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中期経営計画の形骸化を打破せよ!~マネジャーに求められる3つのビジョニング力~

2019.03.8

 1980年代に、右肩上がりの成長を前提として、多くの日本企業が「中期経営計画」を導入しました。上場企業ではいまや当たり前のように作られていますが、そのような中期経営計画が、現場レベルでどれだけ実行され、実現されているでしょうか。
 むしろ「現在のように事業環境の変化が激しく、将来が不確実・不透明な状況下では、多くの時間と労力を費やして中期経営計画を作っても意味がないのでは」という懐疑論や経営計画そのものを不要とする声も聞かれます。しかし、計画を策定しても意味がないというのは、けっして外部環境のためだけではありません。

 中期経営計画を掲げながらも、現場の共有・共感が得られていない。肝心の管理職層が目先の業務・業績に追われ、「なぜ」(Why)、「何のために」(What for)計画を実行するのかという目的・目標を見失っている。中期経営計画が現場で形骸化し、意味のないものになってしまう本当の原因は、それが“数字だけで語られているから”ではないでしょうか。

 人は数字では動きません。変化と多様性の時代だからこそ、現場のリーダーが数字ではなく、自組織の目指すべき将来像をもって中期計画を語るべきなのです。

 そこでリ・カレントでは、現場のリーダーである管理職層にスポットを当て、マネジャー自身が組織の目指すべき姿を自らの言葉で訴え、そのビジョンをメンバーと一体になって実現するためのスキル──「ビジョニング力」の開発支援に力を入れています。
 ともすれば形骸化しがちな中期計画や組織のビジョンを誰もが自分事化し、実現困難な課題にチームワークで挑戦していく組織文化をいかにして創るか。今回のセミナーでは、そんな「ビジョニング力」に必要な3つのポイントをご紹介しました。

ホワイトペーパーは下記フォームからダウンロードしてください

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ビジョンとは“単なる将来像”ではない

「多くの企業の人事担当役員や経営トップの方々に、ビジョンに関する問題意識をお伺いしたところ、『企業組織を悩ますマネジメントの7つの症状』が見えてきました。皆様の会社ではこういう症状が出ていませんか?」──セミナーの冒頭、石橋講師から参加者の方々へ、以下のようなチェックリストが示されました。

(1)中期経営計画の中で、会社のビジョンが絵空事になっている
(2)ビジョンが経営企画部門による分析手法だけで作られている
(3)マネジャーが、ビジョンの個人的・組織的効果を実感していない
(4)マネジャーが自部署のビジョンをつくっていない(目標・計画のみ)
(5)マネジャーがビジョンづくりにメンバーを巻き込んでいない
(6)メンバーが目標や計画を本気で実践できていない
(7)組織が現状維持・保守的文化に陥っている

 このなかで、現場レベルで改善されるべき「症状」は(3)~(7)です。すなわち、マネジャー自らがビジョンの効果を実感し(3)、ビジョンを作り(4)、メンバーを巻き込んで(5)、実践する(6)。これができれば、守りから攻めへと文化が変わり(7)、実現困難な目標にもチャレンジする強い組織へ進化していくでしょう。

 誰よりもまず、組織のミドルマネジャーが変わらなければ、現場へのビジョン浸透はありえません。
 では、そもそもマネジメントに必要なビジョンとは何でしょうか。
 これは、個人と組織の両面から考える必要があります。ビジョンとは一般的に「将来像、目指す姿、中・長期的なゴール」を意味しますが、たんなる将来像では事足りません。

●個人にとっては
 →「コミットメント(最後までやり切ること)を誘発する将来像」

●組織にとっては
 →「エンゲージメント(個人と組織が貢献し合うこと)を誘発する将来像」

「個人にとっては『コミットメント』が重要。最後までやり切ろうと、そう思えるような将来像でなければ、目指すゴールにはなり得ません。また、組織にとっては『エンゲージメント』──組織と個人が熱意をもって貢献し合う関係を誘発する将来像でなければならない。その両方が揃って、初めてビジョンといえるのです」と、石橋講師は強調します。

ミッション・ビジョン・バリューが組織にもたらす強い効果

 こうしたビジョンに基づくマネジメントがどれだけ素晴らしいチームをつくるのか。参加者の皆様とイメージの共有を図るために、講師から一つの実例が紹介されました。
 2015年ラグビーワールドカップ(WRC)に出場した日本代表チームです。日本代表は初戦で、「絶対に勝てない」といわれた優勝候補の南アフリカを撃破。ブックメーカーの賭け率で129:1という圧倒的不利を跳ね返し、劇的な逆転勝利で世界を驚かせました。
 勝負を決めたのは試合終了間際のラストプレー。監督が着実に同点を狙うキックで得点を取る指示を出したにもかかわらず、選手たち自身が、いわば現場の判断で逆転狙いのトライにチャレンジして、偉業を成し遂げたのです。なぜ、彼らは土壇場でそんなことができたのでしょうか。

