GEクロトンビル 日本人唯一のリーダーシップ研修責任者  田口力氏が語る 「ニューロ・リーダーシップで組織を導く ~すごいリーダーは、脳を上手に使って人と組織を成功に導く~」(後編)

2018.04.4

昨年の12月に行われた、田口 力講師によるリ・カレントの10周年の記念講演、「ニューロ・リーダーシップで組織を導く~すごいリーダーは、脳を上手に使って人と組織を成功に導く~」の後編をお送りします。前半ではGEクロトンビル研究所でのご経験をもとにした、すごいリーダーたちが持っている共通点として右脳と左脳をつかった「ひらめき」や、優れたリーダーたちに共通しているリーダーシップのオペレーションシステム、マインドフルネスなどをご紹介いたしました。

後半では、リーダーシップに必要な共感能力やGE流リーダーが行っている感情と情動の違いの自覚、人材開発や研修を行うにあたって必要不可欠な人間の脳のメカニズムなどについて語っていただきました。

(本レポートは、2017年12月21日に行われた田口講師の講演をもとに、リ・カレントが編集し構成したものです。本レポートの編集及び文責はリ・カレントにあります)

コミュニケーションの本質=価値観を共有することができて

はじめて人を動かすことができる

 

田口:共感能力というのはみなさんの会社でも大事にされていると思いますけども。最近、感情マネジメントとか感情に関する、あるいは共感に関する研究とか検証が進んでいます。最近の論文では、「共感のし過ぎに注意」というのが非常に印象的でした。共感しすぎてしまうと周りが見えなくなる。あるいは、内部告発とまでは言わないにしても、組織のなかでおかしいことをおかしいと言えなくなる。

やはりひとつの組織で長く働いてると、いろんな人といろんな縁ができて、いろいろ共感するところができてきて、目をつぶり、耳をふさぎ、口をつぐむ。見ざる言わざる聞かざるになって、組織のなかでいろんな悪いことが起こっていても言わないでおこうということになると。データ改ざんとかの不祥事も、共感のしすぎには注意が必要ですねということです。

知的共感と情動的共感の両方を得なければ、伝えられた人は動きません。情動的共感というのは心の問題ですから、脳にインパクトを与えるような伝え方が必要になります。リーダーシップに必要なスキルとしてコミュニケーションスキルがありますが、コミュニケーションスキルを分解して徹底して「伝える」ことが必要だと思います。

コミュニケーションは、単なる意思の疎通とか伝達にとどまらず、もっともっと深いものを指しますよね。communicationの「com」というのはラテン語で「cum」。これはtogether(一緒に)ということです。communicationの「muni」は「to share」という意味で、共有する。だから、コミュニケーションの本質は一緒に共有する。誰かと何かを一緒に共有するということが、コミュニケーションの本質です。

では、何を共有するのか。それは価値観を共有することです。情報を共有するだけじゃない。価値観を共有する。「最近、部下とうまくコミュニケーションできてないんだよね」とか、「最近、コミュニケーションが良くて」と言いますけれど、私がご質問したいのは、「価値観レベルできちんと共有できてるのですか」ということです。価値観レベルで共有ができていないから戦略の実効性はないし、目標も共有されないのです。

価値観を共有していますか。みなさんはご自分の部下、同僚、上司と、ご自身が持ってる価値観、部門の価値観、あるいは会社の価値観。こういったものを全従業員できちんと共有していますか。

価値観の共有ができていないのに、経営戦略ばかりあつらえて実行しようとするから、コンクリートに種をまいてるような感じになってしまう。価値観が共有されてないところで、戦略だけを打ち出しても実行されるはずがないですよね。人心が荒廃して終わってしまいます。

戦略と共感を結び付け、共感しながら戦略を達成する

リーダーが持っている脳はスイッチの切り替えができている

 

共感する、共感してもらうことの大切さはわかりました。でも、共感ばっかりしていたら、それはゴールを達成するとか、目標を達成するとか、ビジョンを達成することに対して邪魔になりませんか。

人は一般的に目標達成の衝動に駆られて、自己認識を欠いてしまうと、共感を失って何も考えずに突っ走るということがわかっています。自己認識を欠くというのは、この場合は前頭葉における自己統制。セルフコントロールみたいなものです。自己統制というのは脳の新皮質にあたります。脳は三層構造になっていて「front cortex」、前頭葉の前のほうの部分で主に自己統制をするんです。

では、共感することと目標達成は両立しないのかというと、目標に集中するときに使う脳の神経回路が特定されています。一方で、共感するときに使う神経回路も特定されており、それをファンクショナルMRIで調べてみたところ、スイッチのオンとオフの関係と同様で、どっちかがオンだとどっちかがオフになる、お互いに抑制しあう脳神経細胞だということがわかりました。

ということは、目標達成などに集中するときは、相手に対してなかなか共感できない状態にあるのです。あるいは、相手に共感し過ぎてしまうと、厳しい数字のことが言えない。これは脳のメカニズムでそうなっている。

