人事のためのOJT施策攻略ガイド “2つの指針”編
OJT=On the Job Training:現場での業務実践を通じた人材育成への注力は、現代の企業の人材育成において急務と言えます。同時に、成長期待はもはや「滞りのない業務スキル」にとどまらず、自律的に自ら仕事やキャリアを作り出す、いわゆる「自律型人材」としての人材像に指向しているといえます。
しかし、そうした「急務」が叫ばれる一方で、OJTをテーマとした弊社無料セミナーでは、このようなお悩みを非常に多く伺います。
「弊社は育成風土がそもそも『ない』。OJT施策のセミナーを聞いても、参考にしづらい……」
「『うちの会社/業界は特殊』で、他社や営業組織発のOJT施策は機能しない……」
「現場育成を担当する社員の経験・育成への関心・年次などバラバラで、人事としては何から手をつけていいのか……」
本記事は、そうしたお悩みに直面した際、人事の皆様が立ち戻るべき「2つの指針」をお伝えします。
「どこまで人事が介入すべきか」「どこまで現場に任せるべきか」……
OJT施策全般について、こうしたお悩みもまた尽きません。
しかし、多忙な人事の皆様が、OJT施策で発生する大量の課題にひとつひとつ対処することは現実的ではありません。
また、どこまで行っても、最終的には現場に任せなくてはならないのがOJT=現場育成です。時には人事が細やかに対応/介入することが、逆効果になってしまうことも。
そこで、リ・カレントでは、むしろ人事のリソースを「2つの指針」に集中させることをご提案しています。
攻略ガイドの大前提として、たった2つの「本当に人事がすべきこと」を把握しておきましょう。
- 監修者
- 鷲尾 大樹
- 略歴
- リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部
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目次
OJT施策2つの指針:迷ったら立ち戻る、人事がすべき“たった2つのこと”
OJT施策において、人事の皆様がすべきことは、実は「たった2つのこと」に絞られます。
それは、
・OJTの仕組みを作ること
・OJT担当者・関係者の意識づけを行うこと の2つです。
しかし、OJT施策に今まさにお悩みの方は、
「そんなことは基本中の基本で、もちろんやっている」
「それだけでは機能しないから、こうして困っている」……
このようにお感じになったのではないでしょうか?
こうしたご感想は、至極ごもっともと言えます。
人事としてできる限りの仕組みづくりをし、関係者へ可能な限りの意識づけを行った上で運用していても、無数のエラーが起きるのがOJT施策の常。
運用する中で、
「とはいえ、どこまで人事が介入すべきなのか」
「とはいえ、どこから・どのように現場に任せればうまく行くのか」
こうしたお悩みが改めて湧き上がってくることは、OJT施策に真摯に向き合っておられるからこそと思います。
では、そもそもなぜ、OJT施策では「特に」、こうしたお悩みが尽きないのでしょう。
なぜOJT施策の悩みは尽きず、「他社事例が参考にならない」のか?
OJT施策は、その性質上、多くの不確定要素を抱えています。
<OJT施策が抱える不確定要素の例>
・現場ごとに携わる実際の業務の質・量
・部署の人員数・構成など、育成に割けるリソース
・育成を担当する・携わる社員の経験・年次・育成スキル・育成への関心
・育つ側の社員の適性や関心、強み弱みやこれまでの経験
・既存の育成風土
・自社OJT施策における重点
こうした不確定要素が組み合わさることで、個社ごとに全く異なる、無数の「OJT施策」像が生み出されています。
冒頭に挙げたような、「若手のトレーナーがいない」「現場が忙しすぎて、育てる余裕がない」といったお悩みは、突出した不確定要素がOJT施策の基盤をぐらつかせているゆえでしょう。
また、セミナーにご参加いただいた方からよく伺う「他社事例が参考にならない」というお悩みも、これが大きな原因になっていると考えられます。
同業種・同規模の組織でのOJT施策でも、こうした要素が2つ・3つと掛け違ってくることで、「まったく別の」状況となってしまい、「参考にならない」のです。
課題を切り分ける:OJT施策の悩みは「変えられないもの」ばかり?
