CASE
個人と組織も未来を変えていく
人材開発担当者様の挑戦ストーリー
「これからの社会人人生を
支える、財産になる体験を」
新入社員研修プロジェクト
ワークに込めたメッセージ
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ブラザー販売株式会社様
人事総務部 人財戦略グループ 舩橋優太様
「ブラザー販売らしい」社会課題解決方法を考える、
約一ヶ月間のプロジェクトワーク
2023年度より新入社員研修のプログラムを大きく変更したブラザー販売株式会社。
同社では新入社員研修が4月1日から約3か月実施され、その最終プログラムとして『ブラザー販売らしさを活かした社会課題解決策を考える』というプロジェクトワークを実施しています。新入社員だけでなく、伴走役の人事担当者にとっても大きなチャレンジとなったこのプログラム。実施に至った経緯や、背景にある想いを、育成担当者の舩橋様に伺いました。
対談者
ブラザー販売株式会社 人事総務部 人財戦略グループ 舩橋優太氏(写真右)
研修担当講師 リ・カレントプロフェッショナルパートナー 松本 悠幹氏(写真左)
目指したのは「本気で遊べる場所をつくる」こと
-新社会課題解決を題材とした一ヶ月間のプロジェクトワーク。
この研修を企画するに至った経緯は、どのようなものだったのでしょうか。
舩橋様(以下、舩橋):
この研修を企画した理由は大きく二つあります。
一つめは、インプット型の研修から脱却したい、ということでした。
新入社員研修はどうしてもインプットの機会が多くなりがちです。ですが、実際の業務では常に行動が求められます。自分の周囲にある課題をみつけて、解決していく……ということを繰り返し、徐々に扱える課題のサイズを大きくしていきます。研修の中でもそれを体感できる機会、いわゆるプロジェクト型学習を充実させたい、と考えていました。
その中で取り扱うテーマとして、「社会課題」というトピックは、彼らが興味関心のある事象を見つけやすいという利点があります。
当社はいわゆるメーカー販社であり、社会課題の解消を事業の中心に置いているわけではありません。
しかし、近年は社内でもSDGsや環境への関心は高まっています。そのような状況もこのプログラムを実施する後押しになったと思います。
もう一つの理由は、さらに抽象的になってしまうのですが、敢えて言語化すると「閉塞感の解消」と言えます。
当社では10年以上前から、三ヶ月ほどかけて新入社員導入研修が行われています。新入社員の育成を大切にするカルチャーが既に根付いていました。これは言うまでもなく素晴らしいことです。
ただ、私が育成担当に着任した数年前、新入社員研修のある場面に、言いようのない違和感を覚えました。
それは研修の最終日、成果発表会の時でした。
新入社員が今後の抱負を述べ、役員がそれを評価・コメントするという、どこの会社でもありそうな場面です。でも私はその場の中に言いようのない息苦しさを感じました。
その場の全員が『新入社員らしいふるまい』という尺度に則って発言し、評価・コメントをする。
確かにそれは必要なこともしれないが、人の育成や成長を追い求めるなら、もっと広い視野や寛容さがあるべきではないだろうか……。そういう疑問を持ちました。
この閉塞感というか空気のようなものは、若手社員の多くを覆っている気がしています。入社3~5年を迎える若手社員は、ほとんどが優秀で、それぞれの現場で活躍しています。しかし、やりがいを見出せない、承認欲求から逃れられない……というような傾向を感じ取ってしまうこともあります。
あることに対して熟達するためには、時に「それ以外のものを見ないようにする」ことが必要になります。
しかし、視野が狭くなりすぎれば、いつかは行き詰まり、窒息してしまいます。
「会社の中で期待される人材になること」、そして時に「俯瞰して自分たちの今いる場所、その外側の世界見ようとすること」、その2つのバランスというか、視点の移動ができるような機会を作りたい……という想いが強くありました。
—このプロジェクトワークは新入社員を対象とした内容としては、かなり難易度が高いものかと思います。
舩橋:
そうですね。新入社員にとっても、私たち人事にとってもハードなものになりました。
プログラムを通じて新入社員に求めたのは、「自分たちが解決したいと思える課題にであうこと」「解決策を自分たちで創作すること」そして「解決策にブラザー販売らしさが宿ること」彼らにもとめたのはこの3つです。
