徹底解説!「ジョブ型」で人事の何がどう変わる?~今さら聞けない「基本」と人事・育成の「これから」を知る~

2021.07.30

在宅勤務や時短勤務といった働き方の多様化は、コロナ禍の緊急対応を皮切りにますます加速しています。そんな中、大企業などを中心に導入が始まり、注目が集まっている「ジョブ型雇用」。人事の皆様も、情報収集を進めておられることと思います。

本コラムでは、ジョブ型雇用制度の基本を押さえながら、
「ジョブ型雇用制度の導入によって人事の役割・関わり方はどのように変化するのか?」人事制度の刷新を多くご支援してきた視点から、具体的にお伝えしてまいります。

【本コラムの解説者】

“ジョブ型雇用制度”の基本

まずは「ジョブ型雇用制度」について、基本をおさえておきましょう。

わかりやすく言うと、「ヒトに仕事を割り振る」のが、従来型の人事制度。Aさんという「ヒト」に、テレアポをしてください、資料を作ってください、と「仕事」を割り振っていくイメージです。
それに対して、ジョブ型雇用制度とは「仕事にヒトを割り振る」制度といえます。テレアポ、資料作成、といった「仕事」が先にあり、能力的に適した「ヒト」を割り振っていくイメージになります。

それでは、「仕事にヒトを割り振る」ジョブ型雇用制度を導入することで、何がどのように変化していくのでしょうか。

前提として、まず会社と社員の関係が変わります。

従来型の日本企業の会社組織において、会社と社員の関係は「保護者と被保護者」の性質を持っていました。時代劇でイメージするとわかりやすいのですが、店と番頭・丁稚など住み込みの務め人の関係が持っていた性質が引き継がれてきたのです。
ジョブ型雇用制度においては、先ほど述べたように、社員は会社に「就社」するのではなく、あくまで「仕事」に就く関係性になるため、会社と社員の関係性はあくまでも「対等」なものとなります。
具体的には、従来型の組織ではしばしば「会社都合での異動」が見られました。しかし、ジョブ型雇用制度のもとでは、社員は会社に就くのではなく仕事=ポジションに就いているため、会社の命令・辞令に対しても選択権を持てることになります。

昇格・異動についても、従来型制度とジョブ型雇用制度では、人材の流動性という点で異なります。
従来型の人事制度では、基本的に、能力が高くなれば昇進昇格が可能になります。
対してジョブ型では、仕事の枠=ポストを管理していく考え方になりますので、能力が高くとも、ポストが空いていなければ昇格することはできません。逆に、ポストが空いていれば、内部からの昇格も、外部からの採用も可能です。また、「会社ではなく仕事に就く」ジョブ型の考え方のもとでは、能力を高めたにも関わらず社内にポストが空いていない場合、他社の空きポストへ応募していくのは当然の選択となるでしょう。

つまり、「社」にこだわらず、「仕事=ポスト」を前提に人材を管理し、またメンバー側もそれを前提としてキャリアを構築することから、ジョブ型雇用制度においては人材の流動性が高まるといえます。

“ジョブ型”でどう変わる?~教育編~

それでは、会社組織における「教育」はどのように変わっていくのでしょうか。

そもそも、ジョブ型雇用制度(および、それを採用している外資系の企業文化)においては、「育成」という観点はかなり薄いということを念頭に置く必要があります。
個人の成長について、会社・組織が責任を持って育てるのではなく、あくまでも成長するその人自身が選択し、責任を負うという考え方がベースです。「パフォーマンスが上がるよう会社が施策を打って育てる」ではなく、「個々人が、そのポジションで求めるパフォーマンスをする」ことが前提です。

しかし、例えば、まだ経験の浅い若手人材の採用・育成という概念が失われるという訳ではありません。
ここでは幹部候補・次世代リーダー育成と若手育成を例にとって見てみましょう。

①リーダーシップ採用
リーダーシップ採用とは、若手人材を、将来の幹部候補生として採用するものです。MBAの取得など、一定のエントリー要件・資格を満たした若手人材が求められます。採用後は、ベースとなっている経営・ビジネスの知識を活かして実務経験を積み、幹部を目指すことになります。

②インターン採用
インターン採用とは、「お試し」という形で採用し、将来的に目指したいポスト・仕事に近いレベルで業務に慣れてもらい、習熟したタイミングで空きポストに応募するものです。

③エントリーレベル採用
エントリーレベル採用とは、従来型の雇用制度でいう「新卒」とかなり近い採用ルートといえるでしょう。採用後、まずは誰でもできる仕事からスタートし、実務経験を積みながら、自身の望むキャリアに準じて能力を高め、ポストへ応募していくものです。

従来型の採用・育成では、間口は「新卒一括採用」という形で統一され、その中から昇進・昇格・応募していくことで幹部育成・次世代リーダー育成などのプログラムへ分岐していく制度が一般的でした。
ジョブ型雇用制度における若手育成のルートを見てみると、幹部候補として採用・育成される人材と、いわゆる新卒採用として実務にあたっていく人材は間口からして分けられていることがわかります。