無数の不確定要素が日々立ち現われ、分岐していくOJT施策。
しかし、その分岐それぞれに、人事が個別対応を行っていくことは、リソース面で見て、やはり現実的とはいえません。
また、OFF-JT(集合研修など、業務外での人材育成)と異なり、最終的には現場で運用してもらう必要があるのがOJT=現場育成です。
人事が個別具体の問題に細やかに対応/介入することが、逆効果になってしまうことも。
OJT施策の効果面から見ても、人事が個別具体の介入を行っていくこと以外の解決策を目指すべきといえます。
先に挙げた“不確定要素”に代表される、OJT施策を構成するお悩みを
「主に人事/(配属)現場いずれの担当領域か」
「働きかけによって変えられるか、変えられない(すぐには変えにくい)か」
2つの観点で整理した図がこちら。
※業務の質・量の調整や、育成を担当する社員の年次や関心などは、経営・組織方針によっては働きかけが可能な領域ですが、弊社にお寄せいただくご相談のほとんどで「変えられない」ご状況にお悩みのため、このように分類させていただいています。
OJT施策の「不確定要素」として、あるいは皆様のお悩みとして挙げられやすいものの多くが、「変えられない(変えにくい)もの」に分類されていることにお気づきでしょうか。
「不確定要素に関するお悩み」は、直接的にアプローチすることはできないものが多いのです。
具体的には、
「OJT担当者は、新人に年齢の近い社員が担当すべきなのでしょうか」
「部署に、育成を担当した経験のあるメンバーが少ないのですが……」
こうしたお悩みに対し、
「では、他部署から新人に年齢の近い若手社員を配置換えしましょう!」
「では、部署の人員構成を大きく変更しましょう!」
このように対処することはほとんど不可能といってよいでしょう。
弊社がOJT施策をご支援する際、「型」をおすすめしないのは、仮にOJT施策における設計の理想形があったとしても、その「型」に現場をあてはめていくと無理が生じてしまうからです。
課題を切り分ける:人事が「変えられる」のは“仕組みづくり”と“意識づけ”
冒頭にも述べ、表に整理してきたように、OJT施策において人事側から「変えられるもの」は、ほぼ2つに絞られます。
OJT施策に関わる社員の意識づけと、施策における仕組みづくりです。
しかし、新人や育成担当者たちに直接介入できず、「意識」や「仕組み」に働きかけをする……、
「本当に、それでOJT施策が回るのか」
「現場の実状から離れた、机上の空論になってしまうのではないか」
このようなご懸念が生じてくることと思います。
そこで、私たちが「変えられるもの」を抽象概念で終わらせないため、次章では「OJT施策2つの指針」を示します。
本指針では、施策への関わり方をより具体的なワードでとらえなおすことにより、人事の「変えられるもの」を、より具体でイメージし実行していただけるようになっています。
また、「指針」という言葉の示すように、OJT施策を運用する中で、
「もっと現場に介入したほうがよいのだろうか?」
「人事がすべきことはもっと他にあるのではないか?」
このような迷いが生じてきた際、常にこの、人事が「変えられるもの」に立ち戻っていただければ幸いです。
OJT施策2つの指針~人事の「できること」を“机上”で終わらせない!
