目からウロコのHRDセミナー小倉講師アドラー式1on1セミナーレポート・キャッチ
2019.10.21

人と組織を育むアドラー式1on1の極意 「勇気づけ」が生み出す部下の心理的安全とコミットメント

最近の人事施策として「1on1」が注目を浴びています。しかし、「1on1に興味はあるが導入するメリットがわからない」「1on1を導入してみたけれどうまくいかない」「1on1と評価面談の違いがわからない」という声をよく耳にします。
今回は、2019年のヒューマンキャピタルでもご講演戴いた、リ・カレントプロフェッショナルパートナー講師である小倉広講師による目からウロコのHRDセミナー「人と組織を育むアドラー式1on1の極意」のレポートをお届けします。
当日の会場は満席。小倉講師も書籍に書かれていない最新の話も交え、「1on1をやるとどんなことが起きるのか」というリアルなお話を戴き、当初は「1on1はよくわからない」というお客様も、小倉講師のファシリテーションとグループワークによって「1on1の傾聴の本当の意味が分かった」という声が挙がるなど、大変好評なセミナーとなりました。

講師プロフィール:
小倉 広講師

組織人事コンサルタント、企業研修講師、アドラー派の心理カウンセラー、著作43冊、販売累計100万部のビジネス書作家
三菱UFJリサーチ&コンサルティング講師、SMBCコンサルティング講師、日経ビジネスセミナー講師、リクルートマネジメントスクール講師

株式会社小倉広事務所代表取締役

一般社団法人 人間塾 代表理事
一般社団法人日本コンセンサス・ビルディング協会 代表理事

大学卒業後、リクルート入社。主に企画畑で11年半過ごす。その後、ソースネクスト株式会社(現・東京証券取引所4344)常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。近年は、アドラー心理学と企業組織の双方を熟知した数少ない専門家として年間100回を越える講演、企業研修を行っている。

小倉講師アドラー式1on1 目からウロコのHRDセミナー

1on1の場で、若手も上司と対等に話せる心理的安全性がイノベーションを生む

小倉講師は、1on1を「上司と部下による週1回から隔週1回程度の定期的な1対1の対話」と定義しています。1対1でプライベートの話や本音も含めて話すことで、相互理解による学習、成長を目指す取り組みです。

Googleによるチームのパフォーマンスについての研究「プロジェクト・アリストテレス」によると、高いパフォーマンスの原動力として「心理的安全性」という指標が重要であるという結果があります。心理的安全性とは、安心・安全な環境で自分らしく自由に意見が言える状態です。若手も上司と対等に話せる心理的安全性があることが、業績に直結するというのです。Googleは1on1を行う中で組織に心理的安全性を築いています。

恐怖で追いつめられる環境のほうが業績を伸ばせるという会社もあります。ただ、これからの時代は恐怖では数字を出せなくなるのではないでしょうか。心理的安全性のある環境でなければ、新しいアイデアを出しにくくなります。「前例は?」「実績は?」と問い詰めては、突拍子もないアイデアは出なくなります。イノベーションによって生き残る会社になるためにも、心理的安全性は重要です。

現場でよく行われている1on1は、「取り調べ尋問」になっていると小倉講師は指摘します。上司が部下に対して仕事の進捗を尋ね、いつまでにやるのかと詰め、アクションプランを立てさせる。これでは上司はすっきりしても、部下から1on1をやりたいと思うようにはなりません。

上司は部下の話に対して、指示やタスクを与えません。すると部下は安心して、部下のほうから1on1を依頼するようになります。ただし、聞く役の上司にもやもやが残りますが、部下の心理的安全性を築くために重要なことだと小倉講師は述べました。

1on1によるエンゲージメントの向上から期待できるさまざまな効果

1on1で期待される効果(小倉講師)

©2019 OGURA HIROSHI OFFICE ,Inc.

