2023.01.28

「他人事な中堅社員」を「巻き込み型リーダー」に変える! ~組織の未来を切り拓く巻き込み型リーダーシップ育成の4つの力~

最終更新日:2024年2月28日

百戦錬磨の経営リーダーにも先が見えない、予測不能なVUCAの時代――。答えも、定石もない現場の最前線で日々奮闘する中堅若手人材の成長なくして、企業の成長はありえません。加速する経営環境の変化に適応し、激化する競争を勝ち抜いていく。そうした企業ではほぼ例外なく、中堅層の活性化が進んでいます。彼らの仕事ぶりを見れば、その組織の「強さ」が分かるといっても過言ではないでしょう。

一方で、期待値が高いだけに、人事の方々からは自社の中堅社員に関する不満や悩みをうかがうことも少なくありません。会社としても、若手の時期は育成に力を注ぐものの、それ以降は一人前の戦力と見なすがゆえに“放置”しがち。教育機会の不足から、中堅が本来の力を出し切れず、若手と管理職との谷間でくすぶっているとしたら、それは組織にとって大きな損失です。

そこで、今回は『他人事な中堅社員』を『巻き込み型リーダー』に変える、組織の未来を切り拓く巻き込み型リーダーシップ育成の4つの力をご説明します。

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仕事への想いを自ら周囲に伝播させ、上司や同僚、後輩、関係部署まで巻き込みながらコラボレーションを起こし、組織成果を出す──中堅社員が「巻き込み型リーダーシップ」に目覚めるための方法をご紹介します。

石橋 真
監修者
石橋 真
略歴
リ・カレント株式会社 代表取締役社長

監修者詳細

「若手以上、管理職未満」の中堅社員に求められる役割とは

「中堅」というと、一般的な会社組織の社歴や年代でいえば、新卒なら入社4~9年目。いわゆる“若手以上、管理職未満”の立場で、ある程度の業務は自分一人で完遂できる能力と責任を有する社員を指すことが多いと思います。

しかし、実態としては会社によって多種多様なのが現状です。そもそも中堅社員に求められるものとは何か。中堅の現状に不満を感じるのであれば、彼らにどうなって欲しいのか。具体的にどのような役割や人材像を期待しているのか。会社によってかなり差があることも事実です。

「プレイヤーとして自分の担当業務に取り組むだけでなく、若手の指導やメンターなどの役割を担い、もっと主体的にチームに関わってほしい」
「現場全体の管理者ではないけれど、現場の中心メンバーとしての活躍を期待する」
「営業なら営業の専門性をもっと高めて、組織としての成果に貢献してほしい」

ただ、私達が関わらせていただいている人事の方々の課題感をみてみると、各社の中堅層にいま求められているのは、現場でのリーダーシップであると思います。業務プロセスの全体というよりも、その一部や特定の範囲内でいい。中堅社員がそれぞれ“小さなリーダー”として周囲を引っ張り、成果をあげて、個々の責任を果たすことが組織全体の強さに直結すると考えられている人事の方が多いように思います。

権威や権限に頼らず、自ら働きかけて周囲を巻き込む重要性

とはいえ、「現実に、中堅社員の立場でチームを牽引するのは難しい」……そう思われる方も多いのではないでしょうか。たしかに多くの日本企業の現場には、上司が部下を、先輩が後輩を権威や権限で一方的に動かそうとする、上意下達の組織文化がいまだ根強く残っています。中堅若手はどうしても受け身に回り、仕事が他人事になりやすいのです。

しかし、ヒエラルキーに縛られた旧来型のピラミッド組織はもう機能しません。上から指示や情報が落ちてくるのを、現場の中堅・若手層がただ待っているだけでは、激化する環境変化に対応できず、ライバルとの競争に勝てないからです。そこで重要になるのが、中堅・若手が自ら動いて、周囲を積極的に巻き込む能力。権威・権限に頼らないこの新しいリーダーシップを、リ・カレントでは『巻き込み型リーダーシップ』と呼んでいます。

上司、同僚・後輩、他部署などとの個別の関係性や立場・役割の違いにとらわれることなく、むしろその垣根を自ら積極的に取り払い、一つのワーキングチームとして機能するように働きかける。それが、中堅社員に求められる「巻き込み型リーダーシップ」のイメージです。

しかし、ただやみくもに周囲を巻き込み、組織をあらぬ方向に迷走させてしまうわけにはいきません。中堅社員が巻き込み型リーダーシップを発揮する上で大切なことは、『何のために巻き込むのか』という視点を中堅社員に持たせることです。

目指す方向性は、あくまでも会社がかかげるミッションやビジョンの上にあります。その共通の目的・目標を実現するために、自分は『こうしたい』『これをやりたい』という“意思の軸”を明確に打ち出し、周囲に仕事への想いや使命感を伝播させなければなりません。周囲から共感を得ることで、他のメンバーにも当事者意識が生まれ、やる気に火が付いていく。これが“巻き込む”ということなのです。

