2017.09.20

五十嵐英憲講師に聞く Part.3 「セルフコントロールの力をつけないと、目標管理のコンセプトは機能しないんじゃないか?」

目標管理、MBO-Sについて、
いま思えばもっとやっておけばよかったかな

五十嵐:いまは目標管理がまたブームですから、ほかの会社もきちんとやろうと思っていると思いますが、当時はまだMBO-Sってコンセプトをきちっと説明できる人が、講師としてあんまりいなかった時代なんですよ。だから、「飲料メーカーさんで何をやってるの?」って情報交換をするでしょう?

そうすると、「五十嵐っていうのがいてねえ」みたいな話になるんですよ。そういう話がほかの会社に、たとえば総合家電のメーカーさんに伝わったりとか、医療機器のメーカーさんに伝わったりとかして、何もしていないのにオファーがバンバン入ってきて……。

取り組む会社がでっかい会社だから、仕事が湧いてくるわけです。つい最近まで随分続きました。ただ、それはいい面ばかりじゃなくて、マイナス要素もあるんです。努力しなくなっちゃうんですよ。人間ってね、ダメなんですよ。絶頂期を経験してるとね。絶頂期が短ければ「これじゃダメだから、何かもう一皮むけなければいけない」という努力につながるのですが、僕は絶頂期が長かったんです。

楠:それはどれくらいの期間?

五十嵐:だってもう、1990年から2010年…もっと言うと、つい最近ですよね。2015年くらい。

楠:20年くらい、25年くらい……すごいですね!

五十嵐:厳密にいうと、それくらい営業活動なんかしなくても仕事は断るほどあったのが、結果的にいま苦労することになるわけです。その調子がいいときにもっと高みを目指すとか、もっと違う要素を入れ込んでくとか、そういう努力をすればいいけどね。人間ってそう調子よくいかないんですよ(笑)。

楠:その間は目標管理、MBO-Sというところで、マイナーチェンジなんかもされて……?

五十嵐:それは、いろいろやりましたよ。いろいろやったけれども、「根本的にもっとなんとかしなきゃいけない」っていうところはやっぱり弱かったですね。いま思えば、もっとやっておけばよかったと思うことがあります。

コンセプトなんて、1回聴いて、熱心な人が本を買って3回くらい読むと、自分でコンセプトを語れるようになりますよ。その程度のもんなんですよ。

ところが、対象にした企業が大企業なもんだから、一通りあたるまでに何年もかかってしまうんです。その間もマイナーなところで磨きをかけるみたいなことはいろいろやりましたよ。だけど、そこをぐっと超えるようなこととか、そこから派生する違う領域をもうちょっとやろうみたいなこと……具体的に言うと、よい目標作りみたいなのを深掘りして実務でやるみたいなことはちょっとはやったけど、力が入っていないわけですよ。コンセプトワークみたいなところを非常に重要視していたり……。

それからセルフコントロールって言葉が気になってしようがなかったですね。よい目標を作るというテーマと、セルフコントロールの開発っていうのは、MBO-Sの車の両輪のようなものなんだけれども、僕はセルフコントロールはいかにしたら実現できるのかというところにものすごい関心があって。

楠:それはどうしてでしょうか?

五十嵐:それはね、難しいと思ったから。「よい目標作り」というのは、当時さほど難しい作業ではないと思っていたんです。いまは難しいと思ってますよ。よい目標を作るのは本当に難しいです。今、近くにいる人に聞いてみてください。「あなたにとって、いい目標ってなんですか?」って言われてもね。簡単には答えられないですよ。いまは短絡的な目標作りが行われているのが多くの会社の現実だから、これにちょっと切り込んでいかなきゃいけないなと思っているんです。よい目標とはそういうものじゃないんですよと。

メンバーが何をやったら目標達成に近づけるか
リーダーは目標のための手段の基軸をもつこと

楠:冒頭におっしゃっていた「よい目標には手段、プロセスが必要だ」ということは、現場レベルでは、結構抜けがちですか?

五十嵐:リーダーの腕次第かな。

楠:むしろそこまで意識してやられているかどうかでしょうか?

五十嵐:一般的にみると、そういうリーダーは少数派だと思いますよ。そういうところに対して、リーダーなりに仮説を持っていないとサジェスチョンできませんから。メンバーがいま何をやったら目標達成に近づけるか、という導火線みたいなものをリーダーが持ってないといけないので。

それを全部教えるんじゃなくて、少なくとも導火線を投げるくらいのことができるリーダーのもとでは、アイデアが出たり情報収集したり、人が育つだろうなと思うんですね。

楠:いまは価値観が多様化していてスピードも速いので、リーダーの人たちもそこに追いつくの大変じゃないですか?

