GEクロトンビル 日本人唯一のリーダーシップ研修責任者  田口力氏が語る 「ニューロ・リーダーシップで組織を導く ~すごいリーダーは、脳を上手に使って人と組織を成功に導く~」(前編)

2018.03.30

リ・カレントはおかげさまで昨年、創立10周年を迎えることができました。

その記念すべき10周年記念講演として、昨年12月21日、リ・カレント10周年企画として、田口 力講師より「ニューロ・リーダーシップで組織を導く~すごいリーダーは、脳を上手に使って人と組織を成功に導く~」というテーマで、講演を行っていただきました。

企業内リーダー育成機関の最高峰と言われているのが、経営者ジャック・ウェルチや創設者トーマス・エジソンでも有名な米ゼネラル・エレクトリック(GE)のクロトンビル研究所。世界初の企業内ビジネススクールとして1956年に誕生したこのクロトンビルの研修所に、年間10億ドル規模のGEにおける人材育成資金の大半が費やされていることをご存知でしょうか。
その世界最高峰リーダー育成機関であるクロトンビルで、日本地域リーダーおよびアジア太平洋地域の経営幹部育成プログラム責任者として様々な研修開発・登壇を経験し、研修参加者からの評価点で4年間連続して世界一を獲得するといった、リーダーシップ指導者の権威とも言える田口講師。日本に帰国されてからは書籍を4冊上梓と、まさに東奔西走中です。
学術的ないろいろなバックグラウンドに溢れ、とくに脳について造詣が深いことから、「ニューロ・リーダーシップ」をテーマにした講演をお願いいたしました。ここでは、その当日の講演の模様をお送りいたします。
リ・カレントでは人材組織開発の研修会社として、さまざまな企業のリーダー育成の支援を行っています。田口講師にはマインドフルにも造詣が深い元GE世界トップ講師という知見から、リーダーシップにも使える“脳活”やビジネスリーダーとして知っておきたい“脳の上手な使い方”など、“脳科学”の観点からリーダーシップ論を交え語っていただきました。ここでは、その当日の講演の模様をお届けします。
(本レポートは、2017年12月21日に行われた田口講師の講演をもとに、リ・カレントが編集し構成したものです。本レポートの編集及び文責はリ・カレントにあります)

 

「ニューロ・リーダーシップで組織を導く」

~すごいリーダーは、脳を上手に使って人と組織を成功に導く~

 

田口:ニューロマーケティングというのは、みなさんご承知ですよね。脳科学などをベースにした、新しいマーケティングの手法です。

たとえば、日本のテレビコマーシャルの特徴として、テレビの物語の本編が流れていると、ヤマ場に来たところでピタっと止まってコマーシャルに入りますよね?

テレビを観ていてヤマ場に来たところを止められて、コマーシャルを見せられたときに、みなさんの頭の中とか心の状態はどうですか。ちょっとイラっと来ることありません?

そのイライラした状態でテレビコマーシャルを流すと、そのテレビコマーシャルを流したプロダクト、製品や会社に対するみなさんのイメージは無意識に悪くなるんです。それは脳科学的にわかっている。そういうことも含めて脳科学的にマーケティングをやっているのがニューロマーケティングです。

私はGEのクロトンビルにいたんですけども、2009年から脳科学をベースにしたリーダーシップ研修が始まったんですね。その新しい研修を教えてほしいと、世界から5人選ばれたそのうちの一人にありがたいことに選んでもらって世界中を教えて歩いてたんです。そのときから脳科学にはまりまして、いま

「心」とはどういうものなんだろうということが非常に気になっております。

リーダーシップについては20~30年テクニックとかスキルの前に「マインドセットがすごく大事だ」と教えてきたのですが、マインドって心ですよね。そこで、心って何だろうと考えるようになってきたんです。

今日のポイントは人に影響を与えるリーダーの言動は心によって左右されている、ということです。

「心」というのは、脳内の信号伝達によって生じます。いまはファンクショナルMRIという、MRIの上位機種があります。これを使うことによって、脳内の電気信号がどのように流れてるか、脳中のどの部位が何に関連するかとわかります。このファンクショナルMRIの発達によって、我々の脳の働きは解明されつつあります。

脳の働きが電気信号の伝達によって生じるのであれば、信号伝達に重要な役割を果たすのが神経伝達物質。いわゆるホルモンです。アドレナリンとかドーパミンとかセロトニンとかオキシトシンとか、いろんな神経伝達物質の種類と量で心の状態が決まる。ここまでは、ほぼ間違いないだろうと言われています。

すごいリーダーたちは右脳と左脳を連携させ切断をすることで

創造性とシステム戦略を両立させる「ひらめき」を産む

 

やっぱり「すごいリーダーだね」と世界的に名を馳せる人とは、すごい戦略を生み出すリーダーだといわれてます。世界中の事業戦略、経営戦略っていうのはオペレーショナル・エクセレンスとプロダクト・イノベーションとカスタマー・インティマシー。この3つに集約されてしまう。これは、人間はだいたい左脳を使って考えるので、大体同じようなフレームワークの3つに集約されてしまうんですね。

