2023.09.7

50代シニア:「主役・脇役」から「自役(じやく)」へ ~会社作の脚本から自身作の脚本で自律的キャリアを歩む~

シニア世代は、従来の線形キャリアから経験したことのない非線形キャリアへの大きな変化を迎えます。

先が見通せないことによる不安や職場での役割変化による孤独感、新しい技術への対応遅れによる焦燥感、若い世代が重要な役割を担うことによる無価値感など、必ずしも客観的な事実に基づくものでない感情を持つことがあります。
これらの感情は、今後の会社・組織・社会への貢献意欲、貢献行動に否定的な影響をもたらすだけでなく組織文化にも悪影響があります。

今回のセミナーでは、「ナラティブ・アプローチ」を用いた50代社員シニアキャリア施策についてご紹介しました。

「ナラティブ・アプローチ」は、シニア世代が新たなキャリアを築くために自己理解を深め、自分自身の役割の再定義に効果的な手法として注目されています。

自身も50代での転職・配置換えなどを経験した講師からの当事者としてのメッセージとともに、
50代社員が「会社がもっとどうにかしてくれないと……」「働き甲斐が見えなくなってしまった」
「chatGPTだとか新しいものにはついていけないな」と被害者意識で凝り固まってしまわないための
今一度キャリアに向き合い、自分で描いた脚本を歩む方法をお届けします。

渡邊 将樹
監修者
渡邊 将樹
略歴
リ・カレント株式会社 人材組織開発プロデュース部

講師紹介:「どうせムリ」の呪縛を自分の力で破りたい

今回登壇した渡邊講師は、自身も50代社員である当事者。
「シニアキャリア」を自身の特化テーマとしてコンテンツ開発・コンサルティングに携わっていますが、シニアキャリアに取り組むようになった背景には「どうせ無理の呪縛」があったと語ります。

「体力が衰え、家庭では介護の問題や子どもの教育サポートがある中で、会社から与えられた課題に取り組むのが難しくなり『どうせ無理』と考えることが多くなったのが数年前のことです。
そんな中で、自分こそが変わりたいと思うきっかけがありました。

一年半前に、父の介護中に、父の友人との対話を通じて父の人生を振り返ってみたんです。
そして、それに対比させて自分の30年後をイメージしたときに自分の仕事人生はこのままでよいのかと疑問を感じ、変わりたいと思うようになりました」

そして、20年ほど前にキャリアカウンセリングを学んでいた際にご指導を受けた宮城まり子先生が翻訳なさった書籍、ラリー・コクラン著『ナラティブ・キャリアカウンセリング〜「語り」が未来を創る〜』の本に出会い、今後の自分の仕事人生についてのアイデアを得たと渡邊講師は言います。

では、50代社員の「どうせ無理」という呪縛を打破し、自分のキャリアと人生に新たな意味を見出すために、まずは彼らの現状課題を改めて整理してみましょう。

50代シニアの被害者意識と将来不安

50代シニア層は、人生100年時代において55歳前後に役職定年、60歳で定年後再雇用が一般的となったことで、その後の役割や人間関係に対する認識が自己・他者ともに大きく変化した世代です。

この状況に直面する50代の声として、特徴的なのが次の4つです。

被害者意識:「(今の状況は)会社や上司のせいだ」

長い間会社から与えられた仕事を真面目にこなしてきた人ほど、「これから自分がどうすればよいのか」を会社依存で考えてしまうため、他責傾向が強く表れやすくなります。

将来不安:「将来、仕事がどうなるか不安だなあ」

50代の多くは、将来に対する不安を抱えています。
役職がなくなり、仕事のサイズが小さくなったときを想像し、将来に対する不安が増大します。

モチベーション低下:「働きがいがみえなくなってしまった」

役職由来の仕事を多く担当していた方ほど、役職定年や定年後再雇用を迎えた後の「役職を持たない自分」に自分らしさを見つけられず、モチベーションが下がってしまう傾向があります。

技術適応へのあきらめ:「ChatGPT、SNSなどITはもうムリだな」

新しい技術やSNSといったIT関連の変化に追いつくことが難しく、不安を感じることがあります。

こうした50代シニアの課題を解決するために、セミナーではナラティブアプローチを用いて自身のキャリアを描き直す手法が紹介されました。

「これからの自分」の視点を変えるナラティブキャリア

ナラティブとは、自分の役割やキャリアの物語を自分の言葉で語ることを指します。

50代社員がもともと持っているのはネガティブなキャリアイメージが多く、愚痴や不満、被害者意識が含まれています。
しかし、ナラティブキャリアの研修を通じて、これらのネガティブな要素をポジティブな視点で捉え直し、自分の役割を再構築することで、将来に希望を持って働くことができるようになるのです。

