「変革主導型リーダー」をつくる“修羅場経験デザイン”のすゝめ
VUCA時代、“変革主導型リーダー人材”の戦略的育成がビジネスの生命線になっています。
貴社ではどのようにお取り組みでしょうか?
「今の部長職が現状維持型になっていて、実質的な変革ストッパーになっている……」
「課長職クラスの選抜教育が学習イベント化していて、顕著な行動変容が見えない……」
「次世代選抜人材を鍛えたいが、ポスト不足のため役職につけず、プレイヤー業務に甘んじている……」
「人事制度上では30代で部長を出すのは難しいが、将来幹部として市場価値をつけさせたい……」
次代を担うリーダー人材の育成に、このような悩みをお持ちの方。
管理職手前30代人材の”修羅場経験デザイン”を組み込んだ、選抜人材研修をご紹介します。
- 監修者
- 石橋 真
- 略歴
- リ・カレント株式会社 代表取締役社長
目次
「修羅場経験」で高まる変革への自己効力感
部長職として組織変革を成功に導ける人材に共通することは、「管理職手前30代での”変革活動”の『修羅場経験』にある」といわれます。
「変革活動が成功するかどうかわからない状況でも何とかできた」という経験から、変革への「自己効力感」が高くなり、今後のリーダー活動の支えになるのです。
では、自己効力感が高まる修羅場経験とは何でしょうか?
一般的なビジネスパーソンは、20代後半までは多くの人が成長実感を持てていますが、年齢とともに下がっていき、今回対象となっている30代中盤になると底値になっています。
ただし、すべての人が上記に当てはまるわけではありません。
30代にあっても成長実感を持っている人やもっと成長したいと考えている人を選抜し、5年後10年後の経営幹部候補を育成するのが「次世代リーダー研修(選抜研修)」です。
ここでいう次世代リーダー研修は、5年後の経営人材育成を目指すものを指します。
研修対象の多くは中堅選抜人材ですが、プレイヤー志向の強い人や保守的で変革を恐れているリーダーも含まれていることが往々にしてあります。
半年〜1年に渡る研修でマインドセット・スキルセットを実施していくなかで、「修羅場をくぐれる自力」を身につけた骨太リーダーへと成長を促すのです。
修羅場経験とは何か
企業組織における修羅場経験とは、経営の変革・改革と組織現場の間で起こる反発に遭遇しながらも説得・交渉などで乗り越え実現していくハンズオン体験を指します。
重要なのは「実際の職場でどう動いていくか」です。
半年間で10~12日程度しか実施されない研修の場での学びよりも、アクションラーニングの中で起こるさまざまな体験こそ、まさに修羅場体験だといえるのです。
なぜ30代で「修羅場経験」が必要なのか
30代で修羅場体験が必要とされる理由には、2つの要因が関わっています。
(1)環境的要因
(2)心理的要因
環境的要因:VUCA/心理的要因:心理的“非”安全性
「VUCA時代から日本経済は伸び悩んでいる」といわれる今、ステレオタイプからの脱却を図るべく、働き方や人事制度などへの変革の手が打たれています。
AIが人間の日常の意思決定に影響を及ぼしていくような時代に突入していくなかで「人間に本当に必要とされているのは何か」と考えることになりますが、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士は「戦略的学習力が必要だ」と発表しています。
つまり、「個人力強化×組織力強化」が求められている現代は、プレッシャーやストレスが非常に高まっている環境だといえるでしょう。
一方、心理面からみると、すべてのワーカーに「心理的安全性」が必要だといわれています。
しかし、先程の環境的要因から考えると、「心理的“非”安全」な状況に追い込まれているのが実情です。
自己肯定感と自己効力感
課長、部長とステージが上がっていくにつれ、組織変革への期待は高まります。
同時に、心理的“非”安全性も増していきます。
▼管理職の心理的“非”安全性について詳しくはこちら
部下に任せたいけど・任せられない管理職が陥る
「8つのアンコンシャス・バイアス」
40・50代でそういった状況が待ち受けていることを踏まえて30代に何をするのか、が重要なポイントとなるのです。
20・30代のうちから自分がやっていることが何かしらの成果に結びついているという実感によって自己肯定感を育てていき、未来に向けての自信を高く持てる人材育成が大切です。
このことから、修羅場を乗り越える経験が、5年後を担う人材には重要になってくると考えられるでしょう。
次世代リーダー研修に自分から参加していたとしても、講師や人事関係者からの指示に従っている間は「他者決定」です。
これでは、研修を終えた後にも実践を続けることは難しいでしょう。
しかし、研修と職場実践を繰り返す中で徐々に自己効力感が高まってくると、「自己決定」のスタンスへと変わっていきます。
この変化のカギを握るのが、毎回の研修で欠かさず実施される「受講者同士のフィードバック」です。
受講者間フィードバックで起こることを、自己効力感が高まるメカニズムに当てはめてみましょう。
まずは制御体験。職場での実践がこれに当たります。
また、受講者相互フィードバックによって「人が耳を傾けてくれる=自分でなんとかやり遂げた」と感じる人もいるでしょう。
そして、他の受講者による実践エピソードを見聞きし、学ぶことによる代理体験。
良かった点を述べ合うなかで周囲から承認の言葉をもらう言語的説得。
これらの体験を経て、前向きな姿勢で研修に参加することが良好な生理的状態に繋がります。
