東急ハンズが実践する、1年1割離職時代における新人の”仕事WAY”変革
2019年5月29日(水)~31日(金)に行われた「ヒューマンキャピタル2019」(主催:日本経済新聞社・日経BP社)にリ・カレント株式会社若手人材開発事業部トレジャリア(以下、トレジャリア)が出展しました。トレジャリアは『東急ハンズが実践する、1年1割離職時代における新人の”仕事WAY”変革』と題し、これからの新人・若手育成に求められる「仕事を人生の一部として楽しむ」視点を醸成するポイントを、株式会社東急ハンズ様(以下、東急ハンズ)の事例を交えて紹介しました。ここでは、当日の模様をセミナーレポートとしてお届けします。
■講演者
講師/Life farmer Rodriguez株式会社 代表取締役 沖 みちる 様
ゲスト/株式会社東急ハンズ 人事部 採用研修グループ 川口 純奈 様
ファシリテーター/リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部トレジャリア プロダクトマネジャー 川口 唯貴
新入社員の早期離職問題の打開策『”仕事WAY”変革』
昨今、新入社員の早期離職が深刻な問題になっています。厚生労働省の発表によると、2015年の新規大卒就職者における就職後3年以内の離職率が31.8%、2017年の新規大卒就職者の1年以内の離職率が11.5%に上ります。(出典:厚生労働省『新規学卒者の離職状況』より)
企業にとって1年1割離職時代という現状は、採用・育成にかかる時間やコスト面から考えても看過できないものであり、早急に対策をとるべき問題です。早期離職問題の打開策としてトレジャリアでは『”仕事WAY”変革』と題した、新人・若手社員の仕事に対する「価値観」に対してアプローチしていく育成を提案しています。
新人の『成長の三極化』と中間層のメンタリティ問題
早期離職の背景にある問題として、トレジャリアと沖講師が考えるのは『成長の三極化』です。新人をトップ層・中間層・テコ入れ層に分けると、各層の間で成長格差が拡大していることが課題と捉えています。
トップ層の新人は「一昔前よりはるかにハイパーな人材がそろっている。能力開発が進んでいるだけでなく、人とのかかわり方や謙虚な取り組み姿勢なども心得ており、総合的に非常にバランスの取れた人材が多い」。一方で、中間層の新人は「時間が経てばそれなりに自立できる能力を持っているが、メンタリティと職場や環境との折り合いがついていないと育成側が意図する成長速度で育たない」と沖講師は指摘します。
沖講師は、このようないまどきの新人が抱えている問題として、以下の2点を挙げました。
・課題1:環境に左右されやすい
職場の上司との関係性、関わるお客様の性質などの環境によって、新人のマインドが落ちやすい。「この会社は自分に合わないのではないか」「この仕事に向いていないのではないか」という結論を出すのが早い。
・課題2:市場の求めるスピードより成長が遅い
新人が持っているメンタリティや、これまでの新人育成の在り方からみると、現実的に新人には3年で自立できること一般的でした。しかし、昨今、企業のビジネスのスピードが早くなり、新人にも即戦力になるまでの求める時間が短くなっている状況や、売り手市場のなかで良い人材を集めることが難しくなっていることを鑑みると、新人が3年目で自立するというスピード感は職場の現場への負担が大きく、「できれば1年で自立してほしい」という企業・現場の本音もあると言います。
東急ハンズの川口様も「環境に左右されやすい新人が増えている」「店舗が求めてい“1年で一人前になり、2年目でリーダーを目指す”というスピード感についていけない新人が多いのも実情」と述べました。
いまどき新人が持つ5つのメンタリティ
トレジャリアでは、新人教育においていまどきの新人が持っているメンタリティに合わせて研修・教育プログラムを組む必要があると考えています。彼ら、いまどき新人の特徴を、5つのメンタリティに分けて、傾向や要因などを分析しています。
①『で、いいや』メンタリティ
真面目で、言われたことはしっかりやる。
→言われていないことはしない・できないので、上司や先輩からは物足りないと思われている。
②『正解検索』メンタリティ
答えをすぐに人やものに求める。
→Googleなどで検索をすれば答えが得られる「デジタルネイティブ」の環境で育ってきた背景があるため、何事も正解があると考える傾向がある。
③『クローズドマインド』メンタリティ
自分と価値観が違う人との関係構築に苦手意識を感じる。
→家族環境の変化などにより、上の世代とかかわる経験が少なくなっている。
④『貢献あこがれ』メンタリティ
自分と近い先輩や周りの人に対して、貢献したい想いが強い。
→会社としての大局的な価値提供(社会貢献)などに対する意識や視点の弱さが目立つ。
⑤『勝手にプレッシャー』メンタリティ
失敗を恐れて挑戦したがらない。
→目立つことを恐れる意識が極端に強いと感じられる。
