2021.10.6

【セミナーレポート】35歳キャリア停滞期からのキャリア・リノベーション手法 ~ジョブ・クラフティング「生産性×学習性×関係性」でエンゲージメントを高める~

30代中盤社員から、このような不安の声を聞いたことはありませんか?

■周囲の同期が昇進する一方、自分だけ取り残されているような気がする……
■50代・60代もしくは70代までずっとこの会社に居続けるのだろうか。
■とはいえ、新しいことを始めるにせよ、転職にせよもう遅い気もするし、具体的に何したらいいかわからない……
■とりあえず粛々と働いていられればいいか

これらは、いわゆるキャリアの停滞感や意欲の低下が見られる状態である「キャリアの停滞(キャリアプラトー)」です。
個人のキャリア停滞は、人事にとって重要な課題です。キャリアの停滞感を感じている社員はモチベーションが低く、生産性が下がったり、停滞感の打破のために転職を選択したりする場合もあります。

そんな40代に迫る「キャリアの停滞」に陥らないためには、社員が30代のうちから自分で働くことへの意味づけを行い、自分のありたい姿を描くことができることが必要です。

今回のセミナーでは、30代中盤から、社員が自律的にキャリアを形成していくためのフレームワーク「ジョブ・クラフティング」と、そのステップを支援する研修プログラムをお伝えしました。

35歳のキャリア停滞のリアル

30代中盤~40代社員のキャリア停滞の現状

セミナーのはじめに、30代中盤~40代社員のキャリア停滞の現状についてお伝えしました。

厚労省の調査によると、50代中盤以降で、課長職以上の管理職についていない人の割合は67.8%となっています。つまり、7割近くが、「万年平社員」の状況であることが分かります。
キャリアの停滞(プラトー、踊り場)には、昇給・昇格の見込みのなさと、仕事に専門性がなく価値ある仕事をしていることを感じられないことの、大きく二つが関与していると考えられます。
昇進・昇格の道筋も明確ではなく、専門職につけるほどの能力を身に着ける機会もなかったという八方ふさがりの状態で、キャリア停滞に陥っているのです。

このようなキャリア停滞に陥らないためには、30代中盤から、キャリアリノベーション(キャリアの再構築)が必要です。
キャリアには、外的キャリア・内的キャリアの2つがあります。昇進・昇給など、外部からもたらされる外的キャリアは見通した立ちにくい時代だからこそ、主観的側面(内的キャリア)からキャリア・リノベーションを考える必要があります。

企業の研修体系の実情

一方企業は、キャリア開発についてどのような教育を行っているのでしょうか?

大企業や中小企業を問わず、階層別研修の対象とならない30代~40代の間にかけて、キャリア開発にかかわる研修が行われていません。昇格をした人以外の研修は、滞っているのが現状です。

キャリア開発をするメリット

社員それぞれのキャリアデザインを企業が尊重し、後押しすることで会社組織全体のエンゲージメントが高まります。自律した社員、優秀な社員の定着がなされることでチームとして成長し、個人と組織の持続可能でウィンウィンな関係を構築することができます。

VUCA withコロナ時代の変化

変化が激しく予測の難しいVUCA時代に、企業が成長し続けるためには、社員が学習力を身に着けることが必要になります。

環境の変化とキャリアデザインの必要性

そんなVUCA時代において、環境の変化に応じ、どのようなキャリアデザインが求められているのでしょうか。

一つは、働き方の多様化にともなって、会社主導のキャリアデザインから、個々人の自律的なキャリアデザインへ変化していることがあげられます。
終身雇用からパラレルキャリアへ、新卒一括採用から職種別採用へ、年功序列の賃金体系から成果主義へ・・・。組織には、個々人のキャリア開発を支援していくことが求められるようになったと言えます

また、個人のキャリア観も、新型コロナウイルスの影響を受け、会社に依存しない自律的なキャリアが必要だと考える人が9割以上となる等、大きく変化しています。

これらの状況を踏まえ、個人のキャリアデザインはますます重要になっています。これまでは、組織内のキャリアを考えるだけでよかったところ、今は人生全体をキャリアととらえ、将来のありたい姿、理想像を考えることが必要な時代に変化しています。そしてそのようにキャリアを形成・開発していくことと幸福感とに相関関係があることが分かっています。

幸福感とキャリア開発の関係

幸福感とキャリア開発に相関関係があることについて、個人の幸福を構成する5つの要素を表した「PERMAモデル」を紹介しながらご説明しました。

PERMAモデルは、上記5つの要素であるポジティブ感情(Positive Emotions)、共感・参画(Engagement)、関係性(Relationships)、意味・意義(Meaning)、達成(Accomplishments)の頭文字をとって名付けられています。この中でも、特に「ポジティブ感情」他4つの要素と密接に関連して人生の幸福度を左右するといわれており、幸福度は従業員の創造性、生産性に大きくかかわることが分かっています。

本セミナーのテーマである「ジョブ・クラフティング」は、仕事に対する認知をポジティブに変えていくことを意味しています。

ジョブ・クラフティングとは

ジョブ・クラフティングとは、従業員一人一人が仕事に対する認知や行動を自ら主体的に修正していくことです。また、退屈な作業や、やらされ感のある業務をやりがいのあるものへ変容される手法です。

ジョブ・クラフティングには、タスク・人間関係・認知という3つの要素があります。

タスクは仕事のやり方、人間関係は周囲とのかかわり方、認知は仕事の意味・意義を捉えなおすことであり、それらによって個人がやりがいを感じながらパフォーマンスを向上させることができるという考え方です。

