ヒューマンキャピタル2017「キリンビール高知支店に学ぶ!メンバーの心に火がともる組織マネジメント」 Part.1

2017.08.3

「ヒューマンキャピタル2017」セミナーレポート

100年プランニング代表

元キリンビール代表取締役副社長/田村潤様

 今回のセミナーレポートも、2017年6月28日~30日に行われた日本経済新聞社、日経BP社主催の人事業界最大のイベント、「ヒューマンキャピタル 2017」で行われた講演を紹介いたします。そのなかでも、6月30日(金)に行われた100年プランニング代表、元キリンビール代表取締役副社長、田村潤様による「キリンビール高知支店に学ぶ!メンバーの心に火がともる組織マネジメント」のレポートをお届けします。

 キリンビールにて当時全国最下位ランクだった高知支店の売上をV字回復させ、同社を全国シェア首位奪回に導いた100戦100勝の「勝利の法則」。それを生み出した人こそ、元キリンビール副社長の田村様です。

 田村様が執筆された『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え! 』(講談社+α新書) のメッセージに、私たちリ・カレントの「日本中の『働く』を『働楽』に変えていく」という理念との共感・共鳴を覚え、ご講演いただくこととなりました。

 講演では、田村様のご経験より、数値での目標管理に頼らず、ビジョンを軸として理念・戦略・実行力の相乗効果でメンバーの主体的な行動を引き出すマネジメントの真髄をご紹介いただきました。また、セミナー終了後は、リ・カレントのブースにて、田村様のご著書のサイン会も行われ、大盛況となりました。その当日の講演の模様をレポート致します。

「生産性の向上」と「従業員の生きがい」を両立させるということが使命

 私は1973年に岡山工場に入社いたしまして、人事、労務のセクションをやっておりました。そこで学んだことが、キリンビールが9年ぶりにトップシェアを奪回することにつながりました。私が人事、労務のセクションで学んだことは、毎日のように工場の現場の方とお酒を飲みながら話をし、現場に本質があるということに気づきました。したがって、机上論や美辞麗句は廃止することにしました。

 次に個人個人の能力が無限大にあるということを現場で痛感いたしました。昨日のこの人間が今日こんなにも成長しているということを目の当たりにした結果、「生産性の向上」と「従業員の生きがい」。これを両立させるということが自分の使命であると認識しました。

 また、「平等の原則」と呼ばれていた組織運営を行うこと。つまり、仕事はチームで行いますが、チームの中には部長という立場の人もいれば、当時の私のような新入社員もいます。それぞれの役割は違いますけれども、その与えられた役割を100%全うするという意味では平等である。だから、正直に意見を言って議論をして、結論を出して実行していくということです。

 その前提として、情報の共有化というものがありました。意見の対立というのは、その大部分は持っている情報量の格差によるものです。部長の持っている情報量とメンバーの持っている情報量をそろえる。この組織運営が、その後キリンビールの営業の組織に入ったときに非常に役に立ちました。

『キリンビール高知支店の奇跡』という書籍を今から振り返りますと、そのなかで4つのことを言っております。

 ひとつは、当時社員が12人おりましたけれども、本社の指示によるいわば歯車として回るのではなく、本社をあてにしないで自分の足で立つ。そこに仕事の立ち位置を変えたということ。

 次は、本当の敵はライバルではなくて、現場を見ないで、組織の論理で仕事を推し進める、キリンの当時の官僚的な風土であるということ。その官僚的な組織風土と善戦できたからこそ、市場で勝てたということです。

 3つ目は、それまでのマネジメントは細かいプロセスの管理を行うか、あるいは現場にすべて任せるという放任という、この2つのマネジメントの方法しかなかったのです。そこを、「ビジョンによるマネジメント」に転換をしました。

 最後は、高知という非常に狭いエリアですけれども、そこで徹底してローカル化をしたことによって普遍性(グローバル化)を手に入れることができたということがあります。

 高知の目の前の井戸を掘っていたら、突き抜けて、市場もブランドも、あるいはマネジメントすべてが見えるようになった。本社の施策立案能力を、高知のほうが上回ってしまったということがございました。

