年下上司を「年上はリスペクトせねば」の呪縛から救う、年上部下とのコミュニケーション術
「年上部下と年下上司」に関するご相談が、近年急増しています。
超高齢社会といわれる今の日本。伴って、働く人の平均年齢もますます上昇し、管理職社員は”年上部下”=自分より年齢の高い、役職上は部下となるベテラン社員、をマネジメントしていく必要性が高まっています。人手不足の影響も大きく、定年後社員の再雇用もより推進されていく中で、今後いっそう、「年上部下と年下上司」という関係性は職場の「当たり前」になっていくことでしょう。
しかし、一方で、”年下上司”となった管理職の皆様からは、
「年上の部下へどのように接してよいかわからない」
「うまくマネジメントができている自信がない」
こうしたお悩みを非常に多く伺います。
このようなお悩みを紐解いてみると、
「年上の方には●●のように接しなくてはならない」というマネジメント側の、「リスペクトゆえ」の固定概念が、年下上司と年上部下、双方を苦しめてしまっている構造が見えてくるのです。
今回のコラムでは、このような負のループの構造がなぜ生まれてしまうのかを解説し、マネジメントが真に身に着けるべき「年上部下への接し方」3つのポイントをお伝えします。
年上部下・年下上司がお互いに気を使いあっているのに、どうも嚙み合わずパフォーマンスが上がらない……、もやもや職場に今すぐ役立つ、必見コミュニケーション術です。
目次
年上部下への接し方、マネジメントのお悩みが急増?
【参照】
「年下の上司に聞く、年上の部下へのマネジメント調査」(サイボウズチームワーク総研,2023)
https://teamwork.cybozu.co.jp/blog/youngerboss.html
企業における「年下上司&年上部下」は今後ますます一般的になっていくことが予想されます。
サイボウズチームワーク総研の2023年の調査によれば、
「直属の上司が年下である」と答えた会社員の割合は、
全体で21.6%、従業員数が2000人~5000人以上の大企業では27.2%~28.5%と3割近くに及びます。
高齢化に伴い、働く人の平均年齢も高くなる中、
年下上司との関わり方に悩むベテラン社員、
そして年上の上司のマネジメントに悩む年下管理職はますます増えていくといえるでしょう。
年下上司のマネジメント本音、年上部下と「どう接すれば?」
そんな中、弊社のご支援現場では、「年下上司」の皆様からは、こんな本音が。
「ベテラン社員の経験や知識が、今の時代・現代のビジネスモデルに合っていないのだが……、
でも、失礼にあたると感じ指摘できない」
「固定化した価値観を変えてもらいたいが、どう伝えれば納得してもらえるのか」
「ベテラン社員の方の仕事へのモチベーションが低く、周囲が変に気を使っている……」
こうしたお悩みの共通項は、「年上はリスペクトせねば」という固定概念から、
表面的な気遣いに縛られてコミュニケーションがうまくとれなくなっているという現象です。
年下部下の方々は、ベテラン社員の世代への気遣いや偏見や諦め、気まずさから、コミュニケーションを消極化し、
「あと数年で定年だし、あまり目くじらをたてずにそっとしておこう……」
と不関与を選んでしまっているのです。
マネジメントされる「年上部下」の本音、年下部下には「放っておいて」
それでは、そんな風に「腫れ物扱い」されてしまいがちなシニア社員・ベテラン社員側は、
どのように感じ・考えているのでしょう。
まず前提として、個々の考え方や価値観に関わらず、
年齢を重ねる中で、新しいものを脳が覚えづらくなっていく変化には、誰しも直面せざるを得ません。
そうした状況に適応し仕事をこなしていくべく、
シニア・ベテラン社員は「過去からの経験の延長」で物事をとらえがちになってしまうことに留意が必要です。
「これまで何十年と積み重ねてきたやり方がある。考えを変えることはできない」
「PCや馴染みのない機器を使った作業を新たに任されたが、自分はそういうものは得意じゃない」
ある意味では、自分自身への偏見や諦め、こだわりによって、
「放っておいてもらえれば、このまま退職までのんびりやりますよ」
シニア社員もそのようにコミュニケーションを閉じ、孤立してしまっているのです。
年上部下への接し方、マネジメント側が身に着けたい3つのポイント
このように、お互いに気を遣いあいながら生じてしまう、
