なぜ新人は「手を挙げない」のか?自己効力感×自己決定感で若手をストレッチゾーンへ導く5つの成長STEP
目次
入社から半年、1年目社員の現状を見て
「全体的に真面目だけど、このまま2年目になってしまうと正直不安だ」
「言われたことは無難にこなせてはいるけど、なんだかもの足りない」
「もう少し積極的になってほしいが、本人の行動になかなか変化が生まれない」
このようなお悩みを持つ人事の皆様を対象に開催された今回のセミナーでは、
新人が伸び悩む原因と、自ら動き出すための5つのステップをご紹介しました。
!このセミナーのポイント
・新人が業務を無難にやりすごしてしまい成長が伸び悩む理由
・新人が挑戦するために必要な2つのポイント
・新人の伸びしろを現場で伸ばす5つのステップ
新人育成の課題:なぜ新人は「手を挙げない」のか?
セミナー冒頭、実際に部下を持ち新入社員の育成にも携わる立場から、「自身が新人として入社したときと比べても、今の新入社員ではかなり環境に変化がある」と語る松本講師。
「自分から質問しに来ない」「言われたこと以上のことをしない」…
研修現場でもよく聞かれる課題感があげられる中、
「自分から手を上げて何かにチャレンジしない」
という課題に参加者の皆様の共感が集まりました。
他にも、
「自ら発信しないので、何を考えているのかわからない」
「10月~現場配属を迎え、OJTはどのように関わっていけばよいのか」
何事にも「『みんなで』感が強い」「自分ごとで考えておらず、傍観している感じがします」
といったお悩みの声があがりました。
「研修現場でも、講師の問いを『自分に問われている』と自分事で受け取れない受講生が増えています」と語る松本講師。
講師は新入社員によく見られる行動を以下のようにまとめた上で、
一言で「コンフォートゾーンから出ない状態」であると定義しました。
新入社員は、失敗のリスクや不安が少なく、あくまでも今の自分が問題なくこなせる仕事の領域に留まってしまいがちというのです。
それでは、なぜ「コンフォートゾーンから出ない状態」が生まれてしまうのでしょうか?
セミナーでは、その理由が「世代傾向」「環境要因」の2つの側面から語られました。
・自分の行動に根づいた一次情報よりも、SNSなどを通じた二次情報があふれる環境
・世代的な教育方針などもあり、失敗経験や他者とのぶつかりの経験の少なさ
これらが組み合わさることで、新入社員は自然とコンフォートゾーンから出にくくなり、
結果として成長が伸び悩み、チャレンジ経験も少なくなってしまうケースが増えているのです。
自己効力感~ストレッチゾーンへの挑戦に必要なもの①~
それでは、新入社員が安心だが成長の少ないコンフォートゾーンを抜け出し、少し背伸びしたストレッチゾーンで気づき・学んでいくためには、何が必要なのでしょうか。
ストレッチゾーンへの“踏み込み”のカギになるのは「自己効力感」=自分には実行できる・外部に対し影響を与えられるという感覚であると、実際の育成事例を交えて松本講師は語ります。
これが欠けた状態で挑戦を促しても、「自分にはできません(できるはずがない)」と新入社員は挑戦にブレーキをかけてしまいます。
今の新入社員・若手社員は、「ありのままの自分」を肯定する自己肯定感が高い一方で、
「自分にはできる」と考えられる「自己効力感」が低いといわれます。
これらが合わさることにより、「なにもできない自分は、何もしないことが最も最適だ」と思い込んでしまう傾向として表れます。
何もしないことで周囲も自分も安全な状況を保とうとする“最適状況探し”によって、新入社員は自らコンフォートゾーンに留まり続けてしまうのです。
自己決定感~ストレッチゾーンへの挑戦に必要なもの②~
彼らがストレッチゾーンへ挑戦していくために必要なもう一つの要素は「自己決定感」です。
自らの理由や意志を持ち仕事に取り組む「自己決定感」は、ほとんどがオンラインでの面接~入社というフローを経験している今の新入社員にとってますます得られにくくなっています。採用・入社・また育成初期の身体的経験が少ないため、新入社員自身が五感で働く環境をとらえられていないことが多いためです。
「仕事へのネガティブな思い込み…『仕事は我慢して当たり前』『働くことは楽しくないもの』といった先入観を多くの新入社員が持っていることも、自己決定感を持ちにくい理由のひとつです」と講師は課題感を共有しました。
