2017.09.20

五十嵐英憲講師に聞く Part.1 「個人、組織を伸ばす本当の目標管理とは?」

リ・カレントのユニークなプロフェッショナルパートナー講師たちが、人事・人材開発に関する熱い想いを語るウェブコラム「ウェブロコ!」。

今回は、日本のビジネスシーンに「目標管理=MBO-S(”チャレンジ目標”と”セルフ・コントロール”によるマネジメント)」をいち早く取り入れ、『目標管理の本質』などの著者としても知られる五十嵐英憲さんにご登場いただきました。

ドラッカーが提唱した「部下が自主的に目標を設定し、コントロールすることで成果を出す」というMBOの本質に迫り、「本当の目標教科書」を追求しつづける五十嵐さんの考え方は、個人、チーム、組織を伸ばすマネジメントや管理職の方を中心に大きな支持を得ています。今回はリ・カレントの講師も務める楠麻衣香が聞き手となり、五十嵐さんの考え方の根本にあるものをご紹介していきます。

目標管理=MBO-Sによる個人、チーム、組織を伸ばすマネジメント研修を行う五十嵐英憲講師

 

成果さえはっきり合意ができれば、
目標作りは難しくない

楠:五十嵐さんにあえてお聞きしますが、よい目標ってどのような目標なんでしょう?

五十嵐:よい目標というのはね、仕事の成果。「自分の仕事の成果は何ですか?」と聞かれたときに、きちんと答えられて、なおかつ周りの人が「そうだよね」というものを自分のなかで定義できているかどうか。たとえば、ある人に「あなたの仕事の成果は何ですか?」って聞いたら、「受注を取ることです」と言ったとするでしょ。そこで「本当にそれは成果なのか?」と、言われたときに、確たる根拠と自信を持って答えられる人は少ないんですよ。

だから、よい目標の出発点は、自分の仕事の成果を定義することかなと思っているんです。僕らの仕事は非常に難しいよね。僕の仕事の成果は研修に集まってきた人が、研修が終わったときに「いい研修だったね」と、刺激を受けてくれたことを成果と考えるか、職場に戻ったときに、研修で学んだあることを仕事のなかでうまく使っていることを成果と考えるか。

この線引きが非常に難しくて、受講者の会社にまで追いかけていってフォローすることはできないから、僕のなかでは研修に来た人が、研修が終わったときに、「来た意味があったな」と感じてくれたら、その度合の大きさを仕事の成果としようと、僕はいまのところ定義してます。いまのところはね。

でも、それは一般論の研修としては、そういう定義は正解かもしれないけれど、ある会社に長年入り込んで、その会社のなかで研修をやっているような場合には、「研修の場面で感動しました」っていうことを仕事の成果にしてしまうと会社として困るでしょう。「五十嵐さんに顧問料を払ってるのは、うちの社員の行動変容を期待しているんだ」と、「行動変容が起きた時がははじめてあなたの成果ではないのか」と言われたときに反論できないから。で、考えちゃうわけですよ。それくらい、簡単には答えが出ないかもしれない。

楠:五十嵐さんが受講者の方に届けたい、伝えたいときに、こだわっていらっしゃることは何でしょうか?

五十嵐:目標作りでこだわっているのは、もちろん仕事の成果をベースに、目標につながなきゃいけないんだけどね。成果を定義して目標化しなければいけないんだけれども。

一番僕がこだわっているのはね、成果さえはっきり合意ができれば、目標作りはそんなに難しくないと思ってるんです。いまは成果の議論が希薄だから、当事者が納得しないまま目標が作られて、「営業は売上目標が目標だ」といわれると、何となく「そうですね」という状況になっているでしょう?

一番難しいのは、目標ははっきりしたけれど、どうやって達成するかがわからない。そこから先が進まなくて、目標管理ってそこでストップしちゃうんですよ。
だから、僕が自分の経験のなかですごく大事にしたいのは、どうやって目標を達成するかっていう、目標達成手段の探索という部分が命だと思ってるんです。目標は決まったけれども、そこで目標設定が終わったと思ってもらっては困るので、その目標を達成するときに、やっぱり手段を持っていないと行動を起こせないから。

そう思うのは、化粧品会社で営業をしていた時代の失敗体験があるからなんです。僕は営業成績が上がらない営業マンを5年くらい経験しましたけれど、僕が何で成績が上がらなかったかといえば、手段がなかったからなんです。仕事の成果はお仕着せだったけれども、「今月は1000万」とかって売ってるからそれだけ降ってくるわけで……。自分も営業マンだから「これは売上稼がなきゃならない」という責任感があるので、すっきりはしないけれど、当時は6割方納得していたんです。

でも、どうやったらこんな目標が達成できるのか、方法論がないわけです。自分の経験のなかにある方法論だけでは絶対に達成できない数字ですから、どんな目標を立てても、それで行き詰まっちゃうわけですね。で、何をやったかというと、客先だけは回ろうと。「客先を回ること」が仕事になっちゃうんですね。当時、そんな言葉はなかったけれど、客先にソリューションを提供しているわけでもなければ、ほかに何をやっているわけでもない。ただ単に客先を回っているだけ。僕のダメな営業マンの時にしていた行動です。そこで、業績を上げ始めるきっかけになったのは、方法論を教えてもらってからですね。

方法論っていっぱいあるんですけれども、この局面ではこういう方法論が必要なんだ、みたいなことをティーチングしてくれる上司に巡り合ったんです。厳しい人でね。だけど、その方法論を実践すれば、やっぱり自分の方法論を少し工夫するようになる。方法論が刺さるとね、成果って上がるんです、必ず。必ず上がるんですよ。僕が27歳くらいのときに経験したことです。

