2019.11.12

HRカンファレンス2019秋「AI活用で変わるこれからの人材組織開発 ~感情への科学的アプローチで解った幸福度と生産性向上の関係~」 | ダイジェストレポート

2019年11月12日(火)~15日(金)に行われた「HRカンファレンス」(主催・日本の人事部「HRカンファレンス」運営委員会)にて、AI・データ活用と人材開発をテーマにリ・カレントが講演会を開催しました。

AI活用で変わるこれからの人材組織開発
~感情への科学的アプローチで解った幸福度と生産性向上の関係~

 

今回の講演では、人材育成×AIに着目。
日立製作所フェローの矢野氏からは、幸福度と生産性向上の関係性を解説いただき、
ソフトバンクの源田氏からはAI技術を使った取り組みをはじめ、イノベーションを推進するための様々な施策をご紹介いただきました。

お二人の知見と活動から、これからの人材組織開発の在り様を考える場となりました。

組織成果を向上させるうえで「関係の質」が最も大切であることは、ダニエル・キムの成功循環モデルで提唱されて以来、育成ご担当者の皆様にとってはもはや言うまでもないことでしょう。
リ・カレントでは成果をあげる理想の組織像は「クローズピラミッド型」ではなく「オープンネットワーク型」であると考え、
「リーダーシップ×フォロワーシップ」の相乗効果によりチームワークを最大化する育成・組織開発プログラムで企業・人事担当者の皆様を支援しております。

こうした高い成果をあげ続ける組織の特徴がピープルアナリティクスによるエビデンスを持って示されているのが、ご登壇いただいた矢野氏の著作『データの見えざる手』です。
ピープルアナリティクスの活用によって今後の人材開発の役割は変わる。
弊社代表の石橋が受けたその衝撃を、当事者である人事・育成ご担当者の皆様にお届けしたいと考え、今回の講演を企画するに至りました。

この記事では、講演の様子をダイジェストでお届けします。

―――

■講演者

株式会社日立製作所 フェロー 博士(工学) 矢野 和男氏
ソフトバンク株式会社 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 未来人材推進室 室長 源田 泰之氏

■モデレーター

リ・カレント株式会社 代表取締役社長 石橋 真

株式会社日立製作所 フェロー 博士(工学) 矢野 和男氏
「幸せと経営 21世紀の新しい企業づくりのために」

「幸せをデータで測れないだろうか?」

半導体の研究者だった矢野氏がそう考えたのは約15年前。
ウェアラブルセンサーを使って人の活動データを記録しはじめ、膨大なデータ蓄積とパターン化によって「人の幸せ」を測る試みを続けてきました。

その結果、人の体の動きと幸せを感じる反応に相関関係を見出し、人の動きを測定するだけで、その職場が幸せな職場であるかどうかが分かるようになりました。
さらに興味深いことに、幸せな職場ほど生産性が高いことが判明したのです。
そんな、幸せで生産性の高い職場づくりのために人事ができることを問いかける講演になりました。

生産性が高い組織は幸せな組織?5000人日、50億点の計測データが示した組織の共通点

矢野氏は、モニターとして調査に参加した7社の従業員に加速度センサーを身に着けてもらい、身体運動の測定結果と幸福感に関するアンケート結果から、「幸せな集団」の特徴を見出した実験を紹介しました。
実験の結果、周囲に働きかけて互いに発言するなど、周りの人を幸せにする行動が多い組織が、幸福度が高い組織だとわかりました。

人は、悪い気分の時気晴らしの行動をとる一方、良い気分の時は困難であっても重要な行動をとる傾向があるといいます。
つまり、幸せな人が多い組織ほど、困難であっても重要な行動をとる人が多いことになり、生産性が高くなるのです。

コールセンター、開発現場で人の行動を計測したところ、同様に周りを幸せにする行動が多いときほど受注率や生産性が高くなる結果になっています。
つまり幸せは、ただ個人の気分の問題ではなく、業績に直結しているといえます。

幸せは3つの要因で決まるといいます。

一つめは、遺伝や幼児期の経験などの固定的要因(変化させづらく継続的)
二つめはお金、資産、健康のような状況要因(変化させやすく一時的)
そして三つめは周りを幸せにするという日々の行動週間(変化させやすく継続的)です。

なかでも、日々の行動習慣が幸せの要因のうち40%を占めるという研究結果は、生まれ持った遺伝や性格や、健康および資産のような外部要因以外に、自分の行動によって自らを幸せにできることを示しています。

このように、持続的な幸せという心の資本を築くためには、次の4つのスキルが必要だといわれています。

「Hope(自ら運を見つける)」
「Efficacy(自信を持って行動する)」
「Resilience(困難に立ち向かう)」
「Optimism(物事の明るい画を見る)」
(4つの頭文字をとって「HERO」)

これらが心の資本を大きくし、幸せ、生産性、業績、心身の健康、人間関係、離職率の低下等すべてにつながると学術研究が示しています。
個人が訓練・学習によって心の資本を築くスキルを身に着けることこそ、組織の業績にいい影響を与えるのです。

テクノロジーで世の中を幸せにする

企業に最も重要なことは、「経営方針とのアライン」「自律的な組織運営」「ポジティブな個人」の3つがそろうことであり、この3点を整えることが今人事に求められることだと矢野氏は言います。

矢野氏のプロジェクトとして、個人の利他行動に対するチャレンジをサポートするアプリケーションを開発し、100社でテスト導入したところ、各社で個人の行動の変化が現れ始めているといいます。
矢野氏の目指すところは、テクノロジーで、自己実現や利他といったより上位の目的(=持続的幸せ)を生み出し、科学が世の中を幸せにすることだと述べています。