彼らはこれを0からやらなくてはいけません。知見のある外部の実践者や、先輩社員へ意見を聴くためにアポイントをとり、最終成果発表までの3週間のスケジューリングなど、すべて自分たちで計画します。ですから当然難易度は高くなります。
難易度が高くなりすぎないようにするために、松本講師、そして私たち人事の役割が重要になります。
新入社員は定期的に行なわれたメンタリングや中間発表の際、松本講師からフィードバックや解説を得ます。また私も、日々彼らが議論している様子を見守りつつ、ここぞというタイミングでは問いかけやアドバイスをしていきます。
私たち人事メンバーと松本講師、そしてリ・カレントの3者のチームが機能することで、ようやく新入社員が自走することが出来たと感じています。
今回(24年度)はこのプログロムを実施して二年目となりますが、昨年度を踏まえて、3者の役割分担が明確になり、最高の伴走チームが作れたと思います。これが本当によかったです。
「予想以上のものを見た」新入社員の発表に役員が驚く様子も
-受講者である新入社員の反応はいかがでしたか。
舩橋:
このプロジェクトワークに取り組む前に、新入社員は基礎的なビジネスマナーやビジネススキルを学び、また会社の事業やルールなどに関して理解を深めます。
そのあと、このプロジェクトワークに取り組みます。
プロジェクトワークの初日、それまでやってきた研修内容とのギャップも相まってか、「ブラザー販売に入社した自分が、どうして社会課題について考えるのだろう」と困惑した表情を浮かべるメンバーも多かったです。
プロジェクトワークの活動期間中は3~5人で編成されたチームで進めていきます。
グループの議論の深まり方や表情には、当初はかなりバラツキがありましたが、佳境にさしかかるに向けて、全員が議論に没頭していくのが感じられました。
-活動期間中にどんな変化があったのか教えてください。
松本講師:
(このプロジェクトワークが始まる前までは)考えたくても考えられずにいた、これまで「まぁいいや」で流していたものを言語化する術を身につけたという印象を受けましたね。
私は中間発表や毎週のメンタリングで新入社員のみなさんの様子を見ていましたが、プロジェクトが進むにつれて議論の中で視点の広がり・深まりを感じる場面が増えました。
最終成果発表会を聴講された役員や先輩社員の皆さんが、「そんな考え方をするんですね」とアイデアや視点の新鮮さに驚かれたり、発表内容によっては、「受け入れにくいな」と率直に反応されたり……という姿が見られたのも印象的です。
舩橋:
新入社員がそれぞれ自分で紡ぎだした意見、予定調和でない発表ができたからこその反応でしたね。
「正直なところ、ここまでのクオリティを予想していなかった」とコメントした聴講者もいました。
「発表のここがいい、ここがよくない」という趣旨のコメントだけでなく、新入社員の提示したアイデアをベースに聴講者同士が議論するような場面も生まれていました。
-プロジェクト内のどんな要素が、変化の要因になったと感じますか。
舩橋:
研修期間を通じて『あなたが本当に欲しいもの・伝えたいものはなんなのか』を新入社員には言語化させ続けていました。このプロジェクトワークだけでなく、研修の期間全体を通じて求めてきたことです。最後のプレゼンテーションで彼らが自分たちの言葉で語り、聴衆が何かを感じることが出来たのは、その積み重ねがあったのだと思います。
研修の初め、4月ごろは「これはどうしたらいいですか?」という質問が、彼らからよく聞かれていました。
その時私は大体「あなたはどう考える?」という問いを切りかえしていました。そういうコミュケーションを積み重ねることで、彼ら自身が今知りたいことや伝えたいことについての解像度を高めていく能力を獲得したように思います。
松本講師が先ほどおっしゃった、これまで「まぁいいや」で流していたものに対して「ああ、このことについてちゃんと考えてもいいんだ、真剣にやってもいいんだ」と認識した途端、表情が変わり、パンドラの箱が開いたかのように議論が止まらなくなるという機会をプロジェクトワーク期間中、何度も目にしました。
松本講師:
議論したことやアイデアの奔流を「期間内にどうやってアウトプットにまとめるか」がジレンマになっていたかもしれませんね。
舩橋:
最終成果発表会の30分前まで発表内容がまとまらずに困っているメンバーもいましたが、最後は自分の言葉で言いたいことを言い切ることができていました。
正直なところ私も(発表での)その言葉に感動してしまいました。