ビジョニング 組織の方向を示す目的・目標・計画

 スポーツほど劇的で、わかりやすい結果が出るわけではありませんが、ビジネスの世界でも、ミッション・ビジョン・バリューを語ることで現場が奮い立ち、困難を乗り越えて、革新やイノベーションを成し遂げた事例はいくつもあります。

 有名なところでは、達成不可能といわれた米国マスキー法(排気ガス規制法律)を世界で初めてクリアした、本田技研工業の低公害CVCCエンジン開発プロジェクトチーム。排ガスレベルを従来の1/10にまで削減するというイノベーションの根源には、「子供たちに青空を取り戻す」というミッションがありました。それは開発現場で働く、名もない一エンジニアが発した言葉だったといいます。

Visioning_図2_他社のビジョニングによる革新例

 ほかにも、世界初の完全ノンアルコールビールを開発したキリンビールでは、ノンアルコールビールが売れそうだからという理由で開発をしたわけではありません。キリンビールのミッションは、当時社会問題となっていた飲酒運転の事故をビールメーカーとして真摯に捉えた結果、「飲酒運転を社会から撲滅する」ということをミッションに掲げ、ビールからアルコールを抜くのが不可能と言われていた製造現場を動かし、アルコール度0%のノンアルコールビールの開発に成功したのです。

 また、日本の動物園で初めて“動態展示”に成功した旭山動物園の革新などは、現場の飼育スタッフ自らが「旭川市民に動物のありのままの姿を見る喜びを届ける」という使命に気づいて実践した同様の事例として挙げられるでしょう。

 さらに石橋講師は、「脳科学の視点から見ても、人間の脳は「活動の目的」、つまり「Why」や「What for」が語られ、共有されると、情動を司る大脳辺縁系が刺激されて、ハイ・モチベ―ション状態になりやすいことがわかっている」と指摘します。

 

Visionng_図3_大脳辺縁系図解、Whyを語るとハイモチベーターになる

「ミッション・ビジョン・バリューによって個々人のエネルギーが活性化されると、組織としてのベクトルも上がり、その組織に属するプライドが高まるため、チャレンジが起こって、イノベーションに結びつきやすくなります。そうした効果が、企業の実例からも、脳機能の面からも証明されているのです」

マネジャーに求められる3つの「ビジョニング力」とは?

 ミッション・ビジョン・バリューが組織にもたらす効果を最大化するためには、現場のキーパーソンであるミドルマネジャーの「ビジョニング力」向上が欠かせません。
「ビジョニング力」とは、組織のミッション・ビジョン・バリューを自らの言葉で現場に落とし込み、その目指すべき姿をメンバーと一体になって実現するための能力・スキルのことです。これは、次の3つの力から成り立っています。

Ⅰ「構想力」(ビジョンを構想する力)
Ⅱ「相乗力」(メンバーの相乗効果を生み出す力)
Ⅲ「完遂力」(結果が出るまで実行する、やり切る力)

 一般的なビジョン研修では「構想力」のみを扱うことが多いのですが、ビジョン浸透を徹底し、組織として結果を出すところまで到達するためには、「構想力」だけでは足りません。メンバーを巻きこんで相乗効果を生み出し、結果が出るまでやり切る──「構想力」に加えて、「相乗力」、「完遂力」の3つの能力が備わり、それぞれの能力が高まることで、初めて本当のビジョニング力が身につくのです。

Visionng_図4_ミドルマネジャーに必要な3つのビジョニング力

 こうした構想力・相乗力・完遂力の源となるのは、やはりマネジャー自身の「内なる情熱」です。それは放っておけば自然と湧いてくるものではありません。どうすれば、情熱は生まれ、高まり、長続きするのか。石橋講師はこう語ります。

「ポイントになるのは、『挑戦』『共感』『持続』です。何かを乗り越えようとチャレンジするとき、そこに「Why」や」「What for」が明確にあれば、情熱はおのずと湧いてきます。一人では乗り越えるのが難しくても、メンバーとの共感や一体感があれば、情熱は互いに増幅されます。すぐに結果が出なくても、挑戦を持続し、少しずつでも問題を乗り越えたり、メンバーと共に成長し合ったりすることで情熱は長続きするでしょう。
 マネジャー自身の情熱が3つのビジョニング力の核であると同時に、3つの力が絶えず情熱を活性化する。それが、ビジョニング力のメカニズムなのです」