アサヒのスーパードライ発売とラガービールの味の変更で、シェアが一気に急落

 1995年のことになります。それまでキリンビールというのは売れて売れてしようがない時代が非常に長かった。私の入社したころはシェア63%、工場の生産能力さえ満たせれば85%のシェアが取れるとまで言われておりました。そういった時代が非常に長かったので、昭和51年にそれ以上シェアを上げることができなくなってしまった。独禁法に抵触するということで、社内の目標がなくなりました。内向きな文化になっていきます。お客様を見る必要がなくなり、いかに社内で調整するかといった能力が問われるという時代が長く続きました。
 そうすると、自然と企業の力は弱くなってくる。30年前、アサヒビールさんがスーパードライを発売して大ヒットしまして、キリンのシェアが63%から一気に50%に下がりました。キリンも一番搾りを出したことにより、シェアが50%で下げ止まったという状態が続きましたが、社内の文化は変わらなかったため、シェアも少しずつ下がっていきました、
 1995年、私は高知支店長として、高知に着任しました。成績の悪い支店だったんですが、上からの支持をこなすだけの営業スタイルでしたから、支店内の危機感はなかった。自分は言われたことをやっているんだから、成績が悪いのは自分のせいじゃないというわけです。
 翌年の2月に、キリンビールはマーケティングの教科書にも載っているような失敗をしております。40年間トップブランドであった「キリンラガービール」が、スーパードライに抜かれそうだということで味を全面的に見直して、特徴である苦みを抑える、若者向けのメッセージにするという大転換を図りました。前年に米国でコカ・コーラが同じ失敗をしているのにもかかわらず。
 事前の消費者調査では新しいラガーを飲んでくれるというお客様が多かったのですが、ふたを開けましたら大失敗で、雪崩のようにキリンビールからアサヒビールへ数字が移っていきました。
 高知県は昔のラガーが好きな方が非常に多いところで、元来酒飲みの方が多いということもあり、一番被害が大きかった。高知支店はあっという間にキリンビールの中で全国ワーストワンの支店になりました。おまけに40年振りにキリンは高知県でアサヒビールに抜かれて2位に転落してしまいました。飲み屋さんにキリンを置いてもらっても、次の日に行ったらアサヒビールになっている。お客様が「アサヒビールを持って来い」と。「もうキリンの時代は終わった」と言う。「アサヒビールの時代だ」と、そういう状況でした。

具体的な指示は「家に帰るな」「眠るな」の2つだけ

 その年の暮れには私はキリンビールの高知支店長として来年のプランを作らないといけない。もう本社のせいにするわけにはいきません。しかし、本社を頼りにするわけにいかないけれども、自分たちで何をしていいのかわからない。売る力がなかった。それまでは商品を右から左へ運ぶだけでしたから、自分たちで本当に売ったという経験がない。
 何をすればいいのかわからない。ただ、セールスからは1年間「俺はこれだけはやる」ということを宣告してもらいました。数字が悪いのはしかたがないけれども「これだけはやった」という、何かそういった誇りが持てないとやっていけないという心理状態だったのですね。
 ただ、そこで出てきた目標の大部分は、飲み屋さんを月に200件、300件回るといったことでした。それでスタートしても、すぐにやめてしまう。
 飲み屋さんを回るというのは大変なことです。勇気が要るんです。いきなり裏口から入るわけですから。仕込みで忙しいときに「何しに来た?」と言って叱られる。すぐに成果が上がらないからやめてしまう。
 それを私が見て、初めて具体的な指示を2ついたしました。
 ひとつは「家に帰るな」という指示。もうひとつは「眠るな」という指示です。
 今ですとパワハラで問題になりますけども、「やると決めて合意したのだから、できるまでは帰ってはいけない」という、単にそれだけの話です。それから営業が実際に回り出したら、セールスいわく回ることに体が慣れたと言われました。スポーツとか音楽などの基礎トレーニングのようなものだったと思います。
 そうすると、日本ではやっぱり一所懸命やっている人たちを応援しようという人が出てきます。いろいろなところで「じゃあアサヒの生ビールは変えられないけれど、瓶ビールにちょっとキリンを入れてみよう」とか、そんな感じです。
 それでも、本当に売れなかったので、みなさんのような普通のお客様が飲み屋さんにいらっしゃいますから、一人一人に名刺を出してあいさつして「お願いですからキリン飲んでください」という話もしていました。お客様はびっくりしておりましたけれども、気の毒に思ったのか、いろいろなことを教えてくれました。
 このときはキリンビールのシェアが5割から4割に一気に下がって、このスピードだと5年後にはキリンはなくなる。そういう状況でしたから、いろいろな人に尋ねるしかない。どうしたらいいでしょうと。そうすると教えてくれるのですね。

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