このお話をすると、
「現場のことがわからない経営層が育ってしまうのではないか」
という疑問・懸念をよく伺います。

幹部候補という人材を育てるにあたって、ジョブ型雇用制度に代表されるような外資的な人材育成では、
「優秀なピッチャーだからといって、優秀な監督になるわけではない」
という考え方をします。あくまでも、要件・スキルを持った人材を採り、要件に応じたパフォーマンスが求められるということです。

良し悪しではなく、ジョブ型との違いとして、従来型の日本企業の人材育成では、現場について良くわかっている「叩き上げ」の人材も、幹部候補・次世代リーダー候補として育て、昇進や幹部候補ルートへのキャリア選択を一般的に肯定してきました。

対して、ジョブ型雇用制度のもとでは、キャリアは完全に自己選択のものとなります。空きポストへの異動・昇格への手上げはもちろん、異なる職種・業務を経験したいかどうか、どのような教育機会を得たいかなども、自分で選択し、周囲に主張して機会を獲得することでキャリアを構築していくことになります。

また、さまざまな職種を経験したいのか、同じポジションで仕事をし続けたいのか、あるいは昇進・昇格を目指していきたいのか、どういったキャリアを良しとするのかもまた、個人の価値観にゆだねられていきます。

“ジョブ型”でどう変わる?~人事の役割(関わり方)・仕事~

ジョブ型雇用制度を導入することで、従来「人事」が担ってきた役割は大きく変化することになります。これまで見てきた組織や採用・育成については勿論ですが、最も押さえておくべき大きな変化は、ジョブ型雇用制度のもとでは、各部署のマネージャーが大きな人事権を持つということです。

マネージャーには、給与・評価・昇進昇格・配置など、これまで人事が担ってきた役割・権限の多くを持つことになります。
ジョブ型においては、ポスト管理によって人材の配置・育成を行っていくことはこれまで見てきた通りですが、例えば、空きポストに誰を配置するのか――内部から適任者を異動させるのか、外部から能力要件を満たした者を採用するのか、といったことについても、マネージャーが決定権を持ちます。

このように各事業部・部署に人事権が大きく移管されていった後の組織内では、当然ながら、人材育成や配置に関する社内の影響力・パワーバランスは大きく変化します。多くの日本企業では、事業部・部署の人事方針に対し、人事が介入していくことは難しく、また少なくなっていくと思われます。

それでは、ジョブ型に移行していった後、「人事」はどういった役割を担っていくのでしょうか。

各部署・マネージャーのサポート

これまで人事が行っていた業務内容を権限と共に全て各部署に渡すとなると、マネージャー側にも大変な負担がかかります。人材の流動性が高まることで、採用の難易度は従来以上に高まります。特に、過渡期においては、人材の流出が増える一方、適切なタイミングで必要な人材を採用することができない困難が予測されます。
また、マネージャーに人材の採用・配置が任される一方、そうした現場での人材マネジメントが、経営の方針・メッセージに沿ったものになり得るかという課題もあります。
人事としては、マネージャーに権限を委譲しながらも、人材配置・育成についてのアドバイス・助言をはじめとした丁寧なサポートを行っていくことで、各部との信頼関係を構築していくことが求められるでしょう。

個人のキャリア形成のサポート

また、ジョブ型への移行で大きく影響を受ける社員個々へのサポートは必須といえます。
ジョブ型を導入する多くの企業において、一定のルーティン業務や既存のポストへの見直しが行われます。具体的には、ジョブ型に対応した形に業務を整理・組み直す過程で、合理化・自動化できる部分についてはRPAが導入されるケースが多くあります。また、市場変化・業態変化に伴って、そもそも既存のポストが必要でなくなることも近年増加しています。

こういった変化を受けて、長年既存の人事制度下で業務にあたってきた社員の間で、大きなハレーションが起きることが予測されます。
人事としては、制度の変革がどのような目的をもって行われ、社員に対しては具体的にどのような変化がもたらされるのか、スピーディで細やかな情報発信を行う必要があります。
その上で、ジョブ型への過渡期において、急激に自らキャリアを構築することを求められる社員に対してのマインド面・スキル面でのサポートが求められるでしょう。ここまででも度々触れていますが、ジョブ型雇用制度のもとでは、これまでとは比較にならない比重で「自律したキャリア構築」を求められることに、大きく戸惑う社員は少なくありません。
新しい制度に適応してもらうためには、特に過渡期において、キャリア支援施策の意識的かつ積極的な運用がマストといえます。

After「就社」のエンゲージメント施策を模索する

何度も述べてきたように、ジョブ型雇用制度においては、「就社」ではなく「就職=就ポスト」という考え方が前提になるため、会社に対するロイヤリティといった概念も薄くなっていきます。欧米型のジョブ型雇用制度がそのまま日本にも輸入されていくのであれば、効率性と人材の流動性が極端に高まっていくでしょう。

しかし、社員の保護⇔貢献を前提とする従来型の雇用制度がつくってきた文化が一朝一夕で消えることは恐らくありません。ジョブ型雇用制度についても、こうした既存の企業文化と溶け合い、「日本型ジョブ型雇用制度」ともいえるものが形成されていくと思われます。