 

「構想力」を身につけるための6つのポイント

(1)経験学習サイクルを回す

・「経験→内省→持論」のサイクルを回す。自分自身の具体的な経験を深く振り返り、そこで感じた気づきや学びを他の状況にも応用できるように法則化・言語化すると、マイ・セオリー(持論)が生まれる。

・失敗から回復して成功したレジリエンス体験が重要。自身の感情の揺れ動きに注目し、失敗したとき何を感じたか、回復・成功へ転じたとき何を学んだかを内省する。

ビジョニング 図5 デービッド コルブ経験学習サイクル

(2)働く価値軸を見出す

・経験から内省を経て持論が生まれると、その持論が「自分はなぜ、何のために、何を大切にして働いているのか」という個人の価値観と繋がり、自分の中に『価値軸』が見えてくる。繋がりが見えない場合は内省が足りないか、大きな失敗や修羅場を乗り越えるような深い経験が乏しい。

・ミッション・ビジョンを構想し自らの言葉で語るためには、自分の価値軸が不可欠。自分の価値軸がぶれると、組織やメンバーへの説得力に欠ける。

(3)目の前の一人からの期待を超える

・自分の「ステークホルダー」──上司、部下、お客様、協力会社、関係部署などから何を、どれぐらい期待されているのかを把握し、その目の前の一人からの期待を1%でも超えるように努める。

・こうした意識や行動から、世のため・人のために主体性を発揮する「利他」の精神が培われる。利他がなければ、周囲の心に響くミッション・ビジョンは打ち出せない。

ビジョニング 図6_期待値1%超えの法則

(4)内外環境を捉える

・内外環境を捉えるために、自身の視野を広げ(短期から長期へ)、視座を高め(現場から経営へ)、視点を変える(自部署から全社へ)ことが重要。

・外部環境(顧客ニーズ、業界動向、競合の状況など)と内部環境(自社の経営理念、経営方針、経営資源など)から自部署の基本的役割や強み・弱みを分析して再確認する。

・内外環境の分析が周囲の知的共感を得るのに対し、リーダーとしての自分の価値軸は情緒的共感を集める。ミッション・ビジョン・バリューにはどちらの共感も必要。

(5)戦略をフォーカスする

・自身の経験に学んだ価値軸と内外環境の分析に裏打ちされたミッション・ビジョン・バリューを実現するための手段として戦略を立てる。

・チームの評価が短期になってしまうと、どうしても目の前の課題にとらわれて中期的な戦略を打ち出せない。

・戦略の基本は「選択・集中・差別化」。何を選択するか、どこに資源を集中するか、どう差別化するかの意思決定は自身の“内なる声”(結晶性知能)に従うべき。ビジョンと戦略は結びついてる。戦略があってこそビジョンが打ち出される。

(6)キーワーディング・ストーリー化する

・構想したミッション・ビジョン・バリューを効果的に発信するポイントは、「わかりやすくシンプルで納得性の高いキーワード」と「自分自身の直接体験と感情の動きが伴うストーリー」

・キーワードとストーリーが必要。私が考えたミッションの理由は、自分の過去のこんな経験から学んだ。もう一つ、マーケット、今の環境を見てみよう。あるお客様がこう言っていて、それが一番自分に取って重要なのではないか(直接体験)を自分の言葉で語ることが、最も共感を得られる。

ビジョニング 図8 _キーワーディング発信のポイント

 ここまでくると、組織のミッション(使命)、ビジョン(目指す姿)、バリュー(価値観)を実現するための戦略や目標が立てられ、組織的には具体的な施策や計画に落とし込むことができるようになります。と同時に、リーダーの価値の軸も、個人の「経験」から「持論」、「個人の価値観」へ落とし込むことにより、組織で目指すべき軸と個人が目指す軸が一体化することで、ビジョンを語れるようになります。

 ここで大事なこととして、石橋講師は「内なる声に従うこと」の重要性を説きます。

「頭でいろいろ考えていても、最終的に自分がやりたいことは何なのか、自分の過去の内省から考えていかないと、ブレがでてしまう。流動性知能=論理的に頭で考える部分よりも、結晶性知能とは自分の経験から蓄えられてきた想いであるとか、経験の棚卸しからくる内なる声が大事なのです」