 1on1を実施することで期待できる主な効果はエンゲージメント向上であると小倉講師は述べます。エンゲージメントが高まることで、社員同士の関係性がよくなり、スピード・アジリティ向上の効果も期待できます。上司が適切に1on1をやれば、部下の意欲がやる気が向上し、スキルアップします。理念・戦略のアライメント効果、つまり意識統一、方向性の統一によって理念とか戦略が浸透しやすくなり、毎週コミュニケーションを取ることで問題の早期発見にもつながります。また離職防止にもつながります。いまも昔も、退職理由のナンバー1は上司と部下の人間関係です。「人材不足が深刻ですが、採用だけでなく、優秀な人材が離職しないことにお金をかけるべき」と小倉講師は指摘しています。

1on1が成功するかと失敗するかは上司側のスキルにかかっている

小倉講師によれば、1on1が成功するか、失敗するかの最も大きな分かれ目は上司のスキルにあるとのこと。ただ進捗を確認する「取り調べ尋問」になってしまうと、1on1の効果が見込めないどころか、部下との関係を悪くする可能性もあります。また、1on1の定着のためには経営陣のコミットメントが重要。1on1を実施しても急に売り上げが上がるわけではありません。1on1を継続させていくのかどうかは、トップの意思に大きく左右されるからです。

1on1を継続させるために、1on1の目的を定義する

1on1の継続のためには、目的を明確にすることが重要です。目的が定義されていないと、「忙しくてできないから」「目に見える成果がわからないから」という理由で実施されなくなってしまいます。では、目的はどのように定義されるべきでしょうか。

小倉講師はここで、1on1における3つの目的を提示しました。

組織の成功循環モデル

1つ目は、組織の成功循環モデルです。マサチューセッツ工科大学のDaniel Kim氏が提唱している理論で、結果の質を求めるから結果がでない、まず関係の質を向上させれば、いい循環がうまれて結果の質が伴うという考えです。

目ウロコ小倉講師1on1の効果 ダニエル・キムの成功循環モデル

©2019 OGURA HIROSHI OFFICE ,Inc.

人間は、命よりも人間関係が大切だといわれます。赤ちゃんは無視されると死んでしまいますが、このように、親に愛されないと死ぬという体験をしているため、人間関係が悪くなると死の恐怖を感じるのです。結果の質を求めると、関係の質が悪化します。関係が悪くならないようにふるまうことが最優先になると、部下はチャレンジしなくなり、チームの結果が出なくなる。これが、負の循環です。

一方で、正の循環は関係の質を良くすることから始めます。多くの組織では関係の質からスタートすることで好循環を生み出せるというのが小倉講師の意見です。

このモデルに当てはめると、1on1の目的を関係の質向上に置くことは、結果の質向上につながることになるため、指標の1つに置くことができます。シンプルな測定方法は、アンケートをとり「上司に相談しやすくなりましたか」などの項目で指標をみること。それが数字につながるかどうかは、Daniel Kim氏の理論を信じるという話になる。

関係の質を向上させる。それが必ず業績につながるはずだと信じる。これが1on1を行う1つ目の目的です。

経験学習サイクル

2つ目の目的は、David A. Kolb教授の経験学習サイクルです。Yahoo!では、これを1on1の目的に置いています。人が経験することで、成長すればかならず売上につながるという考えのもと、経験学習サイクルが回ることが目的になっています。

小倉講師1on1の目的 デヴィット・コルブの経験学習サイクル©2019 OGURA HIROSHI OFFICE ,Inc.

経験学習サイクルがうまく回るためには、ただ経験しただけでなく、成功・失敗の要因を内省によって分析し、言葉に起こし概念化することが必要です。それを、また次の機会で活かすことで、経験学習サイクルが回り、人が成長します。このサイクルを回す支援を1on1で行います。

Yahoo!では、「この1週間どうだった?」というアイスブレイクの質問から始まり、その質問の返答をきっかけに「そこから学べることは?」と、経験学習サイクルへ導いています。このような1on1を繰り返すと、部下はサイクルを回すことが習慣化していき、無意識にでもできるようになります。サイクルを回すことができるようになれば、上司はその回転を加速化するサポートをします。

経験をするために任せる。内省するために質問をする。それを言語化するために要約する。最後に勇気づけをして、次の行動に促してあげる。これを実践すれば、毎回1on1で効果が上がるようになります。

