2020.06.12

HRカンファレンス2020春 「育てる」をやめると若手社員が「育つ」~現場と若手をつなぐ働き方の哲学~ ダイジェストレポート

WITHコロナ、AFTERコロナに向けてますます予測不可能な時代において、これから若手育成に何が求められるでしょうか。若手が業務遂行力を身に着けるだけでなく、自ら働く意義を見出し、キャリアを築く人材になるために、育成担当はどのように関わるべきでしょうか。

今回は2020年5月に行われた、「日本の人事部 HRカンファレンス2020春」の当社セミナーダイジェストレポートをお送りいたします。

同セミナーでは、『働き方の哲学』の著者であり数々の企業研修を行ってきた村山氏、AIGビジネス・パートナーズで若手育成のリーダーとして活躍する武信氏に登壇いただき、若手育成の課題と「働く意義」を醸成する育成アプローチについての講演を行いました。

 

■セミナー概要
2020年5月13日・日本の人事部 HRカンファレンス2020春内にて開催
『「育てる」をやめると若手社員が「育つ」~現場と若手をつなぐ働き方の哲学~』

■講演者紹介

キャリア・ポートレートコンサルティング代表
村山 昇氏
【村山 昇(むらやま のぼる)氏プロフィール】
『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)著者。1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、2003年独立。主に企業の従業員を対象に、プロフェッショナルシップ、キャリア教育、コンセプチュアル思考、管理職研修等のプログラムを開発・実施。

AIGビジネス・パートナーズ株式会社 人事部 Learning&Development
武信 絢子氏
【武信 絢子(たけのぶ あやこ)氏プロフィール】
2014年に旧AIU保険会社へ新卒入社。保険金支払担当業務の経験からトレーニングの道を志し、保険金支払部門専門のトレーニングチームを経て、2018年より現職。主に新卒社員導入研修、若手社員向け研修を担当。業務の傍ら、2016年より3年間、社内の若手社員向けグループ「Young Professionals ERG」の代表として若手向けの全社イベントを企画・実施。

リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部 プロジェクトマネジャー
川口 唯貴
【川口 唯貴(かわぐち ゆいき)プロフィール】
2016年大学卒業後、リ・カレントへ新卒入社。若手人材開発事業部「トレジャリア」の新規事業立ち上げに参画。2019年2月より同事業部のプロジェクトマネジャーを務める。”周囲の期待”と”自分の在り方”のギャップに悩みながら「自分の仕事観」を持つ重要性を見出す。若手が仕事を通し自身のキャリアを描く育成モデルを提唱。

1.若手育成の現状と育成効果が得られない原因

リ・カレントでは、新人・若手社員育成を行っている事業「トレジャリア」で20代社員の育成に力を入れている企業・人事担当者の皆さまをご支援しています。
トレジャリアの想い

1-1.若手育成の現状「育成労力と成長努力に見合う育成効果が得られない」

人事担当の皆様から多く伺うのが、「育成労力と成長努力に見合う育成効果が得られない」ということです。

OJT担当や上長は、若手社員の早期戦力化を図るための施策を打つものの、若手社員に指導が響いているか感触がありません。また研修を企画している人事としても、指導を行っている現場から良いフィードバックを得られていない。
一方若手社員は、自分のなりたい姿に成長できているか分からないという問題を抱えています。

1-2.育成効果が得られない原因「“育成”や“成長”における目的の差異」

では、なぜこのように育成担当・若手社員の双方が感じるのでしょうか。
それは、「若手社員の成長」に対して、どこに重きを置くかが育成担当と若手社員で異なることに原因があります。

育成担当は「業務遂行力が向上すること」を成長と捉え、正解にあたる具体的な指示・指導を与える指導をします。
若手社員は「仕事を通して、自分の目指す姿に近づくこと」を成長と捉え、日々の業務にあたっています。しかし実際の業務と自分の成長が結びつかず、自分が働く意義を見つけることが難しい傾向が多いようです。

