2016.09.9

東京海上日動火災保険がつくる、脱・「研修頼り」の育成体系~「発意」で育てる×育つ人材開発~

今回のセミナーレポートは2016年6月8日(水)に行われた「Human Capital 2016」

東京海上日動火災保険がつくる、脱・「研修頼り」の育成体系~「発意」で育てる×育つ人材開発~
についてのセミナーレポートをお届けします。

【講演者】
東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 人材開発室 次長
本田 淳 氏

講演の冒頭に、弊社リ・カレント株式会社 代表の石橋真より
リーダーシップとフォロワーシップの強化によるチームワーク開発についてご紹介いたしました。

リ・カレント株式会社は「リーダーシップ×フォロワーシップ=チームワーク」をテーマに、「協働」と「共育」の組織文化をつくり「感謝と笑顔」に満ち溢れた「働楽社会」の実現に貢献したい、と本気で考え取り組んでいる会社です。
そうした企業理念と東京海上日動火災保険様が取り組む『「育つ/育てる」両面からの人材育成体系構築』に親和性を感じ、同社人事の最前線に立つ本田様に実践事例をご紹介いただけないかとお願いし、今回の開催となりました。
入社から20数年、営業一筋“アンチ人事”だったと話す本田氏。
突如として人事に任命されてから1年8カ月間でのお取り組み内容について、お話しいただきました。

中期経営計画に織り込まれた 【「日本で一番『人』が育つ会社」を目指す】 のインパクト

東京海上グループの長期ビジョンである「100年後も良い会社”Good Company”を目指す」。
これを受けて、東京海上日動では2015年度より中期経営計画に「日本で一番『人』が育つ会社」を目指すということを織り込みました。人材育成に関する内容を大々的に取り上げることは、同社の137年間の歴史の中でも異例のことです。

育成方針では、育つ側/育てる側それぞれに次のようなことを求めています。
・育つ側⇒発意=自身がどうなりたいかという思いをもって、自ら学び、成長していこうとする姿勢
・育てる側⇒「こうなってほしい」という思いと責任感を原点に、下位者の「発意を引き出す」こと
「育つ側の発意こそ、人材育成に不可欠です」と本田氏は述べます。
こうした育つ側、育てる側両面のモデルを示すことで、同社は、上位者自身も下位者に向き合い、下位者を育てていくプロセスの中で共に「育つ」というサイクル=「永続的な成長スパイラル」を形成することを目指しています。

育成方針の背景

このような育成方針が打ち出された背景としては、業務量の増加、マネジメント範囲の拡大、働き方や価値観の多様化といった要因があります。
本田氏によると、現場で起きていたのは、以下2つのような状況でした。
・「育つ側」「育てる側」どちらも目の前の仕事をこなすことに終始し、成長の機会を与えられるのを待つだけの社員が増える
・「育つ側」と「育てる側」の対話が不十分になる
また、社内では「育成=研修」という社員の短絡的な思考や、「育てる側」が持つ『私は育成を頑張っている』という思い込み、『やらないのは現場が悪い』という人事の思い込みといった障害もあったかもしれないといいます。

育成方針に対する社員の反応

育成方針を発信したことで、社員からは様々な声が寄せられたそうです。
「厳しいメッセージだと感じました。育つ側に対するメッセージのインパクトが強いです」
「グローバルコース(全国)・エリアコース(地域)を問わず、会社が変化していることを感じます」
「このメッセージが発信されたことで、自主勉強会の企画等を積極的に行いやすくなりました」

「『日本で一番』という言葉を選んだのは社員からのこうした前向きな反応を狙ってのものでした」と、営業として20数年間を過ごし、現場の気質を知る本田氏は語ります。

また、社員から多く挙がった質問には、次のようなものがありました。

Q.1「どんな会社を目指すのか」
Q.2「『育つ』のは誰か」
Q.3「どうやって『日本で一番か』を評価するのか」

本田氏は、これらの質問について次のように回答しています。
Q1.とQ.2に対しては、「東京海上日動グループに愛着を持ち、会社の中で活躍し続けてくれる人材が一人でも多く育つ会社を目指す。また、その中で一部の層だけということではなく、全員が少しずつでも良いので育ち、その総和が『日本で一番』となることを目指す」と回答しています。
また、Q.3に対しては、「何をもって『日本で一番』とするかについては、研修時間数や研修に関するコストといったKPIを設定することも検討したが、事業環境等が異なるため、他社と比較することに意味はないこと、そして、人材育成の基本はOJTであり、育成に終わりはないという考えからKPIは設けていません。逆に質問者へ『日本で一番人が育っていると感じる職場は、どんな職場だと考えるか』を問いかけることで、社員一人ひとりが主体的に考えて取り組む風土を組織に根づかせるよう取り組んでいます」と述べています。