意思の軸が確立され、共感が得られれば、上司の顔色をうかがう必要もない。むしろ、理念実現のために特定の業務を担う一つのシステムとして、上司や関係部署はもちろん、場合によっては社外の取引先やクライアントまで巻き込んでいくケースも考えられます。

巻き込み型リーダーシップの「コア+4つのドライバー」

実際に、中堅社員が「巻き込み型リーダーシップ」を発揮するためには、巻き込み力を身につけなければなりません。巻き込み力は図のとおり、「コアとなるマインドセット+4つの能力」によって構成されます。

まず、巻き込み力のコアになるのは、本人の「主体性」。すなわち、組織のミッション実現や課題解決に対して当事者意識を持ち、仕事を“自分事化”できるかどうか、ということです。中堅社員自身がそうした主体的なマインドセットに変わらなければ、「自分はこうしたい」という意思の軸を周囲に向けて打ち出すこともできません。

『そもそもいまの若い世代は主体性に欠ける』とよくいわれますが、必ずしもそうとは限りません。どうすれば、彼らが会社や仕事に“熱く”なるのか。むしろ、トレーニングや業務そのものを設計する担当者の手腕が問われているのです。

さらに、主体性のベースを醸成しながら、それを「巻き込み型リーダーシップ」という形で具現化し、実際の成果につなげるためには、以下の4つの能力やスキルを開発する必要があります。これらを1つのサイクルと捉え、現場の実践の中でくり返し回していくことが巻き込み力の向上につながるのです。

1.意思発信力

①仕事のミッション(使命)を語る
②目標を打ち出す

考えるとは、「問い」を発することです。ミッション、ビジョン、バリューを考えるためには、Howではなく「Why思考」で考えていきます。

・ミッション(使命)→「なぜ、何のため、誰のため」
・ビジョン(将来像)→「何を目指して」
・バリュー(価値観・行動規範)→「何を大事にして」

と、ひたすら「問い」を発するのです。そうすることによって、

・ミッション(使命)=命を使うこと
何のために働くのかという意義・意味・目的・理由
・ビジョン(将来像)=目に浮かぶ状態
1~3年後に自分がなっていたい状態、目指す姿
・バリュー(行動規範)=ぶれない行動
自分が働いていく上で守るべき価値観・行動規範

が明確になっていきます。ここで大切なことは、

1.ベースに実体験(成功・失敗)があり、感情が揺れ動いた経験があるか?
2.頭で考えただけではなく、体験からくる熱い想いが言葉になっているか?
3.第三者に対して、真剣に伝えたいと思えるか?

が明確になっているかどうかです。

サイモン・シネックのゴールデンサークル理論によれば、脳のいわゆる大脳辺縁系という部分は、本能や情動を司ると言われています。つまり、「Why」を語ることによって、人間の「情動」が突き動かされて本能的に行動し、周りの人の共感を得るような熱い想いを言葉にして、第三者に語れるようになるのです。

2.問題題発見・解決力

①問題解決の当事者になる
②問題解決ステップを考える
③問題解決ストーリーを語る

組織問題に対する意識レベルも4つに分けることができます。

1.傍観者 レベル:ふーん、そんな問題が起きているんだ、、、
2.評論家 レベル: ○○が悪い、△△がダメ、、、
3.日和見主義者 レベル:得か損か、、、
4.当事者 レベル:自分がやらねば!

もちろん、真に組織のなかで真にリーダーシップを発揮するには、1の傍観者から4の当事者のレベルにまで、意識レベルを引き上げる必要があります。

問題が発生してから解決する「発生型問題解決」では、突発的に発生したり上位者から指示命令されて行う問題解決ですから、受動的・他責になりやすい傾向があります。自分で「あるべき姿」を設定して行う「設定型問題解決」のほうがより当事者意識を持って問題に取り組みます。

しかし、リ・カレントの提唱する巻き込み型リーダーシップでは、それよりも上の段階として、「ビジョン指向型問題解決」を指向します。これは、長期的な視野から将来像を設定して、逆算で行う問題解決の考え方です。

そのためには現在よりも問題解決の当事者として、視座を上げる必要がありますし、ミッション、ビジョン、バリューに基づいた「問題」「原因」「課題」を設定して、問題解決のステップを考えなければなりません。ここで言う「課題」とは、いくつかある複数の原因の中で、これをやれば原因そのものを絶つことができる「当事者としての取り組み」のことを指します。

3.関係性構築力

①共感し合う関係になる(何を言っても否定されず尊重される心理的安全性の担保)
②上司を補佐・提言する(フォロワーシップの発揮)
③同僚・後輩の模範になる、指導する(モデリング、ティーチング、コーチング)

なぜ共感し合う関係になることが重要なのかといえば、MITのダニエル・キム教授による成功循環モデルがベースになっています。「関係の質」が「思考の質」に影響を及ぼし、「思考の質」が「行動の質」に、「行動の質」が「結果の質」に影響を与え、それが「関係の質」に戻ることで成功へのサイクルが回るという、成功循環モデルです。

