2024.12.12

HRカンファレンス2024秋:明治安田の管理職育成を通じた エンゲージメント向上施策とは ~カギは数値評価の脱却と働きがいの高め方

エンゲージメント向上に取り組む企業が増える一方で、その効果を感じている企業は多くありません。

背景の一つにあるのは、社員のエンゲージメント向上に管理職がうまく関われていないことです。

明治安田では、これまでの数値評価を脱却し、管理職の日常的な関わりによって働きがいを高めることに取り組んでいます。

HRカンファレンス2024秋 特別講演では明治安田が実践する管理職育成を通じたエンゲージメント向上施策のポイントをご紹介しました。

本記事では講演の様子をダイジェストでご紹介します。

登壇者紹介

明治安田生命保険相互会社
業務部 業務人事・教育担当部 北山登彦 氏

リ・カレント株式会社
人材組織開発プロデュース部 マネジャー兼エンゲージメント事業部長 谷口大岳
人材組織開発プロデュース部 サブマネジャー 中窪桃花

問題意識の共有:エンゲージメント向上施策の実情

人的資本を高める上で欠かせないエンゲージメント。
2020年頃から、日本でもよく耳にするようになった言葉です。

▶エンゲージメントとは? 基本の解説はこちら!
https://www.re-current.co.jp/column/column/8474/

しかし、エンゲージメント向上施策の効果を実感できているのは全体の2割以下に留まり、7割近くの企業ではエンゲージメント向上施策の実施自体がまだされていません。

また、施策を実施している企業においても、一般社員と管理職の間には認識の開きが見られます。
経営・人事や管理職が思っているほど、一般社員に施策が伝わっていない可能性があるのです。

管理職から一般社員まで、エンゲージメント向上施策を浸透させる難しさは、施策を考える上で避けては通れない課題でしょう。

また、社員の立場から見た「自社の課題」に目を向けてみると、キャリア成長や人材育成が社員にとって重要なテーマである一方で、評価制度がそれに次ぐ課題として挙げられています。

今回ご紹介する明治安田様の事例では、これらの課題の関連性に着目し、評価制度の見直しと理念浸透を分離せず、管理職育成を軸に両者を統合したサイクルを構築することで解決が図られています。

次からの章では、同社で現場での業務経験を持ちながら、施策の企画・実施を担当された北山様のお話をもとに、管理職が基準行動を理解し、部下を適切に評価・育成することで、社員のエンゲージメント向上と企業全体の成長の同時実現を目指した明治安田様の事例をご紹介します。

明治安田様 事例紹介:管理職育成を通じたエンゲージメント向上施策

エンゲージメント向上施策 実施の背景

北山様(以下、敬称略):
「明治安田は2024年1月に「明治安田生命」から社名の通称を変更いたしました。
この変更には、保険会社として生命保険販売の枠を超えていくという意図が込められており、主に二大プロジェクトとして、健康寿命の延伸や地方創生の推進に取り組んでまいります。

明治安田では、2020年に「My Mutual Way2030」という十年計画を始動しました。
ビジネスモデルの変革を余儀なくされる昨今の環境変化への危機感から、今後30年で予測される環境分析を検討し、時代を超えたお客様志向の経営を実現していくことを目指して策定されたものです」

この10年計画の一環として、社内の制度・インフラの抜本的な見直しや企業理念を表す「明治安田フィロソフィー」の更新が行われた、と北山氏は言います。
従業員一人ひとりの個性や価値観を尊重することを前提に、企業理念に共感する人材に長く働いてもらうため、エンゲージメント向上が重視されるようになりました。

こうした背景から、全国約1000名の営業管理職(営業所長)を主対象とした、評価と理念浸透の両軸でのエンゲージメント向上施策が始まりました。

北山:
「評価については、各営業所長が現場の営業職員を評価する『所属長評価』という制度を2018年より実施しました。

私達の企業において、営業所長や拠点長というのはもともと評価権も人事権もないポジションだったため、現場のマネジメントをしていくのが難しいという声がありました。
そこで、管理職のマネジメント力強化のために導入されたのがこの『所属長評価』制度です。」

