1年後のあるべき姿から考える新人研修のコンセプト設計
2020.04.12

新入社員に必要なのは「ストレッチゾーン」への挑戦! 1年後のあるべき姿から考える新人研修の設計コンセプトとは

新入社員がまず経験するのは、入社直後の導入研修や業務研修です。
新入社員の導入研修は、これまで学生だった新入社員が社会人として仕事に向き合う姿勢を身に着け、マインドセットを行う機会であり、研修での学びが新入社員の1年後の成長を左右するといっても過言ではありません。

今回は、そんな新人研修設計のコンセプトについて3月に行った「『扱いづらいお客様』な新人が『愛されルーキー』になる 導入研修マインドセットのポイント」をテーマにした目ウロコ!セミナーの内容を振り返りながら解説を行います。

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目次・新入社員に必要なのは「ストレッチゾーン」への挑戦!
1年後のあるべき姿から考える新人研修の設計コンセプトとは

  1. 新入社員に必要なのは「ストレッチゾーン」への挑戦
    1. 新入社員に見られる傾向は「コンフォートゾーンにとどまりがち
    2. ストレッチゾーンへ挑戦するのに必要なのは自己効力感と働く動機
      1. 自己効力感は経験から醸成される
      2. ストレッチゾーンへの挑戦に必要な「働く動機」とは
      3. 新入社員が働く動機を持てない理由
  2. 新入社員育成のポイント
    1. ストレッチゾーンへの挑戦に必要なのは「自立・自律のマインドセット」
      1. 自立・自律のマインドセットは行動先行
      2. 新入社員に促したい3つのGood Action
  3. これからの新人育成のコンセプト「Flow×Meaning=Ownership」
    1. Ownership(主体性)が新入社員の成長に必要な理由
    2. 主体性を育てる2つの経験
      1. ①Flow 夢中に仕事をする経験
      2. ②Meaning 仕事の意味・意義を内省する経験
  4. 新入社員、1年後のあるべき姿から逆算した研修の設計を

1.新入社員に必要なのは「ストレッチゾーン」への挑戦

新入社員に見られる傾向は「コンフォートゾーンにとどまりがち」

新入社員によく見られる傾向として、新入社員が受け身で居心地のいい空間である「コンフォートゾーン」から脱することなく、「コンフォートゾーン」にとどまりがちな傾向があります。

人の成長を考える際に、成長に関わる3つの心理空間という考え方があります。この3つの心理空間とは、「コンフォートゾーン」「ストレッチゾーン」「パニックゾーン」のことです。

新入社員・人材育成・成長の心理的状態

コンフォートゾーンとは、新入社員にとって「居心地のいい環境」、つまり受け身で指示待ちな状態を指します。コンフォートゾーンにいたままでは、なかなか仕事での成長を見込めません。一方、不安やストレスを過度に感じてしまうパニックゾーンでも、健全な挑戦ができなくなってしまい、成長につながりません。

新入社員にみられる行動

新入社員の成長には、今までの自分の枠から少し背伸びした、ストレッチゾーンでの挑戦が必要です。

ストレッチゾーンへ挑戦するのに必要なのは自己効力感と働く動機

どうすれば、新入社員がストレッチゾーンへ挑戦できるようになるのでしょうか。キーとなるのは、「自己効力感」と「働く動機」です。

自己効力感とは、例えば仕事であれば「自分なら、この仕事をやり遂げられる」と思えること。自己効力感が低いと、「どうせやっても失敗する」と捉えるようになります。自己効力感が高い状態だと、ストレッチゾーンへも挑戦できるようになります。

では、自己効力感や働く動機は、どのように生み出されるのでしょうか。

1)自己効力感は経験から醸成される

「自己効力感」について提唱した心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感は次の5つの体験によって醸成させると述べています。