次世代リーダー研修への参加を通して、修羅場経験克服のための自己効力感が形成されていく設計となっているのです。
修羅場経験をつくり出す「5つのしかけ」
では、修羅場経験はどのようにデザインするのでしょうか。
必要となるのは以下の5つの観点です。
- 強烈な反省論
- 使命の明確化
- 巻き込むリーダーシップ
- 課題解決ロジック
- 視野・視座・視点
ここでは一部を抜粋してご紹介します。
強烈な反省論
三枝匡氏は著書『V字回復の経営』のなかで、変革する企業の3つの原動力として
- 「戦略」「ビジネスプロセス」
- リーダーの「マインド」「行動」
- 企業の「気骨の人事」
が必要だと述べています。
そして、その土台として欠かせないとされているのが「強烈な反省論」です。
改革の当事者になったとしても、「経営者が悪いのでは?」「組織が悪いのでは?」といった他責思考を持ってしまうことはあるでしょう。
この点を真摯に見つめ直さないことには、改革のリーダーにはなり得ないのです。
実際の研修受講者を見ていても、組織としてうまくいってない部分について「自分に問題がある」とはじめから考えられる人は少数派です。
特に30代であれば組織のしがらみなどを経験しておらず、他責的・批判的な目で組織課題を捉えていることが多いのが実情です。
「自身も組織に含まれており、自分に問題があるからこそ今の問題がある」といった当事者意識を持たせる仕掛けを、研修初回に組み込むのが望ましいでしょう。
また、自身を客観視さあせる材料として、360度サーベイの利用も有効です。
上司・同僚・後輩からどのように見られているのか、自己認知と他者認知のギャップを知ることでメタ認知力を高めることにつながります。
自分の内的要因をしっかりと掴まないことには、自身の言動を変えることはもちろん、変革に向けて動き出そうとしたときに反発する人たちの内面を理解し共感することも難しいでしょう。
心理的な辛さを感じる人も多く出るプロセスですが、この経験をした人からは「自分の弱さを開示したことで逆に味方・共感者が増えた」という声が上がるのも事実です。
使命の明確化
なぜ30代になると、成長実感が下がり、仕事をライスワーク(=生活費を稼ぐための手段)と捉える人が増えるのか。
ミッションが明確でないまま、年次が上がって任される仕事が増えていくことで、目先の仕事に走り「とにかくやる」思考になりがちだからです。
ここで重要となるのが、「どんな使命感で、どんな将来図を目指し、何を大事にしていくのか」というミッション・ビジョンを自ら見出すことです。
実際の研修では、「ミッション・使命を考える」パートにおいて、問いを自らに発する(=考える)ことで「なぜ/何のために/誰のために/何を大事にして/何を目指して」といった「WHY」の領域を考える仕掛けを取り入れています。
「WHY」を語ると、情動が突き動かされます。
人間の本能を司るといわれる大脳辺縁系に電子信号が流れてハイモチベーション・ロングモチベーター状態になるのです。
視野・視座・視点
次世代リーダー人材に特に求められるのが「視野・視座・視点」の引き上げです。
今までは近視眼的に自部署・現在のみを見ていたものを、いかに過去や社外からの視点が持てるか、自分の視座を上げていけるかといったところが求められます。
この引き上げにおいて参考となるものは、共に研修を受ける仲間との関わりはもちろん、さまざまな大手企業のプロセスや中小企業の変革事例、いろいろなフレームワークと多岐に渡ります。
また、持論と経験則ではありますが、やはり、最大の決め手は『今回のチャレンジを通して市場価値の高い人材に成長したい』と腹決めができるか否かではないでしょうか。
市場価値の高い人材とは、社内でナンバーワン実績を生む戦略・戦術を持っており、改革の修羅場を乗り越え、そして外にも働きかけて人脈を自分で作っている人です。
こうした人は、マインドセットができれば自ずと実践まで至るでしょう。
研修後の観点:選抜人材の評価
これまで述べてきた要素をおさえていくと、研修の終了後には変革適応度がはっきりとします。
研修前には一般的に、これまでの挑戦度で見たときの割合は上位層が2割程度、中ほどの割合が最も高く6割程度だと予想されます。
しかし、半年~1年間の選抜研修を経ることで、職場での変革実践が続く=変革適応度「大」/続かない=変革適応度「小」の人材がそれぞれ4割程度と、大きく変化を見せます。
変革適応度「小」「中」の人たちには、既存事業・組織の維持といった機会が与えられるとよいでしょう。
人事評価においては、成果と能力を同程度に評価することが望ましいです。
一方で、変革適応度「大」の人たちには、より高度・広範囲な変革挑戦の機会を設けることをおすすめします。
ただし、注意しなければならないのは、評価についてです。
変革適応度が「大」の人に対しては、高度な成果は簡単には出ないことを念頭に評価を行なう必要があります。
「小」「中」の人と同じ軸で評価してしまうと、高度で広い範囲のことを手掛けている人の評価はどうしても下がってしまいます。
未来に向けた行動に対する評価に納得感が無ければ、せっかくの変革人材も守りに入ってしまいかねません。
変革を推進する組織文化の形成には、「納得感ある評価」が併せて必要なのです。
30代前後の修羅場経験で育まれる変革リーダー
変革主導型のリーダーは、30代前後の修羅場経験によって育まれます。
修羅場経験を研修でデザインし適切にフォローしつつ進めることで、より多くの高ポテンシャル人材を活かすことが可能です。
5年後、10年後を見据えて、今から育成体系を整えてみてはいかがでしょうか。