そこで、戦略と共感を結び付けて、共感しながら戦略を達成する、戦略を達成しながら共感することはできないのか?という根源的な疑問を調べてみたところ、優秀なリーダーは数秒の間にこの2つの相反する、スイッチのオンとオフを行ったり来たりしてるということがわかってきました。並のリーダーはどっちかのスイッチが付きっ放しになっている。けれども、すごいリーダーは、切り替えができているのです。

すごいリーダーたちが共感しながら戦略を達成するという、スイッチの切り替えをどうやって行っているのかというと、まず第一にEmotional Self-awarenessが大事だという話に戻るわけです。

並の人は、自分の感情、情動がいまどういう状態かということに対して無頓着です。怒ってるとき、自分が怒ってるということさえわからなくなることがある。自分が怒ってるっていうこと自体に気が付いてない。それに対して、気付くことができるかということです。それがSelf-awarenessのなかのEmotional Self-awarenessなのです。

GE流リーダーが行っている感情と情動の違いを自覚する

情動の自覚、「Emotional first. Rational second」

 

最後に、戦略の遂行を確実なものとして、目標を達成しつつ他者に対する共感を見失わないで両者のバランスを取り続けるためになすべきことは何でしょうか。これはやはり情動の自覚、Emotional Self-awarenessですね。

自分で自覚できた心の状態を感情といい、自分で自覚できない心の状態を情動といいます。喜びであったり、怒りであったり、嫌悪であったり、いろんな感情がありますが、それらをGEのときには「Emotional first. Rational second」と教えていました。

たとえば、私がいま「ワーッ」とかやってたら、ちょっとドキっとしませんか? でも、この人はふざけてるんだなという合理的な理由付けは後から来る。「Emotional first. Rational second」というのは、そういうことです。

情動を自覚する、自分を正確に客観的に見るということはすごく大事です。

自信がないとか自己効力感がない人たちの共通項は、自分を正しく認識できてない人です。本当はすごい能力があるのにちょっと卑下し過ぎているとか、駄目なのにすごくできると思ってる人もいます。それを直すためには、エモーショナルの部分にすごくフォーカスする必要があるということですね。

500円を拾ったときの喜びと500円をなくしたときでは

なくしたときのほうのショックのほうが大きい?

 

こんなことはみなさん百も承知かもしれません。でも、知っていても、知っていることとできること、やっていることがイコールではないことも少なくありませんか? これをThe Knowing-Doing Gapといいます。KnowingとDoingの間にはギャップがありますよね。これらは社会心理学のアプローチからすると、簡単に理由がわかります。

最近ノーベル経済学賞で行動経済学の人たちが受賞する傾向が強いですが、その先陣を切ったのはダニエル・カーネマンです。彼は心理学者でありながらノーベル経済学賞を取りました。

みなさんに実践的に経験していただきたいんです。500円を拾ったときの喜びと500円をなくしたときのショックはどっちが大きいですか? もらった喜びのほうが大きい人、手を挙げてください。なくしたときのほうのショックのほうが大きいという人のほうが圧倒的に多いですね。

では、次の質問です。1番は100%確実に8万円もらえる。2番は85%の確率で10万円もらえるけども、15%の確率で0円になるかもしれない。こちらは1番の人の方が多いですね。

質問2。100%確実に8万円を失うほうがいいですか? それとも85%の確率で10万円を失うかもしれないけども15%の確率で0円で済むかもしれない。こちらは、みなさん2番ということですね。

これはカーネマンがやった実験とほとんど同じなんですね。500円という経済価値、貨幣価値は同じじゃないですか。なのに、なぜ失ったほうがインパクトが大きいのか。もらったときよりも失ったときのほうがインパクトが大きいのはなぜでしょうか。

みなさん、中学の頃に習った確率を覚えていますか? そのなかで期待値というものがあったでしょう。その期待値でいえば、1番の場合の期待値は8万円。2番の期待値は8.5万円です。ということは、2番に手を挙げるのが経済合理性にかなっていることになります。しかし、人間は経済合理性に基づいて行動するものではないということをカーネマンは解き明かしたわけです。

たとえば2番の問題では、これの(1)の期待値はマイナス8万円、(2)はマイナス8.5万円ですから、前者に手を挙げるのが正解なんじゃないですか? なのに、みなさんがこぞって(2)に手を挙げたのは、「85%の確率」というここに望みをかけたんでしょう。ギャンブルに打って出たわけです。

カーネマンの『ファスト&スロー』を読んだときに、私は「だから人と組織は変わらないんだ」と思いました。

組織が変わるとか人が変わるということは、必ず痛みを伴いますよね。痛みを伴うとき、人は選択が分かれるわけです。自分だけは、痛みの渦から、変革の渦から逃げられるんじゃないだろうかと。自分だけはこの変化の渦、新しい制度から巻き込まれないで済むんじゃなかろうかと思ってしまう。