加速度的に変化する時代における人事の役割変化:「標準化と横展開」から「実験と学習」へ

従来、日本で組織成果を向上させる際にとられている技法は「標準化と横展開」であり、人事の役割はファンクション――組織がスムーズに標準化と横展開を行うための人事制度・機能を果たすことでした。

しかし、技術が加速度的に進歩するにつれ、人事に求められる役割も変化しつつあります。
これからの人事の役割はトランスフォーメーション――「実験と学習」を継続し、変化と多様性に向き合う組織をつくることであると矢野氏は言います。

その一方で、標準化と横展開に慣れた日本企業で、「実験と学習」をやってみる機会は限られています。
少ない実験で多くを学習する、そのためにはテクノロジー活用がかかせません。
たとえばAIによる自動学習を活用すれば、人が持つ失敗に対する恐れや上達への慣れという壁を超えて試行を重ね、フィールドが変わってもそれまでの蓄積を生かして学び続けることができます。

同時に、いくらAI・データがあっても、「実験・学習」へのマインドセットに壁をつくってしまっては意味がありません。
人が行動を変え、組織成果を向上させる。
先述した「HERO」(心の資本を築く4つのスキル)を継続的に実践するための変化が、人事・人材開発に携わる私達に今必要であると言えるでしょう。

講演の後半では、人事の役割変化にまさに向き合い、自社の強みとテクノロジーを活用した人材開発に挑戦するソフトバンク社の事例をご紹介しました。

ソフトバンク株式会社 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 未来人材推進室 室長 源田 泰之氏
「ソフトバンクの人材育成へのデータ活用とオープンイノベーション」

急成長を続けるソフトバンク株式会社は、どのように社員のリーダーシップを育んでいるのでしょうか。

グループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の責任者を務める源田氏から、人材配置や採用の最適化におけるAI・データ活用の事例をまじえながら、ソフトバンクの人材育成とオープンイノベーションにおけるテクノロジーの活用についてお話しいただきました。

リーダーシップを育むプロセス:内省と対話

人の成長は内省と対話の繰り返しであると源田氏は説明します。

内省によって意思決定をし、実行・経験することで人が成長するというシンプルなプロセスですが、社会人にとって、いかに対話ができる環境を整えるかが重要だといいます。
海外の著名大学も、生徒に教えることだけではなく、生徒同士のコミュニケーションの質を高める仕組みづくりを重要視していることからも、人の成長を促すために対話が重要であることが分かります。

ソフトバンクの人材育成2大ポリシー「対話」と「自主性」

ソフトバンクの人材育成において、対話が生まれる仕組みづくりと同時に、自ら手を挙げた人に機会を提供し、社員が当事者意識を養うことを重要視しています。

これらを実現するための人材育成施策として、ソフトバンクユニバーシティ、ソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)および孫正義育英財団の施策をご紹介いただきました。その中から抜粋して取り組みを紹介します。

・ソフトバンクユニバーシティの事例

ソフトバンクユニバーシティは、経営理念を実現する人材を輩出するためにつくられた、ソフトバンクおよび関連会社社員が受講できる、集合研修・eラーニング研修制度。
特徴は、社員が「社内認定講師」として研修を行っていることで、現在130名ほどの講師が講義をおこなっています。

社員が講師を行うことで、研修の内容を実践した後すぐ質問ができ継続的な学びになり、また講師に立候補する機会を提供することで社員の自主性をはぐくむことにもつながっているといいます。

・ソフトバンクイノベンチャーの事例

10年継続するソフトバンクの新規事業提案制度で、応募総件数は6,600件以上、そのうち75件が事業化検討に進んでおり、ソフトバンクの新規事業創造をボトムアップから支えています。
単に事業計画を作成するだけではなく、500万円の予算を配分し実際にサービスを作って検証することで、本当に市場と需要のある事業プランを精査します。

イノベンチャー・ラボという社内起業家育成プログラムに社内外3,000名を超えるメンバーが登録しており、メンバー同士が勉強会やイベントを通じて一緒にプロジェクトを推進できる機会を提供しています。現在、16件が事業化、3件は法人化し継続的に事業運営を行っています。

・孫正義育英財団の事例

ソフトバンク外の事例にはなりますが、未来を創る人材の支援を目的に25歳以下の「高い志」と「異能」を持った若者に留学・研究費用の提供や事業活動の支援を行う財団の取り組みです。

10歳のロボット・AIの専門家、小学生で実用数学技能検定準1級を取得した数学の異能、13歳でケンブリッジ大学に進学したAI・数学・ロボットの専門家など、才能あふれる200名弱の財団生が所属しています。
世界複数拠点に財団生が自由に利用できるオフィスを構え、研究活動のシェアプレゼン、アイデアソン、勉強会などを開催することで世界中の才能ある若者が無限の可能性に挑戦する場所を提供しています。

 

これらの事例に共通するのは、自主的にチャレンジできる仕組みと、良質な意思決定を生むための対話づくりの仕組みを提供していることです。

ソフトバンクが自社の強みであるテクノロジーを活用して、これらリーダーシップを育むプロセスを実現しているように、各社の人材開発においても、自社のポリシーをもとに自社の強みを生かした仕組みづくりが重要なのではないでしょうか。

 


リーダーシップ×フォロワーシップの相乗効果でチームワークを向上させる
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