コミュニケーションとパフォーマンスの溝。
年下部下からこれらを埋め、シニアの活力とナレッジを最大限発揮してもらうためには、
3つのポイント:2つの観点と1つのスタンスがカギになります。
ポイント①過去のリスペクト~シニア社員が築き上げてきた価値観を尊重する
まず、シニア社員の活力を引き出し再活躍してもらうためには、
表面的・形式的なリスペクトではなく、シニア社員の方々がこれまでどのような価値観を築き上げてきたかに注目し、その価値観を尊重することが必要です。
シニア社員がどのような「こと」を成し遂げてきたかにだけ注目すると、
今の時代に合った仕事の内容・プロセスの提案がその否定にあたってしまうのではないかと感じ、
なかなか意見を伝えにくいというお悩みにつながりやすくなります。
そこで、「過去何をしたか」ではなく、
「その過去の経験から、どのような価値観を持っているか」に注目し、その価値観や、そこから生じるその人の強みを尊重しましょう。
例えば、
「当時としては画期的だった新企画を立ち上げ、チームをまとめていた」
という経歴のある社員であれば、
「新しいことに挑戦し続けたい」
「チームで連携して仕事をするのが好き」
こうした価値観を持っているかもしれません。
また、「部署・課の解散・引継ぎに関わったことがある」
こうした経験がある方には、
「チームを安定させ、衝突を和らげる素質がある」
「リスクに気づく感覚があり、提言ができる」
このような強みがある可能性があります。
ポイント②未来のプロスペクト~シニア社員の価値観・強みに沿った期待を伝える」
価値観を踏まえた上で、重要な関わりは、「Re+Spect」の段でおさえた、
年上部下の価値観と強みに沿った「今~未来」の役割期待を伝えることです。
先ほどの例を取れば、
『新しいことに挑戦し続けたい』『チームで連携して仕事をするのが好き』
こうした価値観を持っているシニア社員には、
「こうした価値観をお持ちの〇〇さんだからこそ、新しい機器の導入にも積極的に取り組んでもらいたいんです」
「ベテラン社員だから……と一歩引かずに、チーム運営にもぜひお力をお借りしたいです」
このように伝えることが「プロスペクト」といえます。
または、
『チームを安定させ、衝突を和らげる素質がある』
『リスクに気づく感覚があり、提言ができる』
こうした強みを持っているシニア社員に対しては、
「〇〇さんの感覚を活かして、チームや計画の方向性にリスクを感じたら、ぜひ伝えていただきたいです」
このような役割期待も伝えられるかもしれません。
ポイント③年上部下の協力を引き出すマネジメントスタンス
過去のリスペクト、未来のプロスペクトという観点を踏まえた上で、
年上部下の協力を引き出すためには、
年下上司の「協働」的マネジメントスタンスが重要です。
役職は違えど、年上部下は経験豊富なベテラン社員。
年上の部下であるという関係性を、「気まずい年齢差」として処理するのではなく、
「自分・職場の弱みも相談できる・さらけだせる」関係として位置付け、
指示・命令する対象ではなく、シニア社員を一種の「相談役」とし、協力を引き出す関わりが有効です。
相手任せにして放任したり、
逆に若手にするように事細かに指示を出すよりも、
経験を活かして「提言・提案・助言」を明確に求め、
協力してチーム・部署を良くしていきたい、というスタンスを示すとよいでしょう。
まとめ~年下上司のマネジメントを救う年上部下とのコミュニケーション術
ここまで、「年上部下・年下上司」増加の背景や、彼らの本音、シニア社員の強みを生かし再活躍につなげるためのポイントを見てきました。
雇用年齢の引き上げ、再雇用の増加など、
「定年まである程度働ければいい」といった、今までの常識が変わりつつあることを、
今いちばん肌で感じているのはシニア当事者です。
まだ「年上部下」に慣れない職場・上司の気遣い、気まずさを察知してしまいながら、
自らその壁を崩すことができず、不完全燃焼の中にいるシニア社員。
年下上司側が、ベテラン社員の築いてきた価値観を“本質的”にリスペクトし、
今・未来を指向した関わりを行うことで、
彼らを「孤立」から引き上げ、協働することが可能です。
「年下上司」「年上部下」双方を呪縛から救う、
ツボを押さえたコミュニケーション術を、ぜひ職場でご活用いただければ幸いです。