①達成経験・・・自分自身が何かを達成した、成功した体験

②代理経験・・・他の誰かが達成したのを観察した経験

③言語的説得・・・自身に、遂行できる、達成できると言葉で説明されること

④生理的情緒的高揚・・・ドキドキ、わくわくする高揚を感じること

⑤想像的体験・・・自身や他者の成功を想像すること

つまり、新入社員が、

・達成できる期待のある課題に取り組み、遂行できた経験をする

・同じように努力して達成した仲間を見る

・第三者から達成できたことに対して承認される

・課題を遂行して、失敗したこと、うまくいったことについて内省する

という経験を繰り返すことで、自己効力感が育つのです。

2)ストレッチゾーンへの挑戦に必要な「働く動機」とは

「働く動機」は、何のために働くのか、何のためにこの会社にいるのか、という働く理由のことです。新入社員は、働く動機が明確でない状態であることが多いのではないでしょうか。

なぜなら、働く経験をする前は、仕事に関する経験不足や、働くことへのバイアスがかかっている可能性があるからです。

<新入社員が働く動機を持てない理由>

・「なぜ働くのか」を考えさせられるような逆境・挫折経験が不足している

・「なぜ働くのか」を深く内省する力に欠けている

・「仕事」に対するネガティブな思い込みがある

新入社員の働く動機付けを妨げる理由

また、近年の新入社員の傾向として、「仕事は給料のための手段であり、我慢して取り組むものだ」と考える傾向があり、仕事による自分の成長や、社会への価値提供と考える割合は大きくありません。

(参考:2020年度の新人傾向は、自分の内的世界にとどまる”ハコ型新人” いまどきの新入社員の可能性を育む育成施策とは?

新入社員がストレッチゾーンに挑戦し成長するには、自己効力感を高める働きかけと、働く動機に目覚めるような経験が必要なのです。

2.新入社員育成のポイント

ストレッチゾーンへの挑戦に必要なのは「自立・自律のマインドセット」

新入社員が成長するために育成担当が行うことは、ストレッチゾーンにあたる課題を与え、挑戦する経験をしてもらうことです。新入社員がストレッチゾーンへ挑戦し成長を得るために重要なのは、課題にコミットすることと、挑戦した結果がどうあれ受け止められることです。

そのために、自立・自律のマインドセットが必要です。

1)自立・自律のマインドセットは行動先行

では、他者に依存した、他責の状態から、自己決定できる自立・自律した状態にマインドセットするためには、どうすればいいのでしょうか。

従来の新入社員研修では、マインドセットについての意識づけを研修で伝え、それを現場で実践するという方法でした。これからは、まず実践し、その経験を内省することで、経験を通じてマインドセットされていくという行動先行の方法を提案します。

新入社員の育成は行動先行のマインドセットから

新入社員の傾向として、「仕事は我慢して取り組むものだ」という前提を持っていることをお伝えしました。このように、仕事に対するネガティブなイメージを持った状態では、自立・自律して仕事に取り組むマインドは醸成されにくいといえます。

そこで、まずは導入研修で行動・言動から変えることで、ストレッチゾーンへ挑戦するためのアクションを理解し、できるようにしていくのがポイントです。

2)新入社員に促したい3つのGood Action

ストレッチゾーンに挑戦し、それによってポジティブな結果をもたらすのに必要なマインドセットを身に着けるための、3つの行動・言動(3つのGood Action)と、それらの行動を引き起こすための育成のポイントをお伝えします。

新入社員が良質な経験を積むための3つのgoodaction

①自己決定する

自己決定は、やる気を高めるほか、成功・失敗どちらの結果になってもポジティブな影響をもたらします。他人に設定された目標では、結果に対する責任を他人にゆだねてしまいがちですが、自己決定した目標に対しては、どんな結果に対してもポジティブな受け止めができ、また自己決定することで、他社決定の5倍のコミットメントを引き起こすといいます。

②ベストを尽くす

ベストを尽くすこととは、課題を与えた上司や先輩の期待値を1%でも上回るよう努力することです。仕事における能力面で上司や先輩の期待を上回ることは難しくても、新入社員が入社の瞬間から発揮できる価値があります。

