脱・一問一答型 新人育成! “応用上手”な新人を育てるOJTトレーナー2つの関わり
目次
新卒社員の配属・フォローアップ、2年目3年目フォローアップが佳境を迎える中、
弊社にいただくご相談にて、このようなお悩みが増えてきました。
・一つ一つの仕事に対して細かい質問があり、報連相に時間がかかる
・物事の要点をつかむことが苦手で、指示/指摘の意図を正しく汲めないことがある
・「髪型について注意された翌日、髪型は改善されたが今度は服装がだらしない……」など、似たようなことに繰り返し注意が必要
こうした育成のお悩みは、
先輩・上司からの指示や指摘に対する抽象化・一般化ができない若手社員が
フィードバックを「その場・そのとき個別の指示・指摘」としてのみ受け取ってしまうことに原因があります。
今回のセミナーでは、最新の若手意識調査から新入社員の傾向・本音を紐解き、
一を聞いて十を知る”応用上手な新入社員”を育てるOJTトレーナー育成施策をご紹介しました。
新入社員の傾向解説:大人しさの理由は無意識の「生存戦略
セミナー冒頭にて、講師からOJTに関する聞きたいこと・自社で課題にあげられていることを伺うと、
「社会の状況から、新入社員傾向が大きく変わってきたと感じる。現代っ子の特徴や世界観を知りたい」
「OJTトレーナーが何を意識して新入社員と関わるべきか、コミュニケーションの取り方のコツ」」
「(新入社員が)教えている事が正解と思ってしまい、それ以上に自ら工夫をするようになってほしい」
など、実際にOJT施策に取り組んでおられる皆様ならではの具体的なお悩みが寄せられました。
こうしたお悩みに対し鷲尾講師は、2022年現在のOJT施策の現場で生じやすい問題・課題をこのように整理します。
・そもそも「OJT施策」は、取り組む企業ごとに実施内容がかなり異なり、一般的に「こうすればよい」という定石が打ちづらい
・それに加え、コロナ前に比べ、現場で実際どのようにOJTが行われているのかといった情報があがってきにくく、人事と現場の連携がとりにくくなっている
その上で、セミナーの内容冒頭では、「今」の若手がどのような傾向を示し、それはどのような背景によるものなのか、若手の傾向が解説されました。
・研修中、「質問ありますか?」と聞いても出てこないけど、「ZOOMの個別チャット」で質問が来る
・自分が成長する!よりも、身の回りの人のために頑張る、役に立つ、が強い優しい方が多い
鷲尾講師はこうした新入社員の具体的な行動を例にあげながら、
そうした「大人しさ」の本質を「無意識に発動してしまう生存戦略」である、と解説します。
学生時代からSNSを使いこなしコミュニケーションをとってきた”現代っ子”な若手社員の方々には、「目立ってしまうと一発アウト」の世界観を持つという特徴があります。
具体的には、「集団から外れたことを一度してしまうと、自分のいないLINEグループを作られる感覚」が彼らにはあるのです。
「とはいえ、中途入社で新しい組織に入ったときや新しい部署に配属されたときなど、まずはどのような組織なのか一瞬様子を見る、という…そのような感覚は多少私たちの中にもあると思います。ただ、こういった生存戦略があまりにも長引いてしまう場合は、本来であれば得られたいろいろな経験がしにくくなってしまいますよね」
鷲尾講師は、
まず「大人しさ」を選択することは、「新しい組織に入った際の『生存戦略』として間違ってはいない」とした上で、
「配属先をふくめ様々な環境で経験を積む機会を適切に受け取るためには、その「戦略」を変えていく必要があるということは、新入社員の皆さんに伝えていくべきでしょう」
と再確認します。
参加者からは、
「研修時以外でも、現場配属となった際、現場の先輩方にも知ってもらいたい内容」
「やはりSNSの影響は大きい。ただ、SNSが身近であることによって、共感能力が高い人が多いとも感じる」
といった声があがり、新入社員の特徴についての理解を深めるとともに、彼らにある強みについても気づきが得られたご様子でした。
現場で起こっているすれ違い:「何度も同じ注意」をする上司と「同じこと“は”言われていない」な新入社員
そんな「生存戦略」を前提に、
今新入社員を受け入れている現場で起こっている課題の一例があげられました。
実際に鷲尾講師が研修現場で目の当たりにしたというこの実例の中では、
「前も同じことを言っているよね?」という上司と、
「“同じこと”は言われていませんよ」という新入社員のすれ違いが起こっています。
上司は服装・髪型・バッグそれぞれについて注意しているのではなく、「身だしなみをきちんとしよう」という点で「何度も注意」しているのですが、新入社員はこれらを「別々のことに注意を受けている」と受け取ってしまっています。
鷲尾講師はこれを一種のわかりやすく極端な例であるとしつつも、
「新入社員は真面目で実直なのに、どこか応用が利かない」
といったお声として、様々な現場でよく聞くといいます。
「何が起こっているかというと、
『言われたことの一般化・抽象化を行い、他のことに転用する』ができていないのです」
