2020.02.10

問いの追求からはじまる実践型デザインシンキング~「創造的思考の筋トレ」が組織にパラダイムシフトを起こす!~

「変化する環境に適応するために、組織にイノベーションが必要だ。
しかし、自社にはイノベーティブな才能をもった人材もおらず、会社の文化としても新しいことにチャレンジするのは難しい……」
そんな悩みを抱える人事の方は多いのではないでしょうか。

実は、イノベーションの土台となる創造的思考力は、後天的に育成することができます。創造的思考力を学び、日常的に鍛えることで、アイデアを実践に移行することもできるようになります。

このセミナーでは、創造的思考法である「デザインシンキング」を学び、フィールドワークを通じてどのように実践に結び付けるかを学びました。


講師プロフィール

小島 潤子(こじま じゅんこ)
リ・カレントプロフェッショナルパートナー
企業研修講師、ワークショップ企画実施を主な活動領域とし、
公・民を超えた領域でのワークショップ企画デザインに加え、
デザインシンキング、論理思考、コミュニケーション(質問力〜プレゼンテーション)等を
得意領域として年間50回を越える企業研修を行う。

・青山学院大学社会情報学部 ワークショップデザイナー育成講座
「参加の増幅を意図したワークショップデザイン」担当講師
・博物館、美術館におけるコミュニケーションデザイン、学びのデザインを複数担当

【略歴】
旧株式会社学生援護会(現インテリジェンス)営業職、
株式会社宣伝会議、株式会社HR インスティテュートでのコンサルタント勤務では
企業理念浸透プロジェクト、ファシリテーション改革、本執筆、
新規研修プログラム立案、自社プロモーションなどを手掛ける。
現在フリーランスにて活躍中。

2012年 日本教育工学会 課題研究にて論文発表。(「ほぐす」ラーニングデザイン)
2010年 ワークショップユニット「はら塾カフェ」立ち上げ
月1回のペースで実践的なワークショップを展開実施
ベトナム幼稚園、東日本大震災被災地でのワークショップを実施


デザインシンキングに取り組むマインドセット

デザインシンキングに取り組む前提として重要なことは、「自分の中にある創造性を信頼すること」だと小島講師は言います。
職場では、アイデアを出すとき「恥ずかしい」「こんなレベルで言っていいのだろうか」と自己規制をかけがちになります。
自分の創造性をいつでも自分で引き出せる力は、デザインシンキングを実践するためのエンジンとなります。

また、デザインシンキングは明確なメソッドを持たないため、書籍から学ぶことが難しい分野です。
体験とそれに基づく仮説を組み合わせ、コミュニケーションを繰り返すことで発想力を引き出し、解決策を生み出す手法であり、体系化された確固たるプロセスがありません。
解決に至るプロセスには想像を超える時間がかかり、地道なコミュニケーションが必要であることを認識すると良いと小島講師は言います。

―アイスブレイク~自分を「ほぐす」~

はじめに、アイスブレイクのワークとして、デザインシンキングを世の中に広めたIDEO社の代表も用いた「30サークル」を行いました。
白い紙に書かれた30個の円を、各自の創造性で自由に見立て、1分以内にできる限りの円を何かに変えるという内容です。
できた絵をお互いに見せ合い、何に見立てたのかを共有する時間では、徐々に参加者の雰囲気がほぐれてくるのが分かりました 。

このように、自己規制をかけない、「ほぐれた」素の状態の自分でワークに取り掛かることがデザインシンキングを実践する上では重要だと小島講師は説明しました。

デザインシンキングの生みの親「IDEO」の思想~人、自分に目を向ける~

IDEO(アイデオ)とは、デザインシンキングを世界に広めた会社です。
IDEOは、売上向上を目的とするマーケティングに取り込まれがちなデザインという考えを見直し、私たちの生活や世界を取り巻く問題にも立ち向かえるコンセプトとしてデザインシンキングを再定義しました。
その中心となる考えに、「Human Centered(人間中心)」と「Creative Confidence(自分の創造性を信じる)」があります。

―Human Centered(人間中心)
「人間中心」とは、技術や商品ありきではなく、人間の快・不快などの感性に目を向け人間中心に物事をとらえるという考えです。
「商品の売上を上げるため」ではなく、「商品を通じて、人と商品の関係の質を変えていくため」というように、人間からみてどう世界が変わるのかという視点から問題に取り組みます。

―Creative Confidence(自分の創造性を信じる)
もう一つの考えが、「自分の創造性を信じる」こと。
想像力に必要なのは、アイデアと「自信」。
研修の冒頭で小島講師が述べたように、自己規制をかけず、いつでも創造性を引き出せると自分を信じることが、自分の創造性を開放するために重要だという考えです。

自分の感情に目を向けることは、人間中心的な考え方であり、またそれを自己開示することで、自分の可能性を信じることのトレーニングにもなります。
参加者の皆様には、ワークをまじえてIDEOの思想を実践・体感いただきました。

