が何をしたいのかわからない。このシンプルな戦略、戦術が難しい。仕事というのは、やらないよりやったほうがいいことばかりですから、考えて考え抜いて、シンプルな戦略にしていくことが大切です。
 次に実行力を上げていくことです。主体性を発揮できるようにして、いろんなイノベーションを起こしていけないといけない。そのためにも基礎体力をつくる。その途中で諦めてしまわない風土づくりも必要になります。

 大事なことは、戦略、実行力、理念。この3つです。素晴らしい戦略と類稀なる実行力があれば、すべてうまくいきます。ただ、そこには「理念」が必要です。この3つは相互に関係しています。たとえば「戦略」と「実行力」との関係では、お客様が喜んでくれる良い戦略になればなるほど、実行力は上がっていきます。くだらない戦略だと実行力が上がりません。働く側が途中で嫌になってしまうからです。
 実行力が上がれば、お客様への理解、市場への理解が高まりますから、正しい戦略につながっていきます。実行力と理念の関係もそうです。実行力が上がればお客様は喜んでくれる。「ああ、よくこんな提案をここまで持ってきてくれた」「こんなに足を運んでくれてありがとう」と喜んでくれますから、それを見てこちら側も「もっとやろう」と実行力が上がってくるのです。
理念が体質化されるほど実行力が上がるのを知ったのは高知の例を見たときです。「自分たちが何者か」ということが初めてわかりました。数字じゃない、「理念」なんだと。
 戦略と理念との関係もそうです。正しい戦略になればなるほどお客様は喜んでくださる。理念が強化されるのです。理念が強化されるとなぜ戦略がよくなるのかというと、途中で諦めなくなるからなのですね。戦略をつくるのが一番難しい。戦略をつくっている途中で「この程度でいい」となってしまう。しかし、理念が強化されれば、考え続けることができる。理念をスパイラルで上げていくためには、考え続ける姿勢が必要なのです。

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