プロダクト・イノベーション。すごい製品を作ろうね、サービスを作ろうねと。それからカスタマー・インティマシー。もっともっとお客さんに寄り添って、お客さま第一主義でお客さんのニーズを掘り起こしましょうねと。3番目が、オペレーショナル・エクセレンス。現場の生産性をもっと上げましょうねということです。それ以外の戦略をみなさんが思いつくのかが勝負だと思うんですね。

すごい戦略を思いついて、それを実際に展開する経営者でどういう人たちの名前が挙がりますか? スティーブ・ジョブズとかイーロン・マスクとかジェフ・ベゾスとか、日本ですと孫さんとか、そういう人たちの名前が出ますよね。

私もいろいろな会社の経営者の研修をやらせていただいたり、GEのすごいリーダーたちをずっと育成してきましたが、共通しているところが3つあります。すごいアイデアが思い浮かぶとか戦略を思い描くためには、創造性がないと話にならない。ただ、創造性だけではなく、きちんと金勘定であったり戦略の細かい部分まで思いを抱かせることができる。そのためにはシステム思考ができなくてはいけない。

右利きの人を前提にして申し上げますと、創造性は右脳の働きになります。システム思考はどちらかというと左脳の働きになります。

この右脳の働きと左脳の働きの連動と切断によって洞察が生まれる。洞察とは先見性であったり、先を見通す力です。これは右脳だけ、左脳だけの働きではなくて、2つの異なった機能が連動し、かつそれを切断してできる。

したがって、すごいリーダーたちは右脳と左脳をよく連携させ、あるいは切断するそれができてる人だなというのがひとつの特徴ですね。

米国で興味深い調査がありまして、1,600人の子供たちを5歳から23歳まで追跡調査したデータがあります。5歳時点では1,600人のうちの98%が創造性という意味合いにおいては天才的というカテゴリーに入りました。これが年を追うに従って、だんだんその数字が低くなってくる。23歳時点では何%ぐらいの人が創造性の意味合いでいうと天才的だというカテゴリーに入ったのでしょうか。

答えは2%です。5歳時点で98%だった同じ人たちを20年ぐらいずっと追跡調査したんですよ。それが23歳になっちゃったらもう2%ぐらいしか想像性を発揮できる人がいなくなった。23歳になったら、大学を出て新入社員としてみなさんの会社に入ってくるわけですね。それで、新入社員の入社式で社長が訓辞をいう。「これからは創造性が大事だ」と。でも、その時点でほとんどの人がもう左脳しか働かない人間になっているんですよね。

右脳というのは潜在意識です。私達はいろんな情報を右脳に蓄積している。それが右脳と左脳をつないでいる脳梁を通じて、左脳に吐き出されるんですね。右脳から吐き出された情報を左脳が形にしてくれるのですが、そのときは右脳と左脳は切断された状態のほうがいい。

我々の脳っていうのは、徘徊、ワンダリングがデフォルトの状態なんです。だから、意識を集中するというのは相当な努力が必要なんです。脳は放っとくと頭の中でおしゃべりが始まっちゃう。我々の集中力を阻害する要因っていうのは、他人のおしゃべりではなくて、じつは我々の頭のなかのおしゃべりにあります。

だからこそ、右脳と左脳の連動と切断が「ひらめき」に対してはすごく大事なんです。

すごいリーダーたちの特徴をマインドフルネスの観点から見ると

リラックスしていながら、逆に集中している状態を作っている

 

すごいリーダーたちの特徴をマインドフルネスの観点から見ますと、集中と心のデフォルトの状態であるワンダリングの状態をうまく使い分けてるんですね。ひらめきは頭がワンダリングするときに起こります。集中すればひらめきが起きるのかというと、そうではない。

偉大な発見とか偉大なひらめきは、脳の中の状態としてはα波が出た状態で起こる。リラックスしていながら、逆に集中している。「集中しよう、集中しよう。すごいアイデア生み出してやろう。すごいキーワード出してやろう」などと思っているとアイデアは出てこない。そうではなくて、自然に頭の中がいろんなことを徘徊してるような状態。けれども、すごく集中して研ぎ澄まされてる状態。ひとつのことだけじゃなくて、いろんなことが頭の中で湧き起こってる。そういうカオスみたいな状態からすごいアイデアが生まれるんですね。この集中と拡散を意図的に使い分けている。

たとえば、ジョブズであれば座禅をする。そのときは集中しているわけですよね。そうじゃないときには、ソファか何かにひっくり返ってボーっとしているように見えるけれども、じつはボーっとしてマインドワンダリングしてるときのほうが、脳はエネルギーをたくさん使っているのです。

自己に対する集中と外界に対する集中。これらがビジネス戦略、新しいもの、斬新なものを生み出すには必要になってきます。

優れたリーダーに共通している能力

リーダーシップのオペレーションシステム

 