ビジョニング 図9_ミッション・ビジョン・バリューに必要な2つの共感

 

ビジョニングで共感を得るために必要な、組織と個人の価値観の統合

 会社組織のなかの上位者によって流されてきた人のなかには、自分の「内なる声」が解らなくなってしまうことがあります。実際の研修では、じっくりと、「個人のモチベーショングラフの内省シート」、「ステークホルダからの期待把握MAP」や、「チーム(組織)課題と自己課題」などの事前課題を行うことで研修の前にじっくりと内省を促し、研修のなかでも人にコントロールされずに生きるとはどのようなことか映像などを使いながらイメージを膨らませることもして、ビジョニングを実際に行い、それを現場できちんと共感を得られるような仕掛けを作っていくということを行っています。

 経営企画が作った中期経営計画などで終わってしまっては意味がありません。それをいかに、自分の体験、感情、言葉に落とし込んでいけるか。それを行うことで、組織と個人の価値観を同じにできるのかが大事になります。

ビジョニング 図10_ミッション・ビジョン・バリュー組織と個人の統合

 リ・カレントグループでも、ミッション、ビジョンを掲げていて、例えば、「1チーム 2プライド」「ポテンシャルアプローチ」「不断の挑戦・普段の改善」などのバリューを掲げていますが、それぞれが例えば「達成意欲・帰属心・一体感」であったり「自己効力感・裁量感」「達成感・成長感」というような働楽因子に結びついています。リ・カレントでは、これらを自ら実践する企業として語る場を設けるようにしています。

 このようなミッション、ビジョン、バリューはどんな時に語るのが良いのかというと、うまくいっていない時に語るのが良いのです。組織である以上、短期的には例えば目標が未達だったり、トラブルがあったり、意見が対立することもありますし、長期的に見ればキャリアが迷走していたり、プロジェクトの進捗が遅延していたり、組織間でも利害衝突が起こることもあります。そのようなときにこそ、ミッション=使命、ビジョン=目指すべき姿、バリュー=価値観を語ることで、何のためにこの会社は存在しているのか、個人は何のためにその会社で仕事をしているのかを問い直すことができるのです。

「ミッションやビジョンは少なくとも年に500回伝えよ!」とは、リッツカールトンホテル元CEOのホルスト・シュルツィさんの言葉です。リ・カレントでも例えば毎週バリューを共有しあう場を設けたり、バリューに基づいて貢献した人を月に1回他薦で表彰したり、年に1回「Aじゃないか」というような、「Aクラスの企業になろう」ということと江戸時代の打ち壊し「ええじゃないか」を掛けて、全社員が意見を言い合える場を作って、社員発で新しいアイデアをどんどん取り入れて行く仕組みを作っています。

ビジョニング 図11_事例リ・カレント

 

管理職のビジョニング力が向上すれば、実現困難なことにも挑戦していく組織ができる!

 こういうものをミドルマネージャーと共有しながら進めています。小さい組織でもやろうと思えばできるということです。1回の研修に終わらずに、2回、3回と続くような場合には、ビジョンミーティングのようなものをやり方を共有して行っていただいて、そのアウトプットをキーワーディングしていくというようなことも行わせていただいております。実際の研修のなかでも、メンバーから実際に挙がってきた声を元に作っていくと、良いビジョンが出やすいという傾向もあります。

 あるメーカーさまでは「革新的な製品の創造」をミッションとして掲げながらも、今の管理職層が目の前の業務に追われ、ミッションに自分ごととして取り組めていない状況に危機感をお持ちでした。そこでリ・カレントでは、管理職のビジョニング力に着目し、管理職自身が自組織の目指したい姿を語り、そのビジョンに対してメンバーと一体となって実現するためのポイントを身につけるご支援を行いました。

 結果、「新製品の開発によって環境を良くすることに貢献したい」「製品の普及を通じてよりストレスのない世界にしたい」といった言葉が管理職から出るようになりました。経営トップの言葉は自分の想いに、営業数字の目標は実現したい未来像に変わったのです。

「イノベーションの創出」「利益は上げながらクリーンな組織を維持する」といった達成が困難な状況を乗り越えるために求められることは営業数字などの目標ではなく、管理職本人が掲げる「自組織のビジョン」だったのです。管理職のビジョニング力が付くようになれば、管理職層とメンバーが一体となって実現困難なことにも挑戦していく組織を作ることもできるのです。ぜひ、みなさまの会社でも「数字」ではなく自分の言葉で語る中期経営計画をビジョニングによって浸透させてみてはいかがでしょうか。

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