2017.03.14

ベテラン社員の人材再開発を考える人事勉強会  ~50代の力を組織成果に活かすための3つの『J』~

 

【プログラム内容】
第10回 プロも唸らす! 人事志塾

役職定年者の増加、雇用延長制度の導入、バブル世代入社組の大量滞留…
といった背景を受け、昨今大手企業では50代社員に向けて、今後のキャリア再設計等の機会を提供している/検討しているというケースが増えてきました。

「管理職に昇格しない50代社員もモチベーションを維持して活躍してほしい」
「パフォーマンスを向上させ下の世代へプラスの影響を与えてほしい」
「彼ら自身が自分の未来のイメージを描いて、会社と健全な関係を築いてほしい」

社内で上がる、このような悩みの声に企業はどう向き合っていけばよいのでしょうか。

今回は、50代社員のキャリアを専門とする2名の講師を招いて開催した、

「ベテラン社員の人材再開発を考える人事勉強会
~50代の力を組織成果に活かすための3つの『J』~」

のセミナーレポートをお届けします。


岡田 慶子講師(写真左)
【略歴】
多業種、他職種での職を経た後、企業研修の設計、講師、企業の風土改革コンサルティングに従事。
上場企業の子会社の代表を務めた後、2013年より経営者向けアドバイザーや事業開発サポートのフリーランスで活動。2016年株式会社ヒキダシを設立し、現在に至る

木下 紫乃講師(写真右)
【略歴】
1991年リクルートに入社後2006年より人材育成コンサルティング会社にて次世代経営者リーダー育成研修や、キャリア研修、管理職研修など、200社以上の企業研修の設計、運営。2013年慶應メディアデザイン研究科(大学院)へ入学後はライフテーマを「新しい時代の新しいキャリアの創り方」へ移行し、2016年株式会社ヒキダシを設立。


今、起き始めていること

現代の50代の課題は、10年前の50代とは異なります。
10年後と現代の50代の比較を考えてみても、やはり課題は異なってくるのではないでしょうか。

参加者の皆様からは次のようなお悩みが多くあがりました。
「中高年社員にフリーライダーではなく、戦力となってもらうにはどうすればよいのか」
「再雇用制度を取り入れている(今後取り入れる)が、再雇用者の元気がない・モチベーションが低い」
「管理職に就かない30代以降の社員が研修難民となっている」
「平均年齢が高く、辞める管理職がいないので後が詰まっている、滞留している」

こうしたお悩みが生まれる背景は、どのようなものでしょうか。
木下講師は大きく2つの要因があると言います。

・企業内平均年齢の上昇
・社会変化による、望まれるキャリア観の変化

企業内平均年齢の上昇

圧倒的な人材不足と高齢化が待つ現代社会。
2010年の労働生産人口は約8000万人、2025年には約7000万人に減少します。(国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集より)
65歳以上は現在約3000万人、2025年には3500万人を突破すると予測されています。

企業の中で高齢化が進むのは当然の時代。
中高年社員にパフォーマンスをあげてもらいたいが、今までのサポート体制では不十分であるという課題は、多くの企業で見られます。
中高年世代への直接的な影響のみならず、優秀な若手人材が「自分よりパフォーマンスが低いのに給与を多くもらっている」と退職してしまう、これこそが企業にとっての危機であると木下講師は言います。
構造を改革しないことで優秀な人材から外へ流出してしまうのです。

社会変化による、望まれるキャリア観の変化

多くの企業において、教育コストを最も集中して投資しているのは30~40代のリーダー候補育成、次いで新卒~30代であるといいます。
役員候補以外の40代後半以降は放置もしくはゆるやかな退出勧告がなされ、アンタッチャブル。研修難民となっているのです。

これまでの成長型社会を背景にした日本型雇用では、採用した社員を長期的に育成しながら定年退職まで雇用することが前提でした。人事制度や教育制度もそれに合わせて設計されてきました。

そして、そのような雇われ方にあわせた価値観が社員の中でも醸成されてきたのです。
つまり、新卒で入った会社で一生を終えることを前提とし、その会社に最適化した成長をし、会社人生の後半は成長というよりもリタイアに向けた準備をするという考え方です。

しかし社会変化のサイクルが短くなり、企業存続のためには分社化など規模の調整や必要な能力の調整ができる柔軟性が必要となっていると木下講師は言います。

それに伴い、企業内で求められる人材も変化しています。
今や、50代に限らずどの世代にも自ら学ぶ力を持ち成長することで組織に貢献し、かつ一方で、組織に依存し過ぎず、キャリアを自律的に選ぶことのできる人材が求められているのです。

しかし、社員はこれまでそのように教育されておらず、こういった考え方に追いつけない、追いつけたとしてもどうしてよいか分からないのが現状です。
特にキャリア観の変化の狭間にあるのが50代をはじめとした中高年層です。

今までのキャリア観とこれからのキャリア観

キャリア観を変えなければいけない一番の理由、それが長寿化であると木下講師は言います。

ここでは『LIFE SHIFT』(著:アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン)の内容をご紹介いただきながら、現代のキャリア観についてひも解いていきました。
この書籍では「人生が100年近くになってきている。人生設計は今まで通りでよいのか」という問題提起がなされています。
これまでのように人生を学校、労働、リタイアの3ステージで捉えるのではなく、「労働」の後に再び「学校」のステージに入るなど、マルチステージでの捉え方になっていく必要があるということです。