実は、全国各地の拠点長が営業職員に対して評価を行うという試みは、保険業界では初めてのものだったとのこと。
保険業の営業職員は元来、自身の業績で給料が決まります。
そこに拠点長が数値に表れない組織貢献の評価を加えることで、マネジメントを強化しつつ明治安田フィロソフィー(企業理念)に共感してくれる人の働きがいを向上させる狙いの仕組みとなっています。

また、所属長評価の評価項目は明治安田フィロソフィーに紐づいており、評価によって理念浸透が促進される意図が込められた設計がされています。
まさに評価と理念浸透の両輪を繋ぐ車軸のような役割を果たしているのです。

北山:
「同時に、理念浸透のための施策としては、全国105支社にて営業所ごとのビジョン・ バリューの作成や、 価値観・課題感の共有をするワークショップ『ファミトレ』を実施しました。
拠点長と営業職員が、自分の考え方を共有する機会を作ってまいりました」

評価×理念浸透を軸としたエンゲージメント向上施策 3つのポイント

こうして明治安田の全社的なエンゲージメントへの取組みは始動されました。

同社で実施されたエンゲージメント向上施策が管理職を中心に広く浸透し、全国各地の営業所まで行き渡るものとなったキーポイントは大きく3つです。

1:評価と理念浸透の両軸での施策実施

北山:
「明治安田という会社で長く働いていただくためには、個々の価値観をしっかりと尊重し、企業理念に共感をしてもらうこと、そしてそれがまた自身の評価に明確に繋がっているということを分かっていただくことが重要となります。

理念浸透、バリューの体現に力をいくら置いても、その言動が評価される仕組みがなければ浸透は進みませんし、評価の基準や運用が適切に実施できていなければやはり納得感や共感を持って働き続けてもらうことは難しくなると考えております。

特に今回の施策においては、従業員の中でも営業職員のエンゲージメント向上を主眼とし、彼らの評価者である全国105支社約1000名の営業管理職(営業所長)に重点を置いて取り組んでまいりました」

2:段階的な導入による対話機会創出

「今回の施策では、段階を踏んでしっかりとワンステップずつ実施をしていくことを徹底しました」と語る北山氏。

2021年から施策を始め、初年度は評価の基礎知識やその時点での人事評価力を確認。
その後、評価する行動基準のすり合わせを行う場を作り、評価基準の統一を図るとともに、管理職の意識を業績数値から数値化されない組織貢献へと向けていくよう意識改革を進めました。

そして新制度による評価がある程度進んだところで、バリュー共有ワークショップ「ファミトレ」や分科会の場を設け、意見交換や成功事例の共有を推進しています。

北山:
「あえて日常業務から手を止めて対話する機会を会社として作ることで、実際に素直な意見やなかなか普段聞けなかった情報の共有ができ、実際に自拠点営業所に持ち帰って改善が図れたという声を多く聞いております」

3:所属長評価制度の浸透

北山:
「こうした施策を、全国約1000人の営業管理職を対象として、その一人ひとりをしっかりと動かしていくために、実際の好事例を取材して伝えていくことにいたしました。

本部からのマニュアルや参考書の案内だけでは、やはり実際にどうやってやるんだ、どういった効果があるんだという声が出やすくなります。
この点を、実際の様子と運用のポイント共有という形でインタビュー動画にして見える化をし、運用のイメージをしていただく一助としています。

また、評価者だけでなく被評価者(営業職員)にもインタビューを行うことで、日常の行動評価を基にしたフィードバックの重要性を共有しています」

社員の声

講演では、実際に社内展開されたインタビュー映像もご覧いただきました。
このインタビュー映像はリ・カレントが制作協力しております。

本記事では社員の皆様の声を一部抜粋してご紹介します。

営業職員:
「以前は業績に重点を置いた内容が中心でしたが、最近ではプロセスや『Kizuna運動(企業風土創造・ブランド貢献運動のこと。「お客さまとの“絆”」、「地域社会との“絆”」、「未来世代との“絆”」、「働く仲間との“絆”」の4つの絆を深める活動を指す)』における貢献についても話し合うようになり、職場の雰囲気が明るくなったと感じています。プロセスを意識する社員が増えたことで、営業所全体の一体感が高まり、仲間やお客様に対する言動にもポジティブな変化が見られます。数字以外の貢献も評価されるようになり、「自分のままで良い」と安心感を得た社員も多いようです。」

