「研修のやりっぱなし」そろそろ終わりにしませんか?~一人一人の学びと組織の変化を結びつける学習設計のポイント~
「研修だけでは一人一人が学んでくれない」……
「上司から研修の効果を求められたけど、どうしていいかわからない」……
研修に関するこのようなお悩みは以前から根強いものでしたが、リモートワークが普及したことでさらに増加しています。
研修を単なる学びで終わらせず、「自律的な学習継続」や「実践・行動による組織貢献」をいかに実現するかに注目が集まってきています。
本セミナーでは、リ・カレントが支援してきた事例から、学習者の自己学習とワークショップの掛け合わせによる学習者の行動変容を促す施策づくりについてお伝えしました。
1. 研修のやりっぱなしが生まれてしまう構造
企業における”学習の意味とゴール”が受講生に正しく伝わっておらず、現場にも浸透していない状態では、研修で実施される学びが現場での行動につながらず、研修が「やりっぱなし」になってしまいます。
こうした研修のやりっぱなしが生じる原因となっているのは、大きく2つです。
忙しさによる業務と研修の分断
まず、企画側も受講生も忙しく、その忙しさが業務と研修をどんどん切り離しています。
人事・人材開発部の方は、受講生のために実施したい施策がたくさんありつつも、その準備のための業務が手に追えず実施に至っていないというケースがよく見られます。
また、受講生側も忙しい仕事の合間を縫って課題に取り組まなければならず、課題の提出・連絡で忙しくなり、その結果、研修を受ける前に研修へのモチベーションが下がっています。
このように、人事も受講生も日々の業務に追われ、業務と研修が切り離されてしまい、学習の意味づけがなくなっているという問題があります。
会社に学習する文化がない
また、会社全体に「学ぶ文化がない」ことも課題です。
あるケースでは、研修の前に上司と話す機会を設けてもらうようお伝えしたところ、研修に取り組む間の業務の補填についての会話になってしまったことがありました。
そもそも文化として、または会社の理念として学習が浸透していないと、研修も機能しません。
学習の進め方、学習の環境として研修を用意することはできても、学習を現場に浸透させ、実践してもらうための文化づくりは一朝一夕で築かれません。
学習の在り方やゴールについて明文化し浸透させていく必要があります。
個人学習が経験学習となるサイクル
では、研修の効果が最大化されている状態とは、どんな状態でしょうか?
それは、研修や教育施策での学びが、個人の成長に終始せず、組織全体にしっかりと学習が移行していくサイクルが回っている状態です。
このように、個人の学びや気づきを、組織に貢献・影響を及ぼす行動へ変えていくためには、学習者自身が”学習を行動に変えたい”と思える仕掛け作りが必要です。
もちろんある程度強制力を持たせて変えていくことも必要です。しかし、大きなインパクト・行動変容を生んでいくためには、学習者自らが一歩を踏み出せる環境を作っていくことが重要です。そのために必要なポイントとして、次の3つがあります。
①学習前の意識づくり
学習をする前に明確な意識を持って学びに向かうことで、学習効果が劇的に上がります。
②学習が終わった後の行動イメージ
学習者だけでなく、企画側もどれだけ明確にイメージが持てているのかも重要です。
③上司・周囲・学習者同士によるコミュニティ学習の推進
組織全体の文化を作り上げ、学び・学習の効果を現場に持ち帰って、行動変容を生み出します。
この3つのポイントをしっかり抑えることで、学習者が行動変容しやすい状態をつくりやすくなります。
学習効果に影響する受講前後
研修の学習効果への影響について、研修当日よりも、研修前後の取り組みのほうが大きく影響するといわれています。
受講前の取り組みにおいては、学習の目標を明確にすることで、学習に対する意欲・モチベーションが向上します。
具体的な方法としては、映像学習や事前アンケートをとってニーズを的確に把握し、仕事の関連付けに関してしっかり発信をしていきます。また、一方通行の発信だけでなく、上司との面談などで、現場で活かすためのことを考えていく場を用意してもらうことが重要です。
学びが学びで終わらないためには、研修の事前・事後、または現場実践の中で、周囲の方々がいかに関わっていくかがキーになります。これは現場にいる上司ももちろん、企画・運営・講師側からもできることがたくさんあります。
実際に研修前後の取り組みによって学習効果を向上させることができた、リ・カレントでの事例を紹介します。
実例:受講者と上司双方に向けた動機づくり
リ・カレントでは、研修の前に上司と受講生それぞれに、動機づけのガイダンス動画を配信しています。