では、ナラティブ・アプローチでは、具体的にどのようにしてキャリアの捉え直しを行うのでしょうか。

ナラティブ・アプローチによるキャリア脚本書き換え5ステップ

セミナーでは、5つのステップでのナラティブ・アプローチによるキャリア脚本の書き換えが解説されました。

ステップ1 最初のキャリア脚本を語る
自分のキャリアに関連する出来事を洗い出し、それらを結びつけて「キャリア脚本」の基盤を作る
自身の人生をドラマや映画の脚本のように書き出すことで、客観的に俯瞰できる状態にする

ステップ2 人と問題を分離し問題を分析
書き出した出来事の中から、自分の強みや自分らしさを見つけ出す
ネガティブに感じる出来事があった際には、人と問題を切り離してみる

ステップ3 聴き手の質問に回答し内省
客観視点の聴き手からの質問に答えることで、バイアス(思い込み)を外して内省する

ステップ4 組織貢献や他の出来事を探索
内省をもとに、組織貢献や新たな観点で再度自分のキャリアに関連する出来事を洗い出す
キャリア脚本に関連付けていなかった出来事/自分らしさを発掘する

ステップ5 希望に満ちたキャリア脚本に再構成
ポジティブな視点に切り替え、キャリア脚本全体のタイトルと各章の見出しを付けて整理する

セミナーでは、渡邊講師より実際のキャリア脚本書き換えの事例が解説されました。
本記事でも一例をご紹介します。

こうしたナラティブ・アプローチの手法により、50代社員は今後に向けた希望が見つかるだけでなく、自分らしさが溢れるキャリアを描けるようになります。

また、自己視点と周囲の役割が明確化されることにより、自分がどんな貢献やフォロワーシップを発揮できるのか、周囲からどんな期待をされているのかについて自己認識が高まります。

【プログラム例】シニアキャリア施策

セミナーでは、ナラティブ・アプローチを用いた50代社員向けの施策例もあわせてご紹介しました。

リ・カレントのシニアキャリア施策では、単なる研修だけではなく、継続的なサポートを提供しています。
大きな特徴は3つ。

1.自分の強みを再発見
   ・チームメンバーからの感謝と称賛のコメントをフィードバック
・診断によりデータで強みをフィードバック

2.組織貢献の脚本づくり
   ・チームワークを意識しフォロワーシップを発揮している自役を脚本の中で具体的に記述

3.研修+人事施策
   ・上司との対話により、仕事と組織の役割の再設計
・研修内では、話しづらい深い悩みについては、1on1による相談対応

「インプットして終わり」の研修だけでなく、参加者は実際の業務に合わせて自身の役割を再設計することで、組織の成果に貢献するキャリア脚本を描けるようになります。

また、同世代や上司、人事部との対話機会を多く設計することで、受講者自身が互いに勇気づけられ、成果を確認し合い、継続して自発的な活動に取り組むことができます。

研修受講者の声

  • 5つのステップで過去の出来事にとらわれている自分の癖に気づけた辛い経験も今後に役立つ意味に前向きにとらえることができたのが、とても良かった
  • フォロワーシップの手法を用いることで、周囲の共感を意識した脚本につくり直すことができたのがよかった
  • 今まで固定観念から抜け出せず思考が固まっていたが、脚本家として一歩引いて俯瞰的にみると、どんどん新しい脚本が湧いてきた

まとめ

本記事では、50代社員が今一度キャリアに向き合い、自分で描いた脚本を歩む方法をご紹介してきました。

50代社員のキャリア展望には、被害者意識と将来不安という大きな二つの課題があります。

今回ご紹介したナラティブ・アプローチでは、これらのネガティブな要素を「キャリア脚本」として捉え直すことで、自分らしさや強みを生かした今後のキャリアを描き直すことができます。

キャリア脚本書き換えの具体的ステップは次のように行います。

こうしたナラティブ・アプローチの手法により、50代社員は今後に向けた希望が見つかるだけでなく、自分らしさが溢れるキャリアを描けるようになります。

また、自己視点と周囲の役割が明確化されることにより、自分がどんな貢献やフォロワーシップを発揮できるのか、周囲からどんな期待をされているのかについて自己認識が高まります。

貴社の50代社員が「会社がもっとどうにかしてくれないと……」「働き甲斐が見えなくなってしまった」
「chatGPTだとか新しいものにはついていけないな」と被害者意識で凝り固まってしまう前に、ぜひ本記事の内容を活かし、彼らが再び活躍する助けとしていただければ幸いです。

お問い合わせ 資料請求