OJT施策「2つの指針」とは「OJTの主語を変えること」と、「育成の再現性をデザインすること」です。
それぞれについて詳しく解説していきます。
指針①:OJTの主語を変える
OJT施策の指針として、リ・カレントが強くおすすめしているのが、「OJTの主語を変える」。
つまり、「OJT施策をトレーナーだけの仕事にせず、現場で育成に関わる人全員、ひいては現場全体をOJT施策の主体者とする」ことです。
人事の「変えられること」で示したように、OJT施策では「仕組みづくり」という観点が欠かせません。
人事側からツール・仕組みの提供をすることで、属人化しがちな現場育成を可視化し・育成業務のマネジメントを容易にしよう…という主旨で、よく用いられています。
しかし、この「仕組み化」、重要・必要であることは間違いないのですが、単純に仕組みを作って提供するだけでは、かえって現場の負担感が増し、OJT施策が形骸化してしまう場合も。
・育成の状況を詳細に記録するシート・テンプレートを配布する
・育成の可視化のため、定期的な面談を組む
「よかれ」と思い、こうした積極的な「仕組み化」に取り組んでいるのに/いるからこそ、現場から
「やることがどんどん増えるばかりで、疲弊する」
「忙しく、実施が現実的ではない」
このような苦情が来るばかりか、せっかく作った「仕組み」が徐々に実施されなくなり、形骸化してしまう……。こうしたお悩みをよく伺います。
このように、現場が疲弊してしまう単なる「仕組みづくり」では、トレーナーのみがOJT施策の実行者=主語になってしまっているケースが大変多く見られます。先ほど例にあげたような仕組みづくりは、実はこのようになっていませんか?
・育成の状況を詳細に記録するシート・テンプレートは、基本的にトレーナーが記載・提出する
・実際には、トレーナーが新人とのこまめな面談を行う・セッティングする
トレーナーに負荷が集中しやすい「仕組み」では、「トレーナーの新人への関わりを、より見える化する」ことが仕組み化の焦点になってしまっているのです。
さらに、こうした環境の中では、新人自身の認識も、「トレーナーの●●さんが、私を“育ててくれる”人」と、より受け身・待ちの姿勢となってしまい、トレーナーの育成負担がさらに増していくことになります。
こうした、「人事が仕組みづくりをやればやるほど、現場(トレーナー)の疲労感が増し、乖離していく」現象に陥らないため、リ・カレントでは、育成の主語を「トレーナーが(新人を育てる)」から「私たちが(新人を育てる)」へ変える、新人を含めた関与者全員の「当事者意識形成」を強くおすすめしています。
主語を「私たち」に変えた育成では、表に整理したように、
・トレーナーの役割
・新人を含む育成関係者の役割と認識
が変わります。
育成の主語がトレーナー=「トレーナーだけが育成の実行者」である場合と異なり、「私たち」を主語とした場合、トレーナーはあくまで様々な社員や業務経験と新人をつなぐ「ハブ」の役割を果たします。
新人本人も、「トレーナーに育ててもらう」受益者ではなく、トレーナーというハブを通じて様々な経験につながり・育つ育成の主体者です。
上司・職場全体もまた、「新人が育つこと」をゴールに据えたプロジェクトのステークホルダーとなります。
下の図は、「私たち」を主語にした育成プロジェクトの一例です。
矢印で表わされているのが、育成に関する現場の多様な関わりです。
矢印の「実行」すべてをトレーナーが担うのではなく、トレーナー本人の負荷を減らしつつ、トレーナーが「ハブ」となることで育成関係者それぞれが矢印を担っていることが見て取れます。
トレーナーに求められるのは、育成的関わりすべてを「自分でやる」のではなく、新人が育つために必要な関わり・経験を得ることができるよう、「私たち」をつなぐ役割なのです。
例えば、トレーナーが出張や繁忙期など、一時的に育成的な関わりを持てない状況でも、育成の主語が「私たち」になっていれば、新人への関わりや経験の担保が滞ることはありません。
一方、あくまでも「トレーナーが」育成を行う、という“仕組み”になっている場合、育成的な関わりがストップしてしまい、周囲は「注意して見ておくね」と、育成の部外者として臨時の接点を作るだけにとどまってしまうのです。
また、新人とトレーナーの性格的相性が良くない/価値観ギャップが大きい、といった課題も育成現場の「あるある」ですが、こうした場合においても、育成が職場の様々な社員に開かれた「私たち」主語のものであるか、「新人⇔トレーナー」一対一の関係に閉塞しているか、で育成の成果が大きく変わってくるのです。