拠点長:
「営業部全体が60名以上という大所帯であるため、一人ひとりが『見てもらえていない』と感じないよう、常に声かけを意識しています。また、営業部の幹部メンバー約10名が理解、納得して腹落ちした状態で管下にも伝えていくという流れができるようには意識をしております。」

施策対象者と推進担当、両方の立場を経験したから見えたこと

講演の後半では、施策支援を担当したリ・カレント中窪より、開始当時の様子や、北山様が業務人事・教育担当部へ異動されて施策浸透側になってから感じたことなどさらに具体的なお話を伺いました。


中窪:
「施策開始当初は、北山様も施策の対象者である営業所長の役割についていらっしゃったと伺っております」

北山:
「そうですね。評価施策開始時は営業現場で営業所長をしており、約50名のスタッフ全員を評価する難しさを感じていました。
評価対象となる行動や貢献は業績に表れないため、納得感を得るためには分かりやすさが重要となります。運用側に移ってからも、納得感の醸成はこの評価制度の課題だと引き続き思っております」


講演では、次のようなトピックについて詳しくお話を伺いました。

  • 施策導入と評価の課題
  • バリュー共有ワークショップ「ファミトレ」を実施した感想
  • 本社と現場(全国拠点)のギャップ解消

本記事では、視聴者からのご感想でも多かった「本社と現場(全国拠点)のギャップ解消」についてご紹介します。


中窪:
「北山さんが今の本社側の立場において、全社への施策浸透に感じる難しさについて教えてください」

北山:
「やっぱり現場と本社の感覚や考えというのが、まだまだ大きく違うのかなと考えております。

営業現場の営業所長は大体3年から4年で異動があります。
そうした状況において、本社が長期的なスパンでの話をしても、やはり現場としては短期的な視点になりやすい。このギャップをいかに埋めていくかということが重要だと感じております。

実際、私自身も最近まで営業現場におりましたので、拠点長としては短期的な業績を上げなければという感覚は少なからずあると思っております。
だからこそ、いかに本社から現場にとってのメリットを伝えるか、実際にやってみようと思ってもらえるかが重要だと強く感じております。

業務人事担当部として、全国拠点に向けて発信できる回数というのは年間で限られております。
その数少ない発信の中で、極力現場の業務負荷を減らせるようにと考えております」

中窪:
「実際に営業管理職の方が約1000名いらっしゃれば、各拠点の状況は様々ですよね。

リ・カレントとしても毎年ご支援の機会をいただいていますが、どのように拠点長の皆様に学習や実践の意欲を高めていただくか、北山様とともに頭を悩ませている感覚がございます。

拠点長に対して、明治安田のスタンダードとして何を発信していくのか、そしてそれをどのように定着させていくのか。
その時々の評価や理念浸透の状況に合わせた施策として、本社からの一方的なメッセージではなく、現場の状況を組み上げた双方向の形で提供できているということは、非常に意義のある取り組みだなと私自身感じております」

まとめ

今回の講演では、明治安田様の事例をもとに評価と理念浸透の両軸で推進する、管理職育成を通じたエンゲージメント向上施策をご紹介しました。

エンゲージメント向上施策において、管理職以上の層と一般社員の認識ギャップは施策浸透の大きな壁となります。

その解決方法の1つが、管理職育成を軸に評価制度の見直しと理念浸透を統合したサイクルを構築することです。

リ・カレントでは、社員のエンゲージメント向上の支援として、今回ご紹介した「評価力向上」「理念・ビジョン浸透」に「現状把握・課題分析」を加えた三つの観点でのサービスを提供しております。

こうしたことでお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
「エンゲージメント向上施策を始めたいが、何から手を付けるべきか悩んでいる」
「現状の施策で効果が出ているか知りたい」
「エンゲージメントサーベイを取ったが、現状把握に留まっており次の施策を検討したい」

本記事がエンゲージメント向上に取り組む皆様の参考となれば幸いです。

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