<新入社員が発揮できる価値の例>

新入社員が発揮できる価値の例

育成担当者は、これら新入社員が提供する価値に気づき、感謝・感動を伝えるようにするとよいでしょう。

③与える

上司や先輩、顧客が何を求めるかを能動的に考え、行動する姿勢を指します。与える姿勢の反対は、「求める」姿勢。指示を与えてもらって当たり前と思い込み、相手からコミュニケーションしてもらうのを待つ姿勢です。

相手が何を求めているかを考え、行動する姿勢は、誠意や向上心、柔軟性など、人の感性に働きかけ共感や感動を与えます。このような「感性価値」は、新入社員が特に価値を発揮しやすいといえます。

3.これからの新人育成のコンセプト「Flow×Meaning=Ownership」

自立・自律のマインドセットによって、ストレッチゾーンへの挑戦の準備が整いました。新入社員育成のゴールは、「1年後、自己効力感と働く動機が醸成・形成されている状態」です。このためのコンセプトとして、「Flow(没頭)×Meaning(意味づけ)=Ownership(主体性)」を提唱します。

これからの新入社員育成コンセプト

Ownership(主体性)が新入社員の成長に必要な理由

Ownership(主体性)とは、仕事は自分のためのものであるという意識を持つことです。

仕事は苦役や我慢だという捉え方では、仕事をすることで徒労を感じパフォーマンスが下がってしまいます。一方、仕事をどのようにとらえるかも自分次第という前提のもと「自分にとって仕事とは○○である」が語れる状態では、仕事から充足感や使命感を得られ、より高いパフォーマンスを出すことができます。

主体性を育てる2つの経験

新入社員の主体性を育むには、仕事に没頭する経験、仕事によって得た結果や自分の感情を内省する経験の2つが必要です。

①Flow 夢中に仕事をする経験

「フロー状態」とは、心理的エネルギーを1つの目標に向けて集中して、行動できている状態を指します。できる、できないや必要性に関わらず仕事に夢中になって取り組み、強い達成感を味わう経験を指します。

フロー状態を経験することは、次のような効果があります。

・高いパフォーマンスを発揮できるようになる

・仕事の楽しさを発見する

・自分の成長に気づく

また、次の要素が満たされているとフロー状態に導かれやすいといえます。

<フロー状態を構成する8要素>

・達成できる期待のある課題

・行動への集中

・明確な目標

・直接的で即自的なフィードバック

・不快なこと、気になることを忘れる

・恐れを払い、成功を観る、高い統制の感覚

・自意識の消失による自己超越

・時間間隔の変容

新人育成では、明確な目標設定とともに、新入社員にとってチャレンジになる課題を与え、適宜フィードバックを心がけること等によって、いかに新入社員が仕事に没頭できる状態を作れるかを心がけましょう。

②Meaning 仕事の意味・意義を内省する経験

仕事を通じて得られた結果や、それに対し自分がどのような感情を持ったかを振り返る経験です。特に、「何にわくわくしたか?」「何が悔しかったか?」など、感情的な内省を促すことが重要になります。

コルブの経験学習サイクルを引用すると、具体的な経験を様々な面から振り返る力を養うことで、「うまくいった理由・うまくいかなかった理由」や、「自分にとって今回の仕事はどんな意味があったか」を概念化・言語化することができ、次の実践の場で応用し、学習を深めることができます。

コルブの経験学習サイクル

4.新入社員、1年後のあるべき姿から逆算した研修の設計を

新入社員の1年後の理想の姿である、「ストレッチゾーンでの挑戦経験を通して自己効用感と自身が働く動機が醸成・形成されている状態」を実現できるような、新人育成のコンセプトづくり、新人研修の設計について解説しました。

「好きこそものの上手なれ」という言葉の通り、仕事を楽しいと思えてこそ成長します。

新入社員が、仕事に没頭し、それをポジティブに内省できるよう、新人研修設計のコンセプトを考えてみてはいかがでしょうか。

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