ジョブ・クラフティングを、ディズニーランドの掃除を担当しているキャストを例に考えてみましょう。

ディズニーランドでは、清掃員も含めて来場者をもてなす「キャスト」として捉えています。そのため、単純に掃除をするだけでなく、少しでも来場者を楽しませようとする行動が生まれます。

このように、タスクそのものは同じであっても、考え方次第で見え方が変わってきます。つまり、何のためにやっているのか、仕事の目的、全体像、意味・意義を考えることで仕事の捉え方が変わり、パフォーマンスも変わってくるのです。

30代中盤~40代社員のキャリアの停滞を脱するためには、ジョブ・クラフティングによって改めて自分の仕事をとらえなおし、主体的に自分のキャリアを考えることが求められます。

ジョブ・クラフティング実践~キャリアデザイン学習のステップ~

セミナー後半では、研修で実際に行うワークを紹介しながら、どのように「捉えなおし」を行うのかを説明しました。
セミナー参加者には、事前課題として「自分史」を作成します。ライフチャートで自分の人生を振り返り、プラスだったとき、マイナスだったときの状況や、そこから学んだことを洗い出します。

ライフチャートでの振り返り後、生産性・学習性・関係性の3つの側面から自分の仕事を分析します。

自分の仕事を分析する~①生産性

生産性向上を目指すために、①最重要課題にフォーカスすること、②コミットメントの二つの考え方をご説明しました。

①最重要課題にフォーカスする
パレートの法則が示すように、重要な20%の業務から80%の成果が生み出されているものです。研修の中では、この重要な20%の業務に集中するために、重要でない業務は何かを考え、それらをやめる、減らす、簡素化する、標準化する、自動化することによる業務の改廃を検討してもらいます。

②目標設定におけるコミットメントの向上
自分で決めた仕事は他社決定の仕事に比べて、5倍のコミットメントが発生するということが、科学的にも証明されています。人にいわれて仕事をするのではなく、自分で決めて仕事をすること、その生産性について理解を深めます。

自分の仕事を分析する~②学習性

次に、学習性についての振り返りを行います。中堅社員にもなると、業務の中で新しい経験が減ってきたり、新しいことを学ぶ意欲を失いがちになります。また、年を追うごとに学習してものびなくなると考えがちです。しかし、学ぶ姿勢次第で40代はまだまだ伸びることができます。学習性について、3つのポイントからご説明しました。

①二つの知能
人間の知能には、流動性知能(=直感的に働かせている知能)、結晶性知能(=経験の中で培った知能)の二種類があります。
40代半ばになると、この二つの知能が衰えると考えられがちですが、実際は、両方とも落ちずに伸び続けることが分かっています。

それを証明された例として、世界最高齢のアプリ開発者で82歳の日本人女性、若宮正子氏の動画を交えて紹介しました。

これらから分かることとして、40代のミドル社員にとって、「もう学習しても伸びない」という考えは思い込みであり、実際にはまだまだ学びによって成長することができるということです。自分自身の認知をポジティブに変え、「やればのびる」というマインドをもつことが重要です。

また、中堅社員の有効な学習方法として、リバースメンタリングがあげられます。リバースメンタリングとは、中堅・ベテランが若手から学ぶという姿勢のことです。
中堅社員はもちろん若手を指導・育成しますが、一方的に教えるだけだと知識が入ってこなくなるので、若手からも学ぶ。これによって、ベテランが積み重ねた経験に基づく指導と、若手がもつ新しい価値観によって、お互いの学習機会になるのです。

このように、ミドル社員の能力は彼ら自身の捉え方とマインドセット、若手との共同学習によって伸ばすことができます。

自分の仕事を分析する~③関係性

ジョブ・クラフティングの最後は関係性を振り返ります。
研修の中では事前課題として、上司から受講者への期待をヒアリングすることを課していますが、過去の受講生の中にそのような会話を上司とかわしたことがなかったという声も多数きかれました。職場における関係性は、ミドル社員にとって課題であることが分かります。

研修の中では、米国のキャリアの研究者であるスーパーによる職業選択に関する価値観をもとに作成した「価値観一覧」を用いて、自分の価値観と、職場のメンバーの価値観を比較するワークを行います。
一般的に、自分と価値観が近い人とは関係性を築きやすく、逆に離れている人とはつきあいにくい傾向があります。
職場のメンバーの価値観を理解することで、感覚的につきあいやすい・つきあいにくいで終わらずに、相手の考えを尊重し関係性を築けるようになります。

また、人は大事にしている価値観を充足できると幸福を感じやすくなるため、自分が大切にしている価値観を理解し、日々の仕事を価値観にマッチさせていくことで、能力を発揮しやすくなります。

生産性・学習性・関係性の3つの観点から振り返りを行った後、これからどのように自分のスキルを伸ばしていくかを考える土台として、サーベイを用いて自分の強みを把握します。

自分の過去の分析を行った後は、未来にむけて何を行動していくかを考えます。

そもそも自分は何のために仕事をしているのか?と「Why」を自分に問いかけることで、行動の意味づけ(センスメイキング)を行います。
研修の最後には、自分史を振り返った上でキャリアデザインとそれにむけた具体的なアクションをアウトプットし、キャリアの停滞から一歩踏み出すきっかけづくりをして終了となります。

まとめ:ジョブクラフティングでキャリア停滞を脱する

ミドル社員のキャリアの停滞を解決する、ジョブ・クラフティング(仕事の捉え方を変えること)と、それを促進する具体的なステップについてご紹介しました。

伸び悩みが見られるミドル社員は、本当に伸びしろがないのではなく、「自分はここまでだ」という認知バイアスがかかってしまっているだけかもしれません。チームメンバーやあなた自身のキャリア停滞を脱するきっかけに、ジョブ・クラフティングを取り入れてみてはいかがでしょうか。

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