【主体性編】「新人のために」が生む、 人事と新人の“不幸”な3つのすれ違い
新人研修の企画や配属準備、現場受け入れ準備を進めていく中で、こんな話が上がりませんか?
・大人しい新人達から主体性を引き出してあげたい
・若いうちからやりたいことを大切に、目標を持って働いてほしい
・新人のうちは思ったことを口にしづらいだろうから、彼らが気楽に話せる場を設けてあげたい
「新人のため」を思ったこれらの考えが、実は「人事と新人の不幸なすれ違い」を起こしているかもしれません。
今回のセミナーではこのすれ違いの中から、主体性について取り上げました。
目次
育成側の誤解:新人の主体性を”引き出そう”とする
私たち育成側が新入社員に「主体性」を求めるとき、具体的に期待しているのは次のような言動でしょう。
・任された業務に対して自ら考えたうえで行動する
・言われてないことでも必要に応じて率先的に行動する
・自分の意見や質問を当事者として投げかける
「正解を学ぶ」学生から「正解をつくる」社会人になるうえで、明確な意識変化が必要だと考えられるためです。
そして、主体性を重要視すること自体には何らおかしな点はありません。
しかし、それゆえに私たちがついやってしまうことが、新入社員とのすれ違いを生んでいるのです。
それは「主体性を引き出そう」とすること。
特に次の2つのことは、新入社員の主体的な行動・姿勢をかえって妨げてしまうリスクがあるかもしれません。
・「主体性が無いと『ちゃんとした社会人』になれない」と説く
・主体性を発揮するメリットを理解させる
逆効果リスク①:「主体性が無いと『ちゃんとした社会人』になれない」と説く
現場に行って困らないように……という気持ちはわかりますが、新入社員には「足を引っ張りたくない」という思いこそあれど「ちゃんとした社会人になりたい」という気持ちはありません。
(彼らの思考傾向や、その背景は次章で詳しく解説します)
主体性発揮が社会人の型であるように伝わってしまうと、新入社員側の捉え方によっては「歯車として機能してほしいんでしょ……」と心理的な距離を生むリスクがあります。
逆効果リスク②:主体性を発揮するメリットを理解させる
主体性を発揮することはこれだけのメリットがある(評価される、仕事を任される、仕事が楽しくなる など)ということを、体感演習などを通して理解させる手法は自己効力感の高い受講者には効果的に働きます。
しかし一方で、自己効力感の低い受講者には「そうは言われても、できるかどうかは別」という無力感を生む可能性があります。
そういった層へのフォローが必要というリスクを、育成側が認識しておく必要があります。
新入社員のホンネ「主体性は大切だけど、今この場では発揮したくない」
そもそも、新入社員自身は「主体性」について、どのように捉えているのでしょうか。
リ・カレントが独自に行った調査やインタビューからは、新入社員が抱いている考えが見えてきました。
「将来的なメリットや重要性は理解しているけれど、今この瞬間に主体的な行動を取ることへの不安やリスクが勝る」というものです。
彼らにとってのリスクとは、例えば「意識高い系と思われて周りから浮いてしまう」といった新入社員同士の関係性によるものもあれば、「人事・先輩の目に留まる」「仕事を任されやすくなる」といったものも。
特に後半は、育成側としては違和感があるのではないでしょうか。
彼らがこうした考えを持つに至った根底には、“一人前意識”と同調圧力が関係していると考えられます。
ポイントとなるのは、新入社員にとって「迷惑をかけないよう大人しくしている」のは生存戦略であるということ。
主体性を発揮しようとしたために何かミスをしてネガティブなレッテルを貼られてしまえば一発アウト。
だからこそ、主体性を発揮する重要性が分かっていても、リスクの方が勝ってしまうのです。
真に、新入社員が主体性を発揮できるようにしたいのであれば、この生存戦略を書き換える必要があります。
生存戦略を書き換える
新入社員の生存戦略を一言で表すなら「集団順応」です。
言われたことはきっちりとやるが、上司・先輩の目に留まらないよう余計なことはしない。
集団の中にいかに馴染むか、が行動指針となっています。
しかし、彼らが本来持つべきは近視眼的な生存戦略ではなく、長く将来を見据えたキャリア戦略です。
人生100年時代と言われる中で、社会人として経験やリソースをいかに増やすのか、を行動指針とする必要があります。
この戦略の違いを、特に導入研修の場において新入社員に伝えることが重要です。
期待をアップデートする
同時に、「新入社員が導入研修をどのように活用すればよいか」の認識もアップデートが求められるでしょう。
目立たないことを良しとする彼らにとって、研修とは「人事が万全に準備してくれたものを、覚えること」「どうしても分からないことがあれば質問する」といったものになりがちです。
そんな彼らに「主体的であれ」と大上段から提示しても、主体的でいると評価される=人事の目に留まるという意識が働いてしまうかもしれません。
彼らが認識をアップデートできるよう、
「実践し、お互いに学びを深めることが目的であり仕事である」
「皆の理解を深めるために、意図的に質問をしてほしい」 など、他者のための全体に向けた行動を促すことが効果的です。
まとめ:「あえて前に出ない」新入社員に主体性を発揮させるなら、「生存戦略のアップデート」が効果的
今回のセミナーでは、「人事と新人の不幸なすれ違い 主体性編」と題し、主体性を引き出したい人事と人の目に留まりたくない新人のすれ違いについて解説しました。
ポイントは2つ。
1.新入社員は主体性の重要性を知っているが、上司・先輩・同期の目に留まりたくないという生存戦略ゆえに「あえて発揮しない」ことを選んでいる
2.新入社員に主体的な行動を期待するなら、近視眼的な生存戦略から長期的なキャリア戦略に目を向けさせたうえで、他者のための全体に向けた行動を促すことが効果的
ぜひ、貴社の新入社員育成施策にもご活用ください。