さらに、人材育成や組織のパフォーマンス向上の観点で、従業員エンゲージメントの向上はますます注目されています。
つまり、構造的に組織へのエンゲージメントが低下しやすいジョブ型雇用制度への過渡期において、人事としては、やはり各人材に「この会社で働き続ける理由」を見つけてもらうべく、理念・ビジョン浸透施策などを実行していくことが求められるでしょう。

まとめると、ジョブ型への移行に伴い、人事の役割は社内制度の管理・執行者から人材課題解決のパートナーに変わっていくといえます。

“ジョブ型”の「これはどうなる?」に答えます

「『それは自分の仕事じゃない』という線引きで、協働の文化などが薄まってしまうのでは…」

「それは私の仕事ではありません」。ジョブ型を導入した企業内では実際に非常によく聞く言葉です。ジョブ型雇用制度のもとでは、年初・期初などに設定された「自分の仕事」以外を実行しても、基本的に全く評価されないため、「ちょっとこれお願いします」「それやっておきますよ」というような「察し」型のタスク分担はほとんどなくなります。逆を言えば、それぞれが自分の仕事と定められた領域に集中して取り組めるため、生産性は向上しやすくなります。ジョブ型雇用制度は、基本的に効率重視の制度と考えてよいでしょう。

「キャリア構築の大部分が個人の選択になっていくことは現実的なのでしょうか。キャリア研修を手厚く行っていてすら、「迷子」な人は多い現状ですが…」

ご懸念の通り、ジョブ型雇用制度のもとでは、従来の階層別キャリア研修のような形で一括の学習機会が得られたり、社内に常に数年後のモデルが存在しているといったような、キャリア学習の在り方は根本的に変わっていきます。ジョブ型雇用制度への移行を前に、キャリアの方向性を組織や誰かが示してくれる、という価値観そのものが転換を迫られているのです。

「マネージャーが強い人事権を持つということに不安を感じます。例えば、マネージャーとの相性次第で昇進に影響が出てしまうようなことはあり得るのでしょうか」

こちらも、ジョブ型を導入した日本企業の内外からよく聞く課題感です。
本来的には、ジョブ型雇用制度のもとでの評価は従来以上に厳格なKPI(評価指数)を中心につけられ、徹底的な数字による業績と能力の可視化によって管理されるべきなのですが、従来型の人事制度の名残もあり、多くの企業でジョブ型に合った評価を実践しきれてはいない状況です。

個人の選択によるキャリア構築、マネージャーの人事権強化に伴う評価、いずれも、ジョブ型雇用制度への過渡期である現在、多くの企業が直面している喫緊の課題です。

キャリア構築に関して言えば、当然今まで以上に個人が自主的にキャリアを学び機会をつくる必要が出てきますが、そういった需要に対し、まだまだ個人を対象にしたキャリア学習の場は限られています。ジョブ型で幹部候補などを目指していく上で必要となるMBAの取得ひとつをとっても、学習へのアクセスは都市部に集中しているのが現状です。

また、マネージャー・上司が人事権を持っている企業においては、結果的に「上司に気に入られれば昇格できる」となってしまっているケースが多く見られます。日本で続いてきた雇用制度とジョブ型の、それぞれの悪い側面が発現しているような状態です。

ジョブ型導入のこうしたデメリットを見ても明らかなように、ジョブ型雇用制度はあくまで人事制度の一形態であり、それ単体で人事課題の解決策として機能するものではありません。

「ジョブ型」がトレンドワード化し、日本企業全体としてジョブ型雇用制度へ移行していくことが正とされるような潮流ができつつあります。しかし、人事制度の専門家としては、必ずしもジョブ型へ移行する必要はないことをお伝えしておきたいと思います。ジョブ型を導入して効率化し、人材の流動性を高めたほうがよい企業・部署もあれば、そうでない組織もあります。自社・自組織が今後ありたい姿・目指す姿を確かめた上で、新しい人事制度導入のメリットを見極めるべきでしょう。

おわりに

ジョブ型雇用制度の基本~人事の役割変化について、よくあるご質問にもお答えしながら見てまいりました。

日本に導入されつつあるジョブ型がどのように組織へのインパクトをもたらし、また逆に日本の企業文化から影響を受け変化していくのか、我々も専門家として日々情報を集め、注視している最中です。

ひとつ確かなのは、今後、人事の方々が担う組織内の役割はますます複雑化し、重要になっていくということです。人事が企業内の「人材課題解決のパートナー」を担っていくことは、先にお伝えした通りです。これはある意味で、私たち外部の人事制度・人材育成のコンサルティングパートナーとお立場が近しくなっていくともいえます。

そういった観点からは、今後、企業の中でどのような施策に注力していくべきなのか、またそのためにどのような手法が有効なのか、お力になれることは多くあります。

ジョブ型雇用、人事制度にお困りのご担当者の方は人事制度の専門家が個別に詳しくお答えします。ぜひ、お気軽にご相談ください。

 

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