デザインシンキングのねらいと成功事例

デザインシンキングの目的は、ただ新しい商品を作ることではなく、その商品ができたことでどのように物語が変化するかを描くことです。デザインシンキングの成功事例は、どれも今あるものを生活者目線でとらえなおし、どう体験を変えられるかという観点から取り組まれています。

小島講師は、有名な事例として、薬の処方に小さなパッケージを用いた「Pill Pack」を説明しました。
ある病院では、患者が薬を取りに来ないという問題、取りに来た薬を正しく組み合わせる薬剤師の手間、複数処方された薬を患者が正しく飲めないという問題がありました。
そこで、デザインシンキングによって、一回に摂取するべき薬を、摂取するべき日時が書かれた小さなパックにまとめ、来院後日、一定期間ごとに患者のもとへ宅配するという解決策を編み出しました。
これによって上記の問題が解決されたほか、薬の消費が増え、売上も向上したという事例です。

参考:https://www.pillpack.com/

Pill Packの事例のように、患者、薬剤師という登場人物の物語がどのように変化するかという視点で取り組み、問題解決を図ることがデザインシンキングのねらいです。

デザインシンキングの肝、「問い」の立て方

では、どうすればデザインシンキングを実践できるのでしょうか。
問題解決は、①「問い」を立てる、②それに対するアイデアを出し仮説検証をする、③解決策をつくるという3段階で進みます。

ここで最も重要となるのは、スタートとなる「問い」の立て方です。
視野が狭い、前提がずれた問いから考えをスタートしても、その後の議論の方向性がまったくデザインシンキングの目指すところに向かわない恐れがあります。

では、どのように問いを立てると、デザインシンキングを有効に進められるのでしょうか。

創造の問い、追求の問い

問いには、大きく二つあると小島講師は説明しました。それは、「創造」の問いと、「追求」の問いです。
デザインシンキングの世界で重視するのは、「創造」の問い。逆に、「追求」の問いは課題解決を目的とする際に有効な問いの立て方です。

追求の問いは、「なぜ」から始まります。
これを自覚し、問いを意図的に立て直すことが重要だと小島講師は述べています。

セミナーでは、実際に問いの立て直しをワークを通して体験いただきました。
まずは問いの前提知識がない状態で書き出したのち、小島講師から創造の問い、追求の問いの説明を行ったうえで、書いた問いを創造の問いにリライトしました。
問いを立て直すことで、問題意識が表面的だったことに気づき、本質に目を向け直せることがわかったと、参加者の方からは感想が挙がりました。

問いの立て方は、コミュニケーションの質を左右します。
デザインシンキングの具体的なプロセスを進めるうえで、問いの立て方を変え、コミュニケーションを変えることは大前提となると小島講師は説明しました。
同時に、この点が肝であるからこそ、いざ実践しようとすると無意識的に追及の問いに慣れてしまっている私達には難しい点でもあります。
参加者の皆様からも活発に質問が飛び交いながら、「まさに思考の筋トレ、繰り返しが必要ですね」といった声が上がっていました。

デザインシンキングの5STEP

デザインシンキングの具体的なプロセスは、5STEPで説明されます。

<デザインシンキングの5STEP>
1.Empathize(共感)
2.Define(定義)
3.Ideate(創造)
4.Prototype(プロトタイプ)
5.Test(検証)

今回のプログラムでは、問題意識を持ち、問いをたてるプロセスである「1.Empathize(共感)」と「2.Define(定義)」に焦点をあて、参加者の皆様にフィールドワークを行っていただきました。
実際にセミナー会場近くの店舗等を観察して書き出した気づきから、テーマに沿って立てられた問いは次のようなものです。(一部抜粋して掲載)

チーム① 訪問場所:薬局
問い:
「気軽によれるランチスタンドとしての存在感を出すためには?」
「近隣施設とともに繁栄し、集客に貢献できる存在感となるためには?」

チーム② 訪問場所:業務用スーパー
問い:
「地域の人がもしもの時に頼れるお店にするには?」
「多国籍の人のニーズにこたえるお店にするには?」

チーム③ 訪問場所:画材店
問い:
「サラリーマンに新しい表現方法を提供するには ?」

いずれのチームも、問いを立てる工夫をこらし、顧客のペルソナを見立てたり、お店の特徴を洗い出したりと、訪問した場所に生まれる物語を想像しながらワークに取り組んでいる様子でした。

まとめ~意図的に「問い」・コミュニケーションの質を変え続けよう~

問いを立てるというプロセスを見直すことで、コミュニケーションの質を向上させ、ディスカッションをより良くする可能性があることを今回のプログラムで学びました。
普段の問いの立て方が追求の問いである場合、創造の問いに意識して変えてみると、問いの立て方の幅が広がり、場に応じて適切な問いが立てられるようになります。

全体の総括として、「問い」すなわちコミュニケーションの質を変え続けることがデザインシンキングの重要ポイントであるということを伝え、今回のプログラムは締めくくられました。

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