指針②育成の再現性をデザインする
OJT施策の2つ目の指針は、「育成の再現性をデザインする」ことです。
新人が「自ら育つ=経験学習サイクルを回せる」環境・経験をつくり、「たまたま育つ」のではなく、「自らの内発的動機を持ち・経験から自ら学び育つ」ように促す仕組みづくりが人事のできること・変えられることとなります。
OJT施策運用の上で見逃してはならないエラーは、
・本人の適性・周囲の環境・経験や案件に「恵まれ」、結果的に数人の新人が自律的な人材として育ちあがっている
というケースです。
OJT施策のゴールは「新人が育つ」ことですが、「たまたま育っている」状況は2つの理由から改善すべきといえます。
1つには、育成の再現性が担保されないためです。いうまでもなく、現場育成では「特定の優秀な新人Aさん」だけでなく、受け入れる新人全体の成長を目指していく必要があります。
もう1つは、そのような特定条件下の「育ち」は、新人自身の成長力を伸ばしていないため、OJT施策の対象者から外れる3年目以降ぐっと伸び悩んでしまいます。
新人が自身の中に「自ら育つ」理由=内発的な動機を見いだせていなければ、表面上優秀な成果をあげていても、「トレーナーに言われた通りやる」「上司の指示通り仕事をこなす」から抜けていかず、“自律”していくことができないのです。
このように、「再現性のある、自律型人材の育成環境整備」という難題が、今の時代のOJT施策を構築する私たちの避けられない課題なのです。
この課題に対処すべく、リ・カレントでは明確に「育成の再現性をデザインする」ことを、OJT施策の2つめの重要な指針として、具体的な手法と共にお伝えしています。
育成の再現性を高めるためには、新人の振り返る力を高め・自ら育つサイクルを促す「問いかけ」が有効です。
仕事で成果を出したとき、逆にうまく行かなかったとき、
「なぜうまくいったのか?」
「なぜうまく行かなかったのか?」
「その時自分はどのように考え・感じていたか?」「どんな価値観・思いをもとに判断したか?」……、
こうした問いかけをOJT側が行っていくことによって、新人が経験したことを忙しさの中に埋もれさせず、「学び」ひいては「自身が仕事において大切にしたいこと=内発的動機」に昇華させていくことができるのです。
このような問いかけによって「経験したことを振り返り再度行動する」という一連の再現性を高めるために
人事側からできる「デザイン」の例として、経験を可視化するシートの運用などをご提案しています。
ここで重要なのは「シートを埋める」ことではなく、こうしたツールをきっかけとし、新人を含むOJT施策に関わる社員が対話を行うことです。
※前述のように、これを「トレーナーが定期的に記載し人事に提出する」ようなものとして運用してしまうと、トレーナーの過負荷につながるため注意が必要です。
シートというひな形の運用を通じて、
「今月はどんな経験をした?」
「やってみて、どんな気持ちだった?」
「次は、どんなふうにやってみたい?」
このような『問いかけ』が行いやすくなります。問いかけを通じ、新人自身が経験を言語化し、内省し、獲得していくサイクルを促すことができるのです。
OJT施策2つの指針:まとめ
OJT=現場育成施策は、どこまでいっても最終的には現場に任すほかありません。
現場側も、多くの「変えられないもの」を抱えながら、そのときいる人・そのときあるものを可能な限り活用しながら、「変えられるもの」に働きかけていく必要に迫られます。
しかし、そうした中でも、「2つの指針」で示してきたように、OJTの主体をトレーナー任せから「私たち」育成に関わる人全員に変え・再現性を高めることで、間接的に現場を支援し・育成をデザインすることが可能です。
施策設計をする私たち人事サイドには、意図的かつ健全な「現場任せ」のデザインが求められているといえるでしょう。
【無料公開中】「人事のためのOJT施策攻略ガイド」リリース
本記事「OJT施策~2つの指針」の内容に、
人事の皆様を悩ませるOJT施策の様々な疑問・お悩みに徹底回答したQ&Aを加筆した、
完全版資料「人事のためのOJT施策攻略ガイド」がリリースされました。
現在、弊社特設サイトより、無料で全文をご覧いただけます。
ぜひ、OJT施策運用のお手元で、お役立ていただければ幸いです。