この組織改革あるいは人事制度の変化から、自分だけは大丈夫だと思うから、なにも変わらないのです。

損失回避については、人は何か得するときより損するときに強く反応するとカーネマンは言ってます。これは感情のマネジメントです。経営学者によれば大体ネガティブなインパクトのほうが5倍強いと言われています。カーネマンのデータを基にしていろいろ検証した人たちは3倍と言っておりますので、およそ3倍から5倍、感情にはポジティブなことよりネガティブなほうがインパクトがあるということです。

人間の脳はネガティブなものが残りリスクを回避する傾向がある

これらを踏まえて人材開発をやらないと組織変革は進まない


みなさんのビジネスパーソンとしてのキャリアを振り返ったとき、すごく嬉しかったことや上司から褒められたことと、すごくつらかったこと悔しかったこと、上司から叱られたことをリストアップしてみるとどうなるか。圧倒的に後者のほうが多いです。

人間の脳に対するインパクトというのは、ネガティブなもののほうが長期にわたって強く残るのです。

それから、人は正の選択をするとき、もらえるときはリスクを回避する。だから確実に8万円もらうという選択をするんです。なくしてしまうとか失うという負の選択のときにはリスクを追求する。ギャンブルに打って出るということですね。

あらゆる変革推進に関しても、こういうことを踏まえてやらないといけない。なので、組織変革というものはなかなか進まないし、うまくいかないことも理解したほうがいいですね。脳のメカニズムやカーネマンの理論などもよく知らないで施策だけ打っても、人や組織は変わらないです。

そもそも、人にはメンタルブロックというものがあります。先入観とか偏見、機能的固定といったものです。スティーブ・ジョブズがウォズニアックと一緒にパーソナルコンピュータを開発したとき、最初、アルバイトをしていたアタリに売り込みに行ったけれど要らないと言われました。ヒューレット・パッカードにも売り込みに行ったけれど、「大学を出てない人は採用していません」と言われてしまった。彼らはまだ大学生で、在学中にパーソナルコンピュータを発明してしまったんですね。もし、そのときにヒューレット・パッカードが彼ら2人を自分たちの陣営に引き入れてたらどうなっていたのでしょう。

それから、Learned helplessness、学習性無力感。たとえば、みなさんが上司に何か提案しました。そうしたら、こんなの駄目だとけんもほろろに突き返された。シュンとしてしまうけれど、もう一回チャレンジする。また突っ返されてしまうと「駄目だ。上司っていうのは提案を否定するものなんだな」と学習してしまうわけですね。そうなってしまうと、その上司の代わりに別の新しい上司が来ても、「どうせこの人も提案しても受け入れてくれるはずがない」と「学習」してしまって、最初からあきらめてしまう。これを学習性無力感といいます。

これらのことを知った上で、いろいろな人材開発とか研修などもやらなくては駄目ですね。

マネジメントも人間の体の中で何が起こってるか

その構造を知った上でやらなくては意味が無い

相矛盾するものを内包するのが真のリーダーである

 

「すごいリーダー」というのは体に気を付けてますよね。気を付け方を我々は意外と知らないかもしれない。エグゼクティブとして活躍するってことは、非常なるハードワークを強いられますし、時差を飛び越えて活躍することもあるでしょう。そのときに、人間の頭の中、脳の中で何が起こってるか。あるいは、心あるいは体そのものの生体反応を全部知った上でリーダーシップを執らないと、健全なリーダーシップは発揮できませんよね。歪んだリーダーシップを発揮することになってしまう。

身体面からリーダーシップを考えるうえで重要な二つのホルモンがあります。

ひとつめが、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンというホルモン。これは不安になったときに分泌されて、不安を解消してくれます。

もうひとつは、信頼を深めるために必要なオキシトシンというホルモン。これは「絆ホルモン」と呼ばれてます。

ところが、アドレナリンとかコルチゾールが分泌されるとオキシトシンの分泌は抑制されます。では、どういうときにアドレナリンやコルチゾールが出るのか。人間は瞬間的にストレスにさらされると、アドレナリンが出てきます。継続的にストレスにさらされると、コルチゾールが出てきます。

こういうことを知ってないと、どんなに「チームビルディングの研修をやりました。これでチームは良くなるでしょう」と言っても、苦虫かみつぶしたような顔をした人が毎日部下を睨みつけてると、部下の体の中ではアドレナリンとかコルチゾールがどんどん出ているので、オキシトシンが一切出ない。だからチームというものも成立しないということになります。このように、人間の体の中で何が起こってるかを知った上で、日頃のマネジメントもやらなくてはいけないんです。

精神衛生は非常に大事ですし、本物のリーダー、混じり気のないリーダーは、自分を客観視し、自分の心の状態に対してアウェアであり、他者のことを気を遣うことができつつも、戦略の遂行にいとまがない。この相矛盾するものを内包する、そういったリーダーたちが真のリーダーだろうなと思ってます。相矛盾するものを内包する。これがすごく大事なキーワードになります。

では、お時間、長くなっちゃいましたけどもこの辺で。ありがとうございました。

(拍手)

 


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