現代における外部的な環境の変化としては、先述の労働人口不足のほかに、働き方の多様化、終身雇用・年功序列の終焉、ICTの圧倒的な変化・情報化社会といったものが挙げられます。
また、それに伴い、保持スキル・知識の早急な陳腐化といった危機感を抱く50代社員が増えているのです。

今までは「キャリアは会社が決めるもの」でした。組織が個人をどう使うかという観点が強かった、と木下講師は言います。
これからは「キャリアは社員自身が築いていくもの」となっていきます。


企業と社員はお互いの目指すもの・期待を把握し、個人vs組織にならない新しいキャリア観の構築と実際のアクションをとる必要があるのです。

いまどきの50代ロールモデルとは

「そうは言っても、ビジョンを言葉で伝えても50代社員に意図通りに伝わらない、伝えるのが難しい」
「新しいものを受け入れたくない、急に変えろと言われてもイメージを持てない」
ご自身も50代であるという参加者の方から、このような声をいただきました。

自身でキャリアを築いていくことができている50代の方とは、実際にはどのような方なのでしょうか。
岡田講師から実例をいくつかご紹介いただきました。いずれの方も、会社では役職に就いていないものの力を発揮しており、かつ社外にも活躍の場を持つ皆様だと言います。

ロールモデルの大きなパターンは3つ。
・スキルが一般化できている
・今までの経験が活かせている
・まったく新しいことへ挑戦している
また、共通点は以下の7つです。
・元来の好奇心を持っている
・他社にロールモデルがいる
・仕事で自己効力感を得ている
・成長意欲・学習意欲がある
・経験を自分ごと化できる(失敗も含めて客観的に語ることができる)
・社内外への貢献欲求がある(自分の持つ経験や学びを若い人たち、周囲に与えたい)
・自分のコアとなる軸がある

こうした共通点をもった50代ロールモデルを、果たして教育や制度で生み出せるのでしょうか。
岡田講師・木下講師からは、50代ピラミッドの中でもなんとなく不安感や危機感を抱いていると思われる「変革予備軍」を対象とし、人事部として考えるべき論点とアプローチの提案が示されました。
変わりやすい層から手を打つことで、会社の中に新しい潮流を生み出していくのです。

一例をご紹介します。

論点
「会社として50代にどのような機会提供をしていくのか」
アプローチ案
「起業・副業支援をはじめとした将来へ向けた具体的なスキル支援提供を教育内容に組み込む。
社外交流、インターン、出向等も含め、外に出る経験をさせる」
理由
・会社として自立した社員を求めるという意図を伝える
・ベテランであっても「成長意欲」を促す
・社外に出ることで、自分が変わらない言い訳から脱却させる
・自分を相対化させ、できないことだけではなく、できることをきちんと認識させる
※支援を受けても、実際すぐに会社を辞められる人はほとんどいない

論点
「50代への期待を、彼ら自身へどのように伝えるか」
アプローチ案
「評価ではなく期待を踏まえた『行動』に対するフィードバックを行う」
理由
・この層はすでに評価によって、大きく処遇が変わる層ではない。
むしろ役職定年に向けて、処遇は下がることが予想される。
ゆえにいわゆる査定のための評価フィードバックよりも、これからの役割貢献期待のためのフィードバックに力点を移し、丁寧にしていくことが重要
・そもそも年齢から、評価を与えづらい層でもあり、評価や期待を伝えられることも少ない

50代非管理職社員 活性化のポイント

50代非管理職社員が活躍する環境には、研修と異なる「異」なるものとの出会いが必要だと木下講師は言います。

ポイントは、会社が置かれた現状と、それゆえの50代社員への期待を明示することです。

人事として、会社の現状を明らかにすることで、50代社員への期待を漠然とした「活躍期待」から具体的な能力・役割へと分解することができます。
50代社員は、それをうけて自分の役割や得意不得意を認識し、自身の価値を知ることで自信を持つというプロセスを経て、組織や社会とあらたなつながりを元に自立することで活性化するのです。

セミナー感想・気付き

ご自身が50代であったり再雇用制度利用者である参加者の方も多く見られ、皆様の「現状を変えていかなければ」という想いを切実に感じる会となりました。

講師と参加者の方のやりとりで聞かれた「50代ロールモデルが社内で育つことで、会社に自立型キャリアの潮流が生まれる」という言葉が印象的でした。
この課題へのアプローチは、現在の50代への影響はもちろんのこと、20~30年後に50代となる若手・中堅層にも「彼らが今からどうするか」を考えてもらうきっかけとなります。

社内制度によるアプローチと、研修等で社外のコミュニティとの繋がりを広げさせるアプローチを両輪で進めていくことが必要だと感じました。

50代キャリアの研修をご希望の方は弊社にお問い合わせください。
引き続き人事ご担当者さまに役立つセミナーレポートをお届けしていきます。


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