受講生向けには学びの全体像や、学習のゴールを明確にしたものを講師からのメッセージでお伝えしています。一方、上司向けには、育成の動機づけとして、研修前後でどのような面談を行ってほしいか明確にお伝えしています。
この取り組みによって、研修当日のディスカッションが非常に盛んになりました。また、研修当日は、「何かを持ち帰りたい」というモチベーションにつながりました。実際に研修後のアクションプランシートも、例年に比べしっかり記入できる受講生が増えました。
このように研修の前後で少し工夫をするだけでも、研修の学習効果は高まります。それが行動変容につながり、現場へつながりやすくしてくれます。
2. 学習のゴールセッティング
このセッションでは、行動の明確なイメージを持つ重要性と、その方法についてお伝えしました。
研修後、受講生にどのような行動変容を期待するかを明確にすることで、受講生の行動へのモチベーション、行動変容のための関わり方が見えてきます。
明確にするべきポイントには、次の3つの段階があります。
①焦点を当てる行動
研修の結果、受講生が主体性を身に着けてほしいというケースが多く見られます。例えば「主体性」であれば、主体性を発揮している行動とは何か、また主体性が発揮されていない行動とは何かを明確にすることで、学びの粒度が大きく変わってきます。
②受講生のメリット
行動が明確になった上で、行動を変えていくことで受講生にどのようなメリットがあるかを明確にします。
例えば、「主体性を発揮すること」を自ら上司に相談しにいくことと定義します。自分から上司に相談しにいくことによって、悩んでいる仕事や、周囲との関係などの悩みに対して、フィードバックをもらうことができます。フィードバックの結果、行動が変わって成長していくことができます。このように、行動を変えることで、受講生にどういったメリットがあるのかまでを考えていくことが重要になります。
③必要な学び・支援
メリットを受講生が享受するためには、必要な学び・支援が必要です。しかし、行動を引き出すための学びとは、研修だけではありません。
eラーニングでの知識のインプットや、上司・周囲とのコミュニケーションでも引き出されます。その行動が何によって、一番効果的に引き出されるのかを考えることが重要です。
3. コミュニティの促進
最後のセッションでは、上司・周囲を巻き込んでコミュニティを形成していくのに重要なポイント、企業の学習する文化を形成していくための第一歩についてお伝えしました。
目標を作りっぱなしにさせない
学習した行動が習慣になるまでには、長い時間や、大きなインパクトが必要になります。そのため、継続的なフォローが必須になりますが、それを事前に企画しておくことが重要な側面になります。
特に最近、リモートワークが増えていて、近くに一緒に働く人がいない時間が多くなっています。そのため、「研修の最後にどういったアウトプットを出して、次にどのようにつなげていくのか」を設計しておくことが重要です。
なぜなら、目標を設定しても作りっぱなしになり、メリットが得られない状態が続くと、人は行動を再現しなくなるからです。つまり、「目標を立てても良い事がない」という気持ちが強くなり、目標を作るということ自体にメリットを感じなくなるのです。
その対策として、しっかりやり続ける仕掛けを作り、効果・メリットを言語化して発信し続けることが重要です。また現場の中で最初につくった目標をコミットし、周囲に関わっていく活動を入れ込んでいくことが有効的です。
ピア・コーチング
また、オンライン研修が増えるにあたって、「ピア・コーチング」を取り入れています。これは受講生同士が研修終了後にグループで定期的に集まって、研修の中で学んだこと、研修の中で実際に得たものを共有しあっていくことを促進する方法です。
実際に、研修の学びで現場に戻ると、さまざまな問題があります。例えば、「上司に報告にしても伝わらない、支援が得られない」ということも多く起こっています。そのため、共に学んだメンバーとまず共有していくということが、最初の一歩として設定しやすいと思います。
ピア・コーチングを取り入れたことで、現場での実践の量・現場の中で上がってくる事後課題の振り返りの量・そして内省の深さが大きく変わったと実感しています。
4.組織を巻き込む学習設計が「研修のやりっぱなし」を防ぐ
本セミナーを通じて、研修をやりっぱなしにしないためのポイントと、学習のゴール設定の大切さについてお話ししました。
研修をやりっぱなしにしないためには、学習者本人を中心とした学習設計と周囲の巻き込み、そしてそれによって最終的には学習の風土をしっかりと作り上げていくということが重要になります。
ぜひ、すべてのステークホルダーが関わり合って、学習の意欲と効果を高めることができるプラットフォーム作りをしてみてください。
本セミナーが、人事・育成担当の皆様の課題解決の一歩になれば幸いです。