※5つのメンタリティの詳細については、トレジャリアWEBサイトに詳しい解説を掲載しています。
これら5つのメンタリティに、「東急ハンズの新人も当てはまっている」と川口様。とくに小売業という業種柄、『貢献あこがれ』メンタリティがより顕著だと語りました。
「ここ1~2年の新人は、お客様の役に立ちたいという気持ちもありますが、近くにいる先輩やチームのメンバーのために頑張りたいという気持ちを強く持っています。一方、研修の場では『で、いいや』メンタリティが顕著に表れる。『ここまでやったらもういいだろう』と思ってしまう新人が多いですね」(東急ハンズ、川口様)
沖講師からも「どのメンタリティが強く出るかは企業の採用基準や風土文化によって違ってきますが、相対的には、どの企業の新人もこの5つのメンタリティを持っている」と追加説明がありました。
新人育成に必要な3つのコンセプト
新人を早く自走させるため、トレジャリアでは以下のコンセプトに基づいてマインドセットを重視した研修プログラムを設計し、東急ハンズ様の新人研修では沖講師が研修登壇をいたしました。
●曖昧な世界への耐性をつくる
いまどき新人は1番正しいやり方・1番の近道があるのではないかと考える傾向にある。ビジネスの世界にベストな回答、間違いない方法などはなく、状況を見ながら建設的な折り合いをつけていくのが仕事だと認識させる。(それこそが仕事の醍醐味であり、面白さであることも認識できるようにする)
●長期的な時間軸に気づかせる
学生には「就活が始まるまで」「卒業するまで」などわかりやすい区切りがあるが、ビジネスの世界では、区切りというものはほとんどない。毎日の行動や学習が、結果として自分の人生をつくっていく。そのために、長期的な時間軸・視点を持つことに気づかせる。
●自分軸と相手軸双方を育てる
いまの新人は、さまざまな世代や立場の人と接触する経験が少ない環境で育ってきたため、相手との距離を測る経験の絶対量が少ない。したがって、新人には自分と相手の考えが違うという前提から相互理解が始まることを認識させ、自分軸と相手軸の双方を育てられるように促す。
自分軸と相手軸については、沖講師の視点による研修プログラムとして、自分軸(Core)と相手軸(Shift)の双方(Core&Shift)を育てるために、まずは『Core』に目を向けさせたほうが良いと沖講師は述べます。
合わせて、研修内で沖講師は新人に以下のメッセージを伝えました。
「いままで生きてきた学生までの世界と、これから生きていくビジネスパーソンとしての世界は、まったく別物。世界は変わった」
「新しい世界で『自分の人生は自分で創る』という考えを持つ」
「新人の特徴や育ってきた環境を鑑みると、多くの企業の研修で行われている相手(会社・仕事・成果など)視点を養う知識やスキルに特化したものではなく、その前段階として、まずは自分が大事にしていること、自分が今何を考えているのかを意識させ、自分自身を自立させるところから始める方が良いでしょう」(沖講師)
東急ハンズ様で行った研修プログラム
これまでの東急ハンズの教育研修は、接客業のプロとしての知識やコミュニケーションのスキルを学ぶ内容に特化したもので、効果があったものを毎年継続的に行ってきたそうです。しかし、昨年、川口様の「これからの変化の多い時代に、東急ハンズで働く従業員としてプロであるという前に、1人ひとりが自分の人生を自分でつくっていかなければいけないということを新人研修で伝えていきたい」という強い想いから、『Be Professional』というコンセプトのもとトレジャリアと沖講師の考案する研修プログラムの導入が実現。川口様も新人と共に研修を受講し、研修がどのような成果をもたらすのか体験してみたと言います。
●新人向け研修
4月『Core&Shift研修』
◎入社式の翌日にマインドを学ぶ
■沖講師のメッセージ『世界が変わった』『自分の人生は自分で創る』
■3つのコンセプト『曖昧な世界への耐性』『長期的な時間軸』『Core&Shift』の解説
「入社式の翌日の研修だったので沖講師のメッセージを受け止めきれるのかと心配しましたが、知識やスキル、店頭に立った経験がまったくないからこそ、沖講師の言葉が新人の中にスッと入っていったようです。最初にマインドセットを行う重要性を実感しました」(東急ハンズ、川口様)
実際の研修には、設計・プロデュースを行ったリ・カレント・トレジャリアの担当、川口も参加。『仕事“WAY”変革』にアプローチした、本研修の沖講師のメッセージで新人の目の色や空気が変わったのを肌で感じたと振り返りました。
5月『コミュニケーションスタンス研修』
◎コミュニケーションに対する取り組み姿勢を学ぶ
■取り組み姿勢やマインドセットを主軸とした内容
■立場が違う相手とかかわる上で自分なりの創意工夫を熟考
「コミュニケーションスキルではなくスタンスを学ぶ研修は、初の試みでした。受講した新人が入社して1年経ったいま、自分で考え、この先どう動いてコミュニケーションをすればいいのか。考えながら動ける人材になっていると感じています」(東急ハンズ、川口様)