つまり、人事担当者が育成効果を得られないと感じる要因は、この「ずれ」に起因していると考えられます。

もちろん、若手社員は日々の業務をこなしていくようになることも必要です。育成側が関わりすぎることで、若手社員が自発性を発揮し、仕事への動機を育むような機会を失うという弊害もあることは理解しなくてはなりません。

「若手社員が抱える不安として、明確に特定の業務・スキルに視野が限られていて、現在の業務がそのスキル向上に関連しない場合や、自分の将来像が漠然としており、日々頼まれた仕事を受け身で行っていることに何となく不安を感じている場合があります。会社で数年働いた経験を振り返って、このままでいいのだろうかと焦りを感じることが多いようです。」(村山氏)

それでは、『若手が育つ育成』を目指すにはどのように働きかけをしていけばよいのでしょうか。

2.若手育成のカギとなるのは「働く意義」を自ら見出せるかどうか

若手育成の望ましい姿は、担当の業務が遂行できるようになることだけではなく、若手社員自身が自ら「働く意義」を見出せるようになることです。

そのためには「業務を遂行する力」と「仕事への意義付けをする力」を、若手自身が同時に高められるように、育成側は若手に対して関わっていくのが一番良いのではないかと、リ・カレント若手人材育成事業部の川口が考えを述べます。
若手人材育成においては、「キャリアを自ら築き上げ、自ら育つ」若手の育成を目指していくべきではないでしょうか。

「仕事観や、職業人としての在り方など、働くことの本質は土台にあたるところ。知識・スキル・業務処理の方法をどれだけ伝えても、本質を伝えていかなえければ若手が成長観を得ることはできません。」(村山氏)

「私自身もそうですが、若手社員が働く意義を自ら見つけるのは難しいことだと思います。大学卒業まで、テストで点数を取ることや、与えられた問題を解決する教育を受けてきた人がほとんど。正解がない中、自分の答えを探せるようになるには、研修プログラム内で自分に矢印を向けて話す機会や、上司との1on1で本音を吐き出してもらう機会を繰り返し設けることが必要です。」(武信氏)

それでは実際どのくらいの若手社員が、働く意義を持って仕事をしているのか、リ・カレントが行ったアンケート調査の結果をご紹介していきます。

2-1.「働く意義を明確に持っている」と答えた若手社員はわずか13%

2020年4月にリ・カレントは働く意義を持っている若手社員はどのくらいいるのか、独自調査を行いました。
調査結果によると、「働く意義を明確に持っている」と答えた若手社員はわずか13%でした。

「働く意義を明確な形で持っていない」と回答した残りの87%にその理由を聞いたところ、「そもそも働く意義が分からない」「必要性を感じていないと」いう回答が約7割(67%)にのぼりました。

2-2.キャリアイメージを持っている若手社員は約1割

同じ調査にて、キャリア観(=中長期的な働く姿のキャリアイメージ)を持っているかを訊ねる質問では、89%もの若手社員が「明確な形では持っていない」と回答しました。

それでは、若手社員が「働く意義」を見出し、自らキャリアを築き、育つ人材になるためにはどういった施策を講じるべきでしょうか。

2-3.働く意義を持っている若手は貢献意欲が高く自主的に行動する傾向

先ほどと同じ調査で「仕事に求めること」を聞いたところ、働く意義をもっている仕事観のある人は「一緒に働く人に対しては、役に立ちたい・喜んでもらいたい」と感じていることがわかりました。

先ほどの調査からも、働く意義を持っている人は、他者に対して貢献意欲が高く、自主的に行動する傾向が見られることは確かです。

それでは、自主的に行動するために自分が働く意義=「観」やマインドをもつにはどのようにしていけばよいでしょうか。

3.働く意義の重要性と仕事観・マインドを醸成する育成アプローチ例

ここからは村山氏に働く意義の重要性や、形成していくアプローチについて、研修でのワークの内容も含めて紹介いただきました。

3-1.働く意義をもつにはどうすればよいのか

「働く意義は、内発的動機の一番根の深いところから生まれるものです。部署異動で配属先にミスマッチを感じたとしても、自分の働く意義にかなうと思えば、モチベーションを落とさず努力を惜しまない気持ちがわくものです。」(村山氏)