五十嵐:だから、リーダーは基軸になる考え、基軸になる導火線みたいなものです。たくさんメニューを持っているにこしたことはないけれど、自分がすべてわかっているわけじゃなくとも抑えどころってあるじゃないですか。

具体例で言うとね、『キリンビール高知支店の奇跡』 (講談社+α新書)で田村さんが何をやったかというと、「飲み屋さんに生ビールを買ってもらうための絶対的な抑えどころは訪問頻度だ」という経験則があったわけですよ。訪問頻度でアサヒビールに負けてるんだ。だからうち(キリン)のビールは飲み屋さんで扱ってもらってないんだと。

それをひっくり返す手段としては、「アサヒの営業マンより濃い頻度で行け」と、これが基軸になる可能性だったりする。じゃあ、濃い頻度で行くために目標設定をしようじゃないかと。「1ヵ月で200件は回りましょう」というようなことを一人ひとりが決めて、その訪問したときにどういうアプローチをかけるのかは、自分の持ち味みたいなものをフルに使ってやりましょうという自由度を与えた……みたいなものがあるんです。

そんな具合にね、リーダーは目標のための手段の基軸になるものを持つことが大事なんじゃないかなと僕は思っているんですね。万能っていうわけにはいかないですからね。

楠:その細かいやり方などは、メンバーによっても違いますしね。

五十嵐:だから、細かいところまで自分の経験をガァーっと出しちゃうと、押し付けになるだろうし。「それはあなたの持ち味だからできたんじゃないですか」ということにもなるので、微妙なところですね。

どうしょうもない人にはね、細かいこと僕は言いますよ。「ともかくこれをやれ」と言うときもあるけれどね。もうちょっとなんていうのかなぁ。力量的には上の人にはさ、「あとは考えろ」ってとこじゃないかなと思うんですね。

セルフコントロールの力をつけないと、
目標管理のコンセプトは機能しないんじゃないか?

楠:先ほどおっしゃっていた、セルフコントロールのことをお聞かせいただけますか?

五十嵐:それもきっかけがあるんです。最初の頃、飲料メーカーのみなさんが目標の連鎖をきっちりやりましょうと。理念から始まって、中期経営計画、会社の年度計画、職場目標、個人目標と、この過程に一貫性がないとダメだから、この連鎖をちゃんとやりましょうと。そういうところを基軸にやってたんです。

これはこれで意味があったんです。当時は戦略を目標管理に結びつけるという発想がない時代で、僕が一番最初に書いた書籍が『目標管理の本質』(ダイヤモンド社)という本なんですけれど、そこに目標管理と戦略をドッキングさせるという内容を20ページくらい割いて書いたんですよ。これが当時話題を呼んで、大学院の学生たちが書く論文のなかでも結構引用されたんです。

つまり、目標管理について新しい視点を投げた人間がいると。それは中期経営計画と目標管理をドッキングさせるという視点だと。これは今日では当たり前ですけれど、当時はそういう発想が無かったんですね。

そのときに飲料メーカーさんの人材開発の人が、僕の研修をずっと見ていて、休み時間にこう言われたんです。「五十嵐さん、目標管理っていうのは、Management by Objectives and Self-Controlだ」「大事なのはセルフコントロールじゃないの?」とボソっと言われたんです。このボソっというのが、えらい突き刺さってね。

そういえば、いままでMBO-S研修と銘打った目標の連鎖を中心にやっていて、それは自分なりの満足感はあったんだけれども……。どうやったらセルフコントロールの面積を広げることができるのかということについては、これまでほとんどノータッチだったから。研修の現場では「セルフコントロールですよ」「自律性ですよ」みたいなことを言っていて、それで説得力があったんです。だけど、よく考えてみたら「普通の人間はセルフコントロールができないから困ってるんじゃないか?」と。「セルフコントロールの力をつけないと、目標管理のコンセプトは機能しないんじゃないか?」と思って、そこから考えるようになりましたね。

普通の人が「セルフコントロールの力をもっと広げる」というところで、何かコンセプトを提供しないと、ドラッカーが言わんとしている本当の意味の目標管理にはならないのでは?という問題意識がずっと尾を引いていたので、セルフコントロールの研究は結構やりました。

「努力」というものを大事にしてほしい。
愚直なまでの努力を楽しんでほしい

楠:五十嵐さんにとって、MBO-Sって何ですか?

五十嵐:命。いまの僕からMBO-Sを取ったら、たぶんなにも残らない。これといった趣味があるわけじゃないし。趣味の世界で楽しいなとか、喜びを感じたことはないですね。MBO-Sというテーマについてなんとかしていくことがライフワークだし、そこに残りの時間はほとんど使っていきたいなと思うから、MBO-Sは僕にとっての命。胸に「MBO-S」って刻んでもいいくらいですよ。

楠:あっという間にお時間が……最後にお話し足りないこととかありますか?

五十嵐:研修に来てもらった受講生に、コンセプトとして何を持って帰って欲しいのかを一言で言えといったら、「愚直な努力を楽しもう」ということです。「努力」というものを大事にしてほしい。愚直なまでの努力をできれば楽しんでほしい。

「努力」というとつらいってイメージないですか? 僕はよく言われるんですよ。ある総合家電メーカーさんの人なんかにもね、「五十嵐さんって、結構難しいことにチャレンジしてるのを楽しんでますよね」って。「いや、オレ、楽しい楽しいって、苦しんでるんだよ」って言うんだけれど、周りから見ると「楽しんでますよね」って言われるから、そこにのめり込んでいるのが心地いいんだろうね。苦しいけど、心地いいみたいのがあるんでしょう。

受講生の人には、努力を大事にしたら、どこかで必ず自分に戻って来るんだよといいたいですね。それを否定するような人もいるけれど。無駄な努力はね。「運動神経が鈍いのにプロ野球の選手になりたい」とかいうのは止めてほしいけれども、努力というのは必ず自分に戻って来るんだよと。それを信じて、努力に手を抜かずに生きていくことが大事じゃないのかと。そういうことを僕はいいたいですね。

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