自己決定と自己責任

3つ目の目的は、自己決定と自己責任です。上司が部下に決定させ、遂行を任せます。そして、部下が自己決定するサポートとして1on1を設定します。1on1では、部下が困っている場合、指示するのではなく、解決方法のオプションを示します。

アドラー心理学のカウンセリングスキルの1つに、「オプションを与える」というものがあります。オプションの与え方としては、選択肢を示さず、やりかたを自由に決めさせるオープンクエスチョンや、選択肢を示す質問があります。会社として、選択肢が一つしかない場合でも、「Aをやってください」ではなく、「Aをやってもらえますか?」と質問することで、「No」をいう余地がうまれ、逆に「Yes」をコミットメントする機会を与えることができます。このような1on1を繰り返すと、コミットメントすることが増え、モチベーションが向上し、実行率も高くなります。

以上の3つを1on1の目的とすることが、小倉講師からの提案として挙げられました。

ワーク:シカゴスタイルリスニングで傾聴スキルを体験

ここから、2人または3人1組に分かれ、上司役・部下役で1on1のワークを行いました。1回のセッションは10分間。話し手と聞き手に分かれ、聞き手は10分間黙って一言も話さずひたすら相手の話を聞く、「傾聴」を実践しました。

ワークを始める前に、話し手・聞き手それぞれのポイントが伝えられました。話し手にとって重要なのは、自分の感情を話すこと。話す内容は自由に決められますが、政治経済や他人の話をしても本音が出てこないため、自分の悩みなど、感情や身体感覚など今感じていることを話します。

一方で、聞き手は一言も話しません。話を聞きながら、相手の表情や体の変化を見ます。

すると、話をしている相手の表情が微妙に変化する瞬間があります。ずっと前を見て話していても下を向いたり、目が暗くなったりする。相手の反応に対して、自分も悲しい、楽しいというように、自分の心がどう感じるかを見ていきます。

10分間の話が終わった後、聞き手は、「あなたのおっしゃっていたのはこういうことですか?」という伝え返し(Testing Understanding)を行う。自分の意見は一切入れません。ただ相手が言っていたことの鏡になる。もしくは、相手の壁打ちになります。

また、表情や仕草、目線などの微細な相手の変化を指摘して、「さきほど、こういうことを言ったときに目が急に暗くなりました。もしかして嫌なのかなと感じたのですが、違いますか?」と、聞き手側が感じたことを伝え、認識が合っているかテストをします。このTesting Understandingですり合わせを行うことで、話し手は自分が本当に言いたかったことに気づき、決断できるようになると小倉講師は説明します。

小倉講師アドラー式1on1の傾聴スキルを身に付けるシカゴスタイルリスニング

セミナーでは、実際に参加者が1対1のペアになって、シカゴスタイルリスニングに則って、話し手役と聞き手役を入れ替えて1セッションずつ行い、参加者の全員で傾聴を体験しました。参加者のなかには涙を流す人もいるほど、大きな気づきをえられる体験になりました。

参加者の方からは、ワーク終了後、

「10分間ただうなずきながら聞いてもらったことで、いろんな角度から自分を見ることができ、深く内省できた。初めての人と話すのに、心理的安全性が得られる貴重な体験だった」

「仕事で悩んでいることがあったが、もっと自分を大切にして、どうしたらいいかを考えたほうがいいという結論が出てすっきりした」

「転職直後に思わぬ人事異動があったことで弱音を吐いてしまったが、声に出したらいまの仕事を頑張りたくなってしまった」

などの感想が挙がりました。

たった10分間のワークを交互に行うだけで、貴重な経験のシェアや、大きな気づきが得られる時間になりました。

1on1の傾聴がもたらす3つの効果

アクティブリスニングのワーク後、小倉講師から傾聴の効果について3つ解説がありました。傾聴の効果の1つ目は「心理的安全性」です。いままで同じ話を上司にしても聞いてくれなかったけれど、初めて会った目の前の人は一所懸命に聞いてくれた。それだけで涙が出るほどの体験だったのです。

2つ目は「とらわれへの気づき」です。傾聴をすると、自分の思い込み、とらわれに気づきます。「やりがいをもたなければいけない」「いまの会社にいなければいけない」という言葉に隠れている自分の本当の想いに気づくのです。

このときはじめて、自然と行動を決意し、本当のコミットメントが生まれます。これが、3つ目の効果である「自己決定によるコミットメント」です。

小倉講師アドラー式1on1における傾聴の効果「心理的安全性」「とらわれへの気づき」「自己決定によるコミットメント」

©2019 OGURA HIROSHI OFFICE ,Inc.