具体的な人材育成施策

東京海上日動火災保険では主に以下の施策をとりました。
施策 ①OJTツールの拡充
施策 ②人材育成サイクル
施策 ③Off-JT

それぞれの代表事例について、本田氏より当日ご紹介いただきました内容を一部抜粋してお伝えいたします。

施策 ①OJTツールの拡充

同社において「育成上手」と言われる社員たちが持つ暗黙知を形式知化すること、人材育成のうえで重要となる思いや考え方を明示することをねらいとし、『育てる本』『育てる本(事例編)』『人材育成八訓』を社内で展開しました。

『育てる本』『育てる本(事例編)』は「育てる側」が育成にあたってのヒントとなる、人材育成に関する知識や社内での好取組事例を集めたものです。
現場で活用されるために意識した点は、「作ったものの使われない」事も多かったOJTツールのこれまでの反省を踏まえ、活用ツールを人材育成サイクルやマネジメント層の研修の事前読本にするなど、他の施策と連動させたことだと本田氏は言います。

施策 ②人材育成サイクル

人材育成のPDCAを回す仕組みとしてつくられたのが、人材育成サイクルです。

育成サイクルの柱は2つ、役割チャレンジ制度人材育成会議です。
役割チャレンジ制度は、キャリアビジョン実現に向けた定期面接制度を指します。
これまで行われていた面接では、「育つ側のキャリア」についてほとんど話されていないというのが実態でした。そこで面談の際、必ず冒頭でキャリアビジョンを確認して面接するように変更しました。その結果、約8割の社員が自身のキャリアについて考えるようになったという結果が得られました。
この面接で聞き取った内容をもとに、社内でのキャリア育成研修や、下記の人材育成会議で各社員のキャリアビジョン達成に向けた育成プランを設定しています。

人材育成会議とは、部下の育成に関する徹底論議の場です。
部支店の部長・支店長、全マネジャーが集合し、それぞれのマネジャーが育てるメンバーの育成について論議します。
また、チームを横断しての評価を行うことで、他チームのマネジャーから見た下位者の評価を知り、新たな視点を得られると同時に、「育てる側」であるマネジャー自身が「育てる力」を有しているかどうか評価される場になっているのです。

施策 ③Off-JT

Off-JT施策の中で特徴的なのが、マネジメント研修です。
マネジメント研修では部長・支店長がファシリテーターとなり、ロールプレイング動画でフィードバック面接等のNG例・解説・OK例を視聴し、ディスカッションを通して、実践的な対応策の習得に取り組んでいます。
取り上げる内容は毎年、前年度に要望のあった内容を反映させており、「現場で、いま求められているもの」に応える取り組みを行っています。

また、各施策を浸透させるための工夫として、社員の目に施策内容が触れる機会を増やすため、社内ポータルサイトのトップページや社内報を活用しています。

今後の課題として以下の4点を挙げ、本田氏は「まだまだやるべきことは多いと感じます。本日参加いただきました皆様と情報交換をしつつ、こういった課題を一つひとつ解決したいと考えています」と講演を締めくくりました。
・社員の発意をどうやって引き出すか
・「育てる力」をどう評価するか
・研修での学びをどのようにしてOJTで活かしてもらうか
・会社の中長期戦略に合致した育成をいかに実現するか

ご参加いただいた方の声

・「育てる」ことが自身の成長につながるという点にフォーカスしている点が興味深かった
・スローガンに向けて、本気で人材育成に取り組んでいると感じました。人事の熱意が無いと社員は
育たないと思う
・発想を具体化していること、その質に感銘を受けた

講演を終えて

「人材育成は育つ側の発意が不可欠である」「人材育成の基本はOJT」といった、人材開発に取り組む上での本田氏の確固たる想いが、随所に詰まった講演でした。

もっとも印象的だったのは、本田氏の思い、人事部としての取り組みもさることながら、中期経営計画で示された育成方針に対して社員のみなさんから様々な声が挙がったことです。
育てる側のトップである経営層の思いに、育つ側である社員が一丸となって応えようという動きが、何よりのフォロワーシップの発揮そのものであると感銘を受けました。
育つ側と育てる側のどちらか一方ではなく両面に目を向け、かつ双方が相乗的に成長していくという東京海上日動火災保険様の育成体系はまさに、弊社が大切にしている「リーダーシップ×フォロワーシップ=チームワーク」の考えを現場に取り入れ、実践されている体現例ではないでしょうか。

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