調査によれば、自己決定が高まることで幸福感が高まり、幸福感が高まることでレジリエンス=「失敗してもいいからやってみよう」ととらえられる力が高まり、挑戦がしやすくなります。
新入社員・若手社員が主体的に挑戦していくためには、欠かせない感覚であるといえるでしょう。
「挑戦を楽しむ」~新人のあるべき姿とそのポイント
ここまでを踏まえ、松本講師は「これからの若手育成」のコンセプトを
「自己効力感×自己決定感→Ownership(主体性)」
とまとめました。
自分の安心な領域から一歩外に出て挑戦し、周囲からフィードバックをもらうことで、より新しいことが“できるようになっていく”楽しさを、新入社員・若手社員に伝え、体感して知ってもらうことで、自ら挑戦する若手社員を育成する。
これは、新入社員育成だけでなく、各社からお悩みの寄せられる「次期リーダー人材」「中堅社員」の育成という観点からも、非常に重要になるといえるでしょう。
新入社員が持つ伸びしろを成長のヒントに変えるための5つのステップ
松本講師は、実際に新入社員の自己効力感・自己決定感を育み、挑戦行動に結びつけるための5つのステップを図示しました。
そして、中でも、「フィードバックをもらう」STEPにおいて、リモートワークでの若手指導が陥りがちな落とし穴を指摘します。
「リモートワークでは『結果』(資料、文章、打ち合わせの結果)がメール・チャットで飛び交うので、プロセスも結果に偏重しがち。しかし、非常に重要なのは「プロセス」へのフィードバック。仕事への取り組み方や、仕事をどうとらえて実行したか、先輩・上司自身の『自分も新人の時ね…』といった自己開示を交えて伝えることがとても大事」
また、「内省」STEPにおいては、「自分なりの言葉で問いを立てて考える」ことの重要性を強調しました。
OJTや周囲はここで待てずに、つい「全部教えて」しまいがち。
あくまで新人自身が考え、自分の言葉によって気づくのを「待つ」関わりが、その後大きな効力を持つ学びとなります。
“言われたことはちゃんとやる”Aさんが挑戦できたきっかけ~実際の育成事例
セミナー内では、5つのステップによる新入社員の成長がよくわかる実際の育成事例も紹介されました。
上司との打ち合わせ前、指示された事前準備をしっかり行って臨んだにも関わらず、
「言われたことをこなしているだけなんだね。あなたの意見はないの?」
と言われてしまった新人Aさん。
「なぜそう言われたのかわかりません。私なんかの意見、価値がないと思うし…」
と悩むAさんに対し、
先輩は「事前準備(言われたこと)しっかりできたのはすごいよね。半年前までは苦戦していたじゃん!」と、まずはAさんが行動したことを肯定したフィードバックを行いました。
自己効力感が高まったAさんは、「“言われたこと”に加えて自分にできることはないだろうか」と考え、先輩と上司の打ち合わせの様子を見せてもらって観察を行います。先輩が情報を集めて整理する準備だけでなく、自分なりの仮説をたてて提言・提案を行っていることに自ら気づいたAさんは、徐々に自分なりの仮説を立て提案することに挑戦するようになったといいます。
「できるかわからないけど、ちょっとやってみたいなって思えることが増えました」と語るAさんは、まさに5つのステップを経て少し外へと踏み出すことができた若手社員のモデルといえます。
行動先行のマインドセット~Ownership(主体性)を育む学習のしかけ
セミナー内で、「チャレンジが楽しいと口にする新入社員を一緒に育てていきましょう」と、
「新入社員・若手自身が挑戦・成長を楽しんでいる」状態を目指すことを繰り返し強調した松本講師。
講師とリ・カレントが提唱する、これからの新入社員の「マインドセット方法」は、マインドの前にアクション=行動を置きます。
元々仕事を「苦役・我慢して耐えるのが当たり前」とネガティブな思い込みでとらえていることが多い新入社員に対し、その思い込みをそのままに「主体性」というマインドセットで迎えても、現場で出会うどんな仕事に対してもネガティブにとらえてしまいやすいため、行動・挑戦は生まれにくくなってしまいます。
マインドセットを行う前段に、「行動」をセットして育成することで、新入社員自身が自らの五感を通じて得た経験・気づきを元にして、思い込みに依らない、自身にとっての『仕事』を言語化し、マインドとして育てていくことができるのです。