そのときの想いが染み付いてるものですから、よい目標作りのなかには、方法論をセットしなきゃいけない。この方法論をセットするためにどうするか、ということをもうちょっと真剣に考えていかないと。到達目標ははっきりしたけれど、手段、プロセスがない目標はダメっていうのが、僕のいまの想いなんですよ。そういうメッセージをね、受講生の人に伝えていきたいなと。

広げられる可能性があるのは中堅社員。
課長職になってから「課長研修やりましょう」
というのは、僕はもう遅いと思ってる

リ・カレント、五十嵐英憲講師「目標管理、MBO-Sというテーマでは広げられる可能性があると思っているのは中堅社員。課長職になってから課長研修やりましょうというのは、僕はもう遅いと思ってる」

楠:目標管理を深めながらも、次々と新しいことにチャレンジをする五十嵐さんのエネルギーはすごいですね。

五十嵐:きっかけがあったんですよね。人間ってきっかけがないと行動は変わらないわけですよ。そのきっかけがいっぱいあったんですね。それから「経済的にやばい」っていうきっかけもあるじゃないですか(笑)。「収入がどんどん減ってく。やばいな。このままいくとゼロになっちゃうんじゃないか。歯止めかけなきゃいけない」みたいなこともきっかけになるでしょう。

やっぱりきっかけがあるからそうなるんです。だから、いまの僕はリ・カレントをきっかけにしたいと思っているんです。リ・カレントという団体をきっかけにしたいと思うんですね。

楠:これからの五十嵐さんが、MBO-Sという大きなテーマは多分ずっと続けていかれると思うんですけれど、どんな人たちにどういうものを届けていかれたいと思っていますか?

五十嵐:年齢的にいうと、部長クラスみたいなものが面白いんじゃないかと思うんだけど、残念ながら僕はビジネスのなかで部長職をやったことがないから自信ないんですよ。

外面的にはいろいろ構築したりしてるけどね。やっぱり実体験がないものって空虚なんですよ。そうすると、年齢的な説得力だけじゃ受講者の方に対して無理じゃない? だから部長という階層も魅力的なんだけれども、ちょっと難しいかなと。

いまもっと広げられる可能性があると思っているのは中堅社員。課長職になってから課長研修やりましょうというのは、僕はもう遅いと思ってる。やっぱり中堅社員のときの鍛え方。もっと言うと、リ・カレントでも言っているように、3年目・5年目・7年目とかの、20代から30代前半にかけての鍛え方みたいなものが、徹底的に重要じゃないかと思うので、そこに入っていきたい。

ところが難点がひとつあるんです。それは年齢的な問題でね。やっぱり、若干ジェネレーションのギャップみたいものがあるんです。
僕、自信ないもん。いまの20代の子がどんな音楽聴いているのかとか。こんなの音楽じゃねえよ、少なくともオレの心を打つメロディではないよとか、全然波長合わないよね(笑)。

リ・カレント、五十嵐英憲講師「目標管理、MBO-Sでも、リ・カレントのいう3年目・5年目・7年目、20代から30代前半にかけての鍛え方が徹底的に重要ではないかと思っている」

だから、これはもう人間そのものが変わってるなと。僕らが育った昭和の終戦後の世代といまの人だとあきらかに人間が違うから。そういう点では、ちょっと焦りはあるんです。それは五十嵐という個人対中堅社員でガチンコをやったのでは、やっぱりズレがあるだろうというね。

でも、リ・カレントと組んでやると、その部分をリ・カレントで埋められるだけのものを持ってるだろうなと思うんです。そのなかで、僕が持っている部分を、目標管理という切り口で若い世代に訴えていけば、受け入れてもらえるんじゃないかと思っていて。そういうのが僕のこれからの将来。将来っていったってあと10年だからね。(笑)

コンセプトとしては、世代間での「仕事って面白いよ」というクロスカルチャーはやらなきゃいけないし、やったら面白いしニーズもあると思うんですよ。ただ、その方法論ですね。どういうものが提供できるのかとか、受講者オリエンテッドでみたときに、受講者が違和感なくトータルのプログラムを受け入れてもらえるようにできるのか。そういうところが必要で、そこの細かいアイデアを考えなきゃいけない。そこは、工夫をしなきゃいけないところかもしれないけれど、少なくとも受講者が受け入れてくれる講師でいようと思ったら、受講者の状況は知っている必要はあるかなと思うんです。そこの情報のインプットは丁寧にやる必要があるので。

楠:こういうお話を聞いていると、五十嵐さんのご体験ももちろんベースにあると思うんですけれど、基本的に受講者オリエンテッドで、彼らが何に悩んでるかというところから、どんなボールを投げたらいいんだろうと、ずっとやり続けているという印象があります。

五十嵐:それは、そうじゃないです。いままでは、そこまで考えなかったですね。仕事が順調のときは、こちらのペースみたいなもので大丈夫だと思ってたから。いま振り返ってみると、そこを丁寧にやることが大事で、受講生には実際言っているわけですよ。「顧客満足をきちんとやってますか?」と。

そう言っていながら、やっぱり自分の仕事の顧客満足のレベルがね。そういう点ではもうワンランク、ハードルを上げないと差別化できないんじゃないかなと。そういう感じをいまは持っているので。事前の情報収集が大事だから、研修が決まったら客先に行って可能な限り情報を聞くとか、どんな目標を作っているのか教えてもらうとか、何に悩んで何に興味があるのかみたいなもの、事前課題などを手に入れて、手に入れたものはしっかり読み込むとか、そういう研修の前段階の、Beforeの手間暇もしっかりかけて研修をやるということができれば、距離感をある程度縮めることはできるかな。

Part.2 「問題解決や論理的思考でも完璧な論理は作れない」に続きます

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