正解を当てに行くのでなく、自分の中で一番ぴったりとくる言葉を探し当てることが出来たのだと思います。
また、昨年は最終成果発表会の際、松本講師にオンラインで参加いただいていましたが、今年は対面で立ち会っていただいたことで、発表会の場のテンションというか、熱量が、昨年より一段増したと感じます。
研修を企画した当人としては、「ここまでのものができた」という手ごたえをつかむことが出来ました。
「一言、一秒ごとの勝負だという瞬間がたくさんあった」
-実施するうえで苦労された点、難しかった点はどのようなところでしたか。
舩橋:
今回のプロジェクトワークは費用・期間などの観点からも、前例のない企画でした。
しかし先ほど申し上げたとおり、ブラザー販売の中に育成のカルチャーが根付いていたので、この企画に関する社内での承認・合意形成には苦労しませんでした。
もっとも難しかった、というかエネルギーをつかったのは、プロジェクトワークを通して、彼らに対し、自分がその瞬間・瞬間にどんな言葉をかけるのかという点です。
例えば今年度で言えば、「長い間働くためには、自分自身を振り返る為の空白期間が必要だ」という議論のもと「サバティカル休暇」の普及を提案しようとしていたグループがありました。
最終発表の2日前までその方向で進めていたのですが、彼らの中にどこか納得しきっていないものを感じました。
私は「あなたたちは本当に『サバティカル休暇』がほしいのか? もしかしたら『休暇』はあくまで表面的なことで、もっと欲しいものは底の方にあるんじゃないのか?」と問いかけました。
発表までの残り時間がほとんどない中で、そういう指摘をするのは当然危険もあり、葛藤もありました。
でもこのプロジェクトワークで追求したのは『出てきた言葉が自分のものになっているかどうか』です。
だから指摘しないわけにはいかなかったし、最後の最後は彼らも素晴らしい発表にしてくれました。
期間中はこういう緊張感を常に背負っていたと思います。これは、研修期間中に新入社員と1on1を実施した際にも感じました。
彼らが皆と一緒にいるときには出てこない「誰にも言えなかったけれど、こういう葛藤やつらさがある」という言葉が、時にぽろっと出てくることがあります。
そういう状況に出くわしたら、こちらも立場とか鎧を全て投げ捨て、その時に必要な一言や頷きを返さなくてはなりません。
たじろいだり、安易な共感や励ましで済ませたら、彼らはすぐに見抜きます。一言、一秒ごとの勝負だという瞬間がたくさんありました。
この経験を通して、自分自身としても成長させてもらったように感じますし、彼らから受け取っているものの大きさを実感しています。
「自分の感性に忠実に、役割を発揮できる人を育てたい」
-今後求める人材育成、人材像はどんなものでしょうか。
舩橋:
近年当社に入社してくる社員はみなポテンシャルが高く、能力を発揮し環境に適応する、という面では申し分ないと感じています。
ただ、自分の感じていること、欲しているものを適切に感じ取り、それを言葉にする……というスキルは十分でないと感じるときもあります。
その技術を身につけ、自分の感性に忠実でありつつ、果たすべき役割を社会に提供できる。そういう人がたくさんいる会社になってほしいと考えています。
彼らが5年後、10年後にこの研修を思い出したとき「あの経験がすごく大切だった」と感じることができる体験になっていたなら良いと思います。
担当プロデューサーの声
リ・カレント株式会社人材開発プロデュース部プロデューサー 豊岡
「ビジネスに活力を、暮らしに楽しさを。すべての人に “At your side.”」
これは、ブラザー販売株式会社様の企業理念です。
新入社員の皆様は約1ヶ月間、難易度の高い課題に挑戦している中で”社会課題の渦中にいる人を助けたい”、”社会課題を自分たちの手で解決したい”という熱い想いが芽生えます。
その姿勢こそがまさにブラザー販売様が掲げる“At your side.”の精神であると感じています。
また、このプログラムを実施する上で舩橋様ご自身の熱い想いが新入社員の皆様にも伝わっていたと感じます。
インタビューの際に新入社員に対する気持ちをお話しいただく中で仰った、「承認も賞賛もいらないから君達の話を聞かせてほしい」という一言が印象的でした。
今回の研修企画を通して、まさに新入社員の“At your side.”であろうとし続ける育成への想いを体現するお手伝いができたと感じております。
大変お忙しい中でも快くインタビューに応じてくださった舩橋様に改めましてお礼申し上げます。
誠にありがとうございます。