ここでは、聴く、傾聴するということも重要になってきます。メラビアンの法則にあるように、言語以上に、非言語が重要になります。話し手が聞き手に与える影響のなかで、言語は全体のなかのたったの7%。話し方が38%、過半数を占める55%は「身振り・手振り」で決まるという法則です。

アイコンタクト、ジェスチャー、表情、声色、抑揚、姿勢といった非言語を通して、上司に対してはフォロワーシップを発揮する。後輩にはティーチング・コーチングを行うことを通して、関係性を構築していきます。

4.実行継続力

①メンタルタフネスを高める
②ポジティブに考える

実行継続力は、いわゆる研修の場で終わらせない仕掛けです。

具体的には、自分のプレイヤーとしての仕事のほかに、現場に戻っても「思考の拡充」「働きかけの拡充」を行っていく仕掛けを作ります。

自分の思考の拡充としては、

①視野:社内→社外、自部門→他部門
    同業→異業種、国内→海外
②視座:課長、部長、経営者
③視点:自分←他者・チーム・部門・全社・社会
④時間:現在←将来、短期→中期→長期

他者への働きかけでは、

①方向:上司→同僚→部下→関連部署→経営
    社内→社外
②形態:会話→対話→議論
③深度:理解→共感→信頼

を現場実践していきます。ステップ①として巻き込み型リーダーシップの研修を受けたあと、現場実践期間のなかで受講者間でのピアコーチングまたはミーティングを行いステップ②として、360度サーベイ研修を行い、現場振り返りを作成、行動プランの再計画を上司面談を通して共有することで、さらなる現場実践を促すこともあります。

 

巻き込み型リーダーシップを醸成することで、中堅社員自身も使命感に目覚め、もっと仕事に夢を描けるようになるのです。裏を返すと、組織の中で夢や使命感を見失ってくすぶっている人材がそれだけ多いということでもあります。

ちなみにリ・カレントが人事の方と接する中で、中堅社員が陥りがちな“タコツボ”状態に陥っている閉塞状態のパターンをご紹介します。以下のようなタイプに当てはまる中堅社員の方に心当たりはありませんか? もし、このような方がいらっしゃる場合は、活性化させる必要があるでしょう。

組織を変えるフォロワーシップを研修体験で実感

リ・カレントでは、このような「主体性」を持って組織のミッション実現や課題解決に対して当事者意識を持ち、仕事を“自分事化”する「巻き込み型リーダーシップ」の研修を行っていますが、ミッション、ビジョン、バリューの明確化、意思発信力や問題解決の当事者になり解決ステップを発見する問題発見解決力の向上を通した意識レベルの向上といったマインド醸成について考えていただくとともに、「指示書達成ゲーム」という、体感型のビジネスゲームも取り入れています。

リーダー役のメンバーだけに示される指示書に従い、チームに与えられた仕事をいかに速く達成するかを競うゲームですが、このビジネスゲームは組織活動において起こりやすい問題点をあぶりだして、疑似体験するのに有効なことから、管理職研修などにも使われます。「組織における立場と役割の違い」「目標共有の重要性」「コミュニケーションの重要性」などを再確認するための体感ワークです。

実際に、人事の方に集まっていただいて、関係の質→思考の質→行動の質→結果の質へとつながるダニエル・キム教授の成功循環モデルに根ざした巻き込み型リーダーシップに必要な要素を挙げたあとでワークを通してディスカッションしていただくと、

「自社の場合、どうすれば中堅社員を活性化して、巻き込み型リーダーに変えられるか」「そのための自社の障壁は何か」

「中堅はリーダーやマネジメントの経験が無いから、目標共有や周囲に意思を伝えることの重要性が肚に落ちていないのではないか。そういう役割や機会を設けることで活性化していくのでは」

「チームに主体的に関わってもらうためには、思い切った権限の移譲が有効」

という声を戴いております。

一方で、「そもそもリーダー層が聞く耳を持たないから提言も上がらないし、活性化もされない」「自分の権威が下がるのを嫌がり、権限移譲に抵抗するマネジメントも多い」「チームという意識が希薄で、個人成果至上主義が障壁になっている」というご意見をお持ちの人事の方もいらっしゃいます。

中堅層を変えたい、活性化したいと思うなら、彼らに働きかけるだけでは足りません。中堅層の問題はリーダーやマネジャーを含めたチーム全体の問題であり、つまるところ、その背景にある企業風土や組織文化から見直していく必要があるのです。

しかし、中堅社員の方たちが自ら変わろうとしなければならないことも事実です。部下から変われば、上司も、組織も変わらざるを得なくなる。それがフォロワーシップなのです。

上からも下からも手を打つことで、チーム一体となって成長し、変わっていくのが組織開発のあるべき姿です。
リ・カレントではチームの力を最大化させ組織力を向上させるために、リーダーシップとフォロワーシップの相乗効果による組織力の向上を目指して取り組んでいます。

「巻き込み型リーダーシップ」の考え方、取り組みが、組織力向上の糸口になれば幸いです。

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