1on1の3つのスタイル:カウンセリング、コーチング、ティーチング

1on1には、カウンセリング、コーチング、ティーチングの3つのスタイルがあります。

このなかで小倉講師が勧めるのは、今回のワークで行ったようなカウンセリング的な1on1です。カウンセリングの1on1では、「傾聴」と「勇気づけ」を通して、全人格的成長を目指します。一方、コーチングの1on1では「目標達成」を目指します。ティーチングは、知識と技術の伝授を行います。

小倉講師カウンセリング、コーチング、ティーチングの1on1

©2019 OGURA HIROSHI OFFICE ,Inc.

これらの1on1の特徴は、カウンセリング、コーチング、ティーチングとレベルが進むにつれ、上司から部下に対して指示的になることです。指示が増えれば増えるほど、部下の自発的な気づきが減っていきます。社会人になってから振り返ると、学生時代の授業をあまり覚えていないように、人間は「指導されたこと」は忘れてしまいます。一方で、自分で気づいたことは覚えています。答えを教えると「気づき」を邪魔してしまうのです。

「時間はかかっても、答えを教えず、気づきを待つことが本質的な育成なのではないか」という小倉講師の意見でこのセクションは締めくくられました。

最後に、経験学習モデルの「勇気づけ」のワークを参加者で行いました。

上司による「勇気づけ」が部下の心理的安全を生み、部下が「できるかもしれない」に変わっていく

勇気づけのワークでは、参加者が再び上司役と部下役に分かれて行われました。部下役は、「やりたくてもやれないこと」を話します。例えば「禁煙したいんですが、煙草がやめられなくて……」といった内容です。それに対し「良い上司」「悪い上司」からそれぞれフィードバックをします。悪い上司は、すかさずダメ出しをします。「なに、まだ煙草吸ってるの? ビジネスマン失格だね」というような形です。

一方、良い上司は、「勇気づけ」をします。「いいね、禁煙しようと頑張っているじゃないか」。これをテクニックでなく、心の底から思って伝えるのです。そして、部下のなかにある小さな成功について、なぜうまくいったのかをインタビューします。すると、「自分はできない」と思っていた部下役が、「もしかすると、できるかもしれない」「もっと頑張ろう」と変わっていくのです。

小倉講師によるロールプレイの具体的な解説から「勇気づけ」のワークが行われ、会場は大いに盛り上がりました。

参加者は良い上司から「できるじゃないか」と勇気づけされることで、心理的安全性が保たれ、自然にアクションプランが生まれ、自分でコミットメントするという体験をワークから学ぶことができたようです。参加者が上司役となって1on1を実践する際は、ポジティブなフィードバックをする「良い上司」として部下に接することでしょう。

1on1を実践すると会社はポジティブ・エンジン駆動に生まれ変わる

「1on1を実践すると、会社はネガティブ・エンジンからポジティブ・エンジンで動くようになる」と小倉講師は指摘します。そもそも、人間は防衛本能を持っており、生まれながらにしてネガティブな生き物です。しかし、1on1のトレーニングを行うことで、本来持っているネガティブ・エンジンがポジティブ・エンジンへと変わり、会社も生まれ変わることができるのです。

小倉講師1on1を行うと会社がポジティブエンジンで動くようになる

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最後に、セミナー全体を通して参加者同士で気づきのシェアを行い、セミナーは締めくくられました。

今回の参加者が発信者となって1on1が広がり、ポジティブな変化が生まれることを、小倉講師とともに、リ・カレントも願っています。

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