優れたリーダーたちに共通してるものとして、今度は能力にフォーカスしてみましょう。

私はリーダーシップのオペレーションシステムと呼んでます。パソコンにもOSとアプリケーションソフトがあるがごとく、リーダーシップにも私はオペレーションシステムとアプリケーションソフトがあると思ってます。みなさんの会社でもリーダーシップとかマネジメントのスキル研修をやってると思うんですが、プレゼンテーションだ、ファシリテーションだ、コーチングだ、問題解決技法だっていろいろやる。ただ、これらはみんなアプリケーションソフトにあたるんですね。

ところが、アプリケーションソフトは最先端のものを持ってきても、肝心なインストールされる側の受講者のWindowsのバージョンがいまだにVistaとか95とか古いものだったらどうでしょう。動かないですよね。WindowsあるいはiOSといったオペレーティングシステム、OSの基本ソフト自体を最新のものにアップグレードし、かつ、つねにアップデートしないと駄目ですよね。

私がGEのクロトンビルでリーダーシップをずっと教えていたときに、非常に基本的なことを徹底して教えていたんですね。時流に流されるようなテンポラリーな話はまったく教えません。なぜならば、時流に流されたスキル的なものを一時的に取り入れたとしても、環境が変わったら、すぐにそれは使いものにならなくなる。そうじゃなくて、もっと普遍的に使える、あるいは環境がどう変わろうが必要になってくるような、根源的な部分のリーダーシップを徹底して教えていたのです。

振り返ってみるとそれはオペレーティングシステムだったなと思って、リーダーシップOSとネーミングしています。いろいろな構成要素があると思いますが、クロトンビルで教えてたのは3つですね。

まず1つ目は自己認識能力。Self-awareness。Know yourself。自分を知るということです。2つ目は共感能力。これはEmpathyといいますよね。人の心の動きをつかみ取る能力が共感能力です。3つ目は文脈理解洞察能力。文脈理解の能力はContextual intelligenceといって、最近米国では非常に盛んになってます。

1番目の自己認識能力というのは、別の言葉に換えれば自己客観視能力です。自分を客観的に見ることができるか。自分を客観的に見ることができない人間がリーダーになるとどういうような結末を迎えるか。これは、ご承知のように「俺は大丈夫だよね。俺は間違ってないよね。俺は全く問題ないよね」と、わがまま放題に振る舞う。裸の王様ですよね。

GEを20年率いたCEOのジャック・ウェルチがリタイアするときに、いろんなメディアにインタビューを受けたのですが、そのなかのひとつが「ウェルチさん、あなたは20世紀最高の経営者と呼ばれてる。どうやってそういう人になれたのか?」っていう質問に、彼はたった一言「Self-awareness」って答えて終わる。「自分を知るってことだよ」と。CEOのジャック・ウェルチの後を継いだジェフ・イメルト。イメルトは「リーダーシップというものは終わりのない自分探しの旅だ」と言っています。

自己客観視能力というのは、自分の言動、発言や行動、振る舞い、そういったものも当然ありますが、もうひとつ大事なのはEmotional Self-awarenessですよね。自分の心の状態がいまどういう状態であるかということについて、みなさん気付いてますか?

2つ目の共感能力っていうのは、普通は他者がどういう気持ちでいるかなという、人の心の動きをつかみ取る能力と定義されていますが、エグゼクティブレベルの人たちをには人から共感してもらえる能力も必要だよね、という話をしています。ポイントは人に共感するだけじゃなくて、「他者から共感してもらえますか?」ということですね。

たとえば経営者の人が「今年の年度の目標はこうだぞ。戦略はこうだぞ」って打ち出すわけです。それは、経営企画の人がおそらく作ったであろう数字あるいは文字、彩りきれいなスライドが出される。誰も何の文句もつけようがない。ロジカルなプレゼンテーションです。

「でもな」と。「上から押し付けられてやるのは……」という状態になったことありませんか? 頭では理解できるんだけど、何か腑に落ちない。前向きに能動的に取り組もうと思えないなってこと、ありませんかね。これは、やはり情動的な共感を得てないからですよね。

リーダーには、知的共感のみではなく、情動的な共感、エモーショナルにも共感してもらえる能力が必要なんです。それは、どうやってやるのか? これは、やっぱり伝え方が重要だと思うんですよね。スライドの作り方で情動的共感を得ようと思ってもなかなか難しい。基本的には伝え方であったり、熱が入ってるかとか、想いが入ってるかとか、そういうものがないとやっぱり情動的な共感って得られませんよね。

3番目は、やっぱり文脈っていうのはすごく大事で、「ここで起こったことが次ここなんだろうな。そして、ここなんじゃないかな」と、先を読んでいく。つながりですね。文脈を読み切ることができるかどうか。

この間までGEのCEOだったイメルトは、「自分がCEOになって最も学んだことは文脈である」と言ってました。コンテクスト。たとえば、Appleがインドのマーケットで最初失敗したのは文脈を読み切れなかったんですよね。

そういう文脈を読み切るっていう力。これもすごく大事です。リーダーシップの研修はこの3つをベースにして教えるようにしています。

(前半終わり、後半に続きます)

 


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