そもそも、自分が働く意義=「観」とは「教え与える」ものではなく、醸成するものです。
上司や組織はその醸成のお手伝いができるというスタンスこそが、必要だといえるでしょう。

観とマインドの醸成を上司が刺激をして、組織が組織文化として働くこととして哲学を考えるのが必要かと、文化として考えることが必要です。

村山氏の研修では、キャリアをつくる要素として3層のモデルで解説し、特に第3層をワークなどで醸成できるようアプローチし、観が深まるようにしていきます。
第1層は、スキルや知識、第2層は、態度・習慣といった行動特性、そして第3層は観・マインドで構成されています。

対して多くの社員育成では、第1層のスキル・知識の教育に手をかけすぎていて、第3層へのアプローチがおろそかになっているといいます。

観・マインドは、教え、与える意味での教育が難しく、あくまで個人の内面から醸成されていくもので、育成側は観を醸成するための啓発や、手伝いができるにすぎません。

3-2.提供価値と成長観を言葉にする

「働く意義」といった観・マインドの醸成がなされると、職業人としての自分を「提供価値」で捉えたときに変化が現れます。

自己紹介をする時の名乗り方で、職業人として自分をどう捉えているかが伝わります。

所属会社で名乗る人は、会社に自己定義が紐づけられています。
職種で名乗る人は、知識・スキルからアプローチしています。
提供価値で名乗る人は、観・マインドかといった内的な要素から自分を定義しています。

「業務を行うだけでは、一定のところで成長がとまってしまいます。具体と抽象の往復を繰り返すことが観を醸成する上で重要です。また、個人のワークにとどまらず組織全体としても、個人の成長や働く意義をどう考えるかを発信することで、若手の成長観の醸成を促すことができるでしょう。」(村山氏)

村山氏の研修プログラムの一つに、「私の提供価値宣言」というワークショップがあります。会社名や職業名でなく、自分が提供したい価値で自分を捉えることで「仕事観」が醸成され、社内の人事異動など予期しない外部環境の変化があっても、自分なりに意義を見出すことができるようになります。

「成長観」についても、概念化と具体的な行動に落とすプロセスの繰り返しが必要です。ただ経験を積むだけでなく、経験の中から最も成長した出来事を抽出し、それを絵や言葉にすることで、自分にとっての成長を捉えなおし、次の成長に向けた具体的な行動に落とし込むことができます。

3-3.リ・カレントが考える若手社員の育成のステップ

リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部「トレジャリア」は、若手社員が仕事を通して「自分が働く意義」を見つける育むため以下のような育成体系を提唱しています。

働く意義を若手社員が自ら見つけられるようになるためには、以下のポイントを意識してハイブリッドな育成を設計していくとよいでしょう。

若手の育成施策を作る際のポイント

・時間軸を持った育成施策にする(一朝一夕で働く意義は見つからない)
・年次ごとのSTEPを明確にする(1年目ではここまでできていればOK等)
・(若手は)働く意義が変化(アップデート)していくという前提を持つ

OJTトレーナー及び上司関与のポイント

・働く意義を引き出す関わりを行う(働く意義は若手だけで見つけられるものではなく、上司及びトレーナーの支援が重要
・働く意義に正解はないからこそ、引き出すと同時に自身の言葉で語ることで新人の考える材料や働く意義のサンプルを増やす
・各年次に応じて支援方法を変える(一緒にやる、やり方を示す、どのようなサポートがいいか聞く)