7月『真・問題解決スタンス研修』
◎問題解決に対する取り組み姿勢を学ぶ
■問題を「自分事として捉える」マインドのセットアップ
「問題解決のロジックではなく「自分の問題は何か」のファクトから取り組み姿勢を教えていただいたからこそ、店舗で問題が起こったときにも、まずこの問題は自分にとってどのような問題なのかという視点で考え、自分なりに問題解決に取り組んでいます」(東急ハンズ、川口様)
10月『バリューファクター研修』
◎自分の『最高価値』を特定する
■新人が自分自身のなかにある価値観を特定する内容
「『バリューファクター』(※注)という日本ではまだ新しいプログラムです。行動や判断などあらゆるものの基準になっているのが「価値観」であり、そのなかでも人生をかけてもっとも大事にしているものを『最高価値』と言います。
新人が自分自身にフォーカスし、研修を通して自分にとっての最高価値を特定していくことで、仕事のパフォーマンスへつながっていきます」(沖講師)
※注釈:
人間行動学の世界的権威のジョン・F・ディマティーニ博士が開発した、自分の価値観を特定し、価値観に沿った人生を送る方法論。価値観と取り組むことの関係性を明確にすると、モチベーションアップやパフォーマンスの向上につながることから、現在、さまざまな企業から注目されはじめている。
「私自身、自分の価値観は分かっていたつもりでしたが、この研修で自分の考えを新たに発見し、いままで以上に自分の考えを仕事に活かせる道筋が見えてきました。パッと道が開けて、4月からの研修が今後の行動につながっていくことを実感しました」(東急ハンズ、川口様)
トレジャリア担当の川口も、自分自身を表現できない新人にとって、自分が何を感じているのかをしっかりと掴んでいくこのプログラムの重要性を改めて実感したと振り返ります。
また、東急ハンズ様では、新人研修とあわせて、育成側であるOJTトレーナーや管理職に向けた研修も導入しました。
4月『OJTトレーナー研修』/5月『OJT管理職研修』
◎世代傾向の認知・理解に向けた研修
■各世代の特徴の解説
■新入社員のマインドやメンタリティの解説
「東急ハンズでは従業員の平均年齢が比較的高く、トレーナーも20代から50代まで幅広い世代がいるので、新人とトレーナーの考えていることや見えているものがまったく違うということが起こりがちでした。沖講師に世代間ギャップや各世代の文化背景などを解説いただき、OJTトレーナーや管理職は新人の考え方を理解し納得できました。さらに受講内容を各フロアにも説明し広めてくれたおかげで、この1年で新人に寄り添う体制に変わってきました」(東急ハンズ、川口様)
東急ハンズ様の施策では、『Core&Shift』に対して多角的にアプローチし、一貫して同じメッセージを発信し続けたことがポイントであり、研修の成果を出せた事例ともいえるでしょう。沖講師からは「新入社員はたくさんの可能性を持っていて能力も高い」と前置きした上で、「トレーナーや管理職の方には『彼らならできる』『彼らならわかるだろう』という新人に気を遣わない、ケアをしすぎない姿勢で育成に取り組んでほしい」と、育成の視点から会場の人事担当者様達に語り掛けました。
新人を育てることは、10年後の組織を創ること
沖講師は、「新人研修は1つの文化・風土として醸成されると、非常に精度を高められる場になる」と指摘します。新人教育を全社的な取り組みとして捉え、外部のリソースや新人の育て方を、皆で共に考える時間を設けて知見を積み上げることで人を育てられる、人を育てやすい環境ができてくると言います。
「新人には難しい面も課題もありますが、彼らの特性や強みは次の時代に必要なものです。各世代にどんな人生や価値観があるのかを理解するだけでも多様な視点で捉えられますし、少し目を向けるだけでお互い理解し合えることはたくさんあります。既存の社員や組織ではつくりだせない新しいものをつくるために、新人の特性・強みをきちんと活かせる教育・組織づくりをすれば、それは10年後の組織形成につながります」(沖講師)
東急ハンズでは、いままで主に接客業のプロとしての知識やコミュニケーションのスキルを学ぶ研修を行っていたそうです。昨年から1年間、まずはマインドという面から沖講師に指導してもらうことで、しっかりと自分軸を持ち、自分の考えを持った新人が育っていると東急ハンズ、川口様は語ります。
「今、種をまいて10年後、20年後の東急ハンズを支えていく人材を育てるために、このマインドを醸成し続けていくことが非常に重要だと、研修を通して実感しました」(東急ハンズ、川口様)
トレジャリアでは、若手の育成に注力することは10年後の組織をつくるための大きな投資だと考えています。いま入社してきた新人が、5年後、10年後には組織を担い中核になっていく。
リ・カレント若手人材開発事業部トレジャリアは、組織のこれからをつくっていく新人や若手のポテンシャルに光を当てる育成・教育の在り方で支援を行っていきます。