その背景として、
自分とは異なる文脈を持つ相手とのコミュニケーション機会が不足していることや、
検索エンジンのアルゴリズムの発展などによる「自分が興味のあるニュース・情報」だけが入ってきやすくなっていることなどがあげられます。
それでは、彼らが服装・髪型・バッグなどを指摘されたとき、「これは『身だしなみ』について注意されているんだな」と理解するというように、一段階抽象度を上げて理解し応用していくためには、どのような関わりが必要なのでしょうか。
打ち手の紹介:現場で行う支援をアップデートする2つのキーフレーズ
こうした課題への打ち手として、鷲尾講師は、
「まず前提にOJTの役割…現場で行う支援のレベルをアップデートしていく必要がある」といいます。
一般に、OJTの3つの役割として「業務指導」「精神支援」「内省支援」があるとよく言われますが、今回の課題の文脈からは、そのうち内省支援の質を向上していく必要があるのです。
さらにその具体策は、
二つのキーフレーズの活用…「“そもそも”を問う」「“一言で”話させる」に集約されます。
現場支援をアップデートするキーフレーズ②:「そもそも」を問う
先ほどの身だしなみを例にとると、
『もうちょっと服装気を付けたほうがいいよ』、
『髪型もうちの仕事内容には合わないかもね』
こうした個別の指導にプラスして
『そもそも、何を注意されているかわかっている?』
『そもそもこれって、何に対しての指摘かって、どんなふうに認識してる?』
と問いかけることが非常に有効と講師は語ります。
「最初は「身だしなみ」といった抽象化がすぐにできないかもしれませんが、そうした問いかけを行うことで、個別事象を抽象化する思考へのアクセスが開かれます」
問いかけを行うことで、若手社員自身の内側に
「あれ?これはそもそも何について言われているんだっけな」
といった問いの視点が生まれるのです。
さらに、何度もこうした問いかけを行っていくことで、思考習慣として定着していきます。
現場支援をアップデートするキーフレーズ②:「一言」で話させる
また、講師は「人に話すことで思考に整理がつく」という脳の特性に着目します。
今自分が何を指摘されたのか「一言で説明してみる」を実行することで、
新入社員自身がどのように指導を認知しているかが明確になり、軌道修正が比較的容易になるのです。
「このようなフレーズを根気よく用いて、普段のコミュニケーションの中で「抽象と具体の行き来」を行うことが、新入社員の応用力を育むコツです」
また関わりの頻度についても、
「業務が一区切りしたタイミング、例えば営業であればお客さまとの商談が終わった後などに、『そもそもこれってさ』『お客さんが言いたかったのは一言で言うとどういうことだろう?』と声をかけて振り返るとよいでしょう」
と鷲尾講師はアドバイスします。
また、「自分は何のために働くか・どのように働くか」といった働くに関する価値観が、若手の挑戦傾向を強めることを明らかにしたリ・カレント独自調査を引用しながら、
「こうした価値観を早期に育むためにも抽象概念は非常に重要」と講師は強調します。
働く価値観を醸成するためには、様々な仕事の経験から、「私はビジネスパーソンとして何を大切にしたいんだろう?どうしていきたいんだろう」を、まさに「抽象化・言語化」していく必要があるからです。
さらに、2つのキーフレーズをより効果的に用いるためには、
このような「そもそも」の問いに新入社員が安心して考え向き合うことができる環境づくりも重要です。
彼らにとって安心・安全な関係性作り・場づくりのためには、
「そもそも」「一言でいうと」に続けて、
「まずはキーワードでいいよ」「言葉にしてくれてありがとう」
といった承認をこまめに行っていくことが欠かせません。
「『自信はないけれど自分の感情や思考を言語化してみたら、他者から承認された』という成功体験を積ませてあげるのが非常に有効」と講師は語ります。
まとめ:新入社員の抽象化トレーニングは次世代リーダー育成の土台づくり
鷲尾講師は今回のセミナーをこのように締めくくりました。
「新入社員の抽象化トレーニングを行うことは、
彼らと現場の困りごとを解決するだけでなく、
中・長期にわたって彼ら自身のパフォーマンスを高めます。
そして、新人・若手階層に限らずに目を広げたとき、
管理職育成やプレリーダー育成の現場でご一緒する受講生の方々にも
「この会社で成し遂げたいことは?」「自部署で掲げたいミッションは?」といった
抽象度の高い問いに対し、自らの言葉で言語化ができない方はたくさんおられるのが現実です。
だからこそ、新入社員のような早期の段階から、
日々の業務の中で、本質的な問いに立ち戻って思考・感情を抽象化するトレーニングを積み、思考習慣を身に着けることが非常に重要なのです」
ぜひ、「そもそも」「一言で言うと」のフレーズを活用し、新人育成の現場支援・内省支援をアップデートしてみてはいかがでしょうか。
本セミナーが、人事・育成担当の皆様の課題解決の一歩になれば幸いです。