ここからは、働く意義をどのようにつくっていくか、について先進的に行われているAIG様の事例を武信氏にお話しいただきました。

4.AIGビジネス・パートナーズ社における若手育成の事例

では、実際若手育成制度や育成プログラムをどのように設計すればいいのでしょうか。AIGビジネス・パートナーズ社で、武信氏が取り組んでいる若手育成事例をご紹介いただきました。

武信氏によれば、若手社員にマインドのアプローチを実践してするときのポイントは2つだそうです。

マインドに影響を与えるような、学びの場を提供するためにどのようにしているか

マインドにアプローチするときの手法

4-1.育成計画は育成側のかかわりも設計する

「入社後3年間で働く意義を見つけることをゴールに、1年目、2年目、3年目で若手社員がターゲットとする目標とともに、各年次においてOJTトレーナー、上司がどのようなかかわりをするかも設計することがポイントです。」(武信氏)

求める人材の定義づけから上司を巻き込み、上司と若手が手と手を取り合って一緒にゴールへ歩いていくことを心がけて育成プログラムが設計されています。なぜなら、マインド醸成に与えられる影響は、一時的なトレーニングよりも、普段の業務や職場でのコミュニケーションから多くを得られると考えているからです。

そのために、トレーニング以外にも、役員とのランチセッション等、企業文化を作る活動の企画・運営にも、積極的に若手社員を巻き込んでいます。

4-2.行動変容を生むトレーニングアプローチとメソッド

「行動変容が起こらなければ、トレーニングの意味がない」と武信氏はいいます。プログラムデザインコンセプトに、トレーニングの場で重要視しているアプローチが現れています。セミナーの場で紹介された「Own Your Career」には、「自分が会社という環境の中でどう成長していきたいか?」を内省するアプローチを、また「なぜこれをする必要があるのか?」を常に問いかけ、「Why」を言葉にするアプローチが表現されています。

具体的なトレーニングメソッドとしては、集合研修の場で相互のコミュニケーションを多く取り入れています。研修の場では、講師が解説するのではなく、質問を繰り返し深め、一人ひとりが自ら答えを見つけるプロセスを取り入れることで、自分で目標設定をするマインドが醸成されやすくなります。また集合研修以外に1on1を導入することでじっくりマインドにアクセスする場を取り入れているといいます。「トレーニングの賞味期限は1年」(武信氏)。配属後、現場での上司との関わりも含めて、若手が自ら目標や働く意義を考える育成づくりに取り組むことが重要なのです。

まとめ

自ら育つ若手を育成するには、若手の内面にある「自分が働く意義」を育成側とともに育むことが必要です。
そのためにはスキル面のアプローチだけではなく、「観」を若手が自ら見出すためのサポートをする設計が重要だといえるでしょう。

「『仕事観』を醸成するという意味においては、人事育成観を見つめなおす必要があります。つまり、今まで外的要素、内的にもアプローチをかけていく必要があるのではないでしょうか。」(村山氏)

「仕事観、マインドを育てるには長い時間がかかります。若手社員だけにターゲットを絞るだけでなく、職場ぐるみで、若手社員が目指す姿にどう向かうかをコンサルティングしていくのが、私たち人事のできることだと考えています。」(武信氏)

リ・カレント若手人材開発事業部トレジャリアは1~3年目の若手及びその育成に従事するOJTトレーナー、育成者の教育研修を専門に扱う事業部です。

特に本講演のテーマである若手が働く意義を育む過程では、壁にぶつかることが多くあると思います。〇〇ができない、なりたい自分がわからない、他者との比較で劣等感を感じる等働く意義を探す渦中にいるが故の難しさがあります。

トレジャリアでは、そのような若手の支援を行うと同時に育成担当の皆様及び人事の方と一緒に若手の20代のキャリアを育む支援を行っていきたいと考えています。

若手育成の課題は、組織全体の課題。業務・スキル面の教育にとどまりません。働く意義を醸成する若手育成を、ぜひわたしたちと共に考えていきませんか。

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