“大人しすぎる”新人が相談上手に変わる育成設計の仕掛け&導入研修施策~22卒新人の傾向は「正解探し」と「歪んだ一人前思考」!?~
2023年入社の新人研修を企画・提案するなかで、業界や業種、企業規模を問わず非常に耳にするようになってきているのが、「自律型人材の育成」という言葉です。
背景には、経団連や経産省が出している「人材ビジョン」があるでしょう。今後、AIの台頭によって今ある仕事が代替されていくとしたときに、「仕事とは?」「働くとは?」といった価値観も変わっていくと予想されています。「お金を稼ぐ手段」としてではなく、「働くことで自分が何を得たいのか」を自分で定義していかなければならない時代を迎えるにあたって、社員の自律性に危機感を持つ経営者が増えているようです。
とはいえ、若手の段階で「何のために仕事をするのか」に明確に答えられる人は多くありません。そればかりか、新人においてはそもそも大人しく、仕事に対しても受け身な姿勢が目立つ、という声もよく伺います。
今回のセミナーでは、若手人材開発事業部 若手育成プロジェクトリーダーの鷲尾大樹より、“大人しすぎる”新人が相談上手に変わる育成設計の仕掛けや導入研修の施策についてお伝えいたしました。
目次
2022年新人傾向解説:周囲から「何か違う」と思われると“詰み”?
2022年の新人傾向は、以下の3点にまとめることができます。
- 競争・共創よりも、同調:目立ちたくない
- 「やりたいこと」よりも、「やりたくないこと」が明確に
- 誰かのためなら頑張れる:自分に自信は無いが、誰かに感謝されたい
これらの傾向を深く理解するためには、彼らの生育環境を知るとよいかもしれません。
例えば、現在2年目、2021年入社の人は、大卒想定でおそらく1997〜98年生まれ。
1998年生まれの多くは、初めて持った携帯電話がスマートフォンだといわれています。つまり、ネットやSNSがある状態で、日常的に触れながら生きてきた世代です。SNSを通して外を見ると、自分よりも成功している人やキラキラしている人などが自然と目に入るわけで、それゆえに、「まだまだ自分は足りないな」といった感覚を持ちやすい傾向にあります。
また、新入社員たちは「周りから外れたことをすると一発アウト」の世界で生きています。「自分のいないSNSグループが作られる」というような経験が普通に起こるなかで、「自分もいつかそうなるかもしれない」とどこかで恐れているため、悪目立ちを避けがちです。
新入社員は“大人しすぎる”!?
また、多くの人が口にするのは、「今の新入社員は大人しすぎる」ということです。
「実際に私自身が研修で新入社員の方々と接する中でも、自発的な言動が少ないと感じています」と鷲尾講師は言います。
しかし、彼ら新入社員は、元来大人しいわけではありません。
今の大学生たちと話していても、「その会社を選ぶ理由」や「社会に出てしたいこと」をおぼろげながら持っており、情報収集をして様々な選択肢のなかから、自分が働く会社を選んでいるのです。
では、人事や先輩・上司から「大人しすぎる」との声が上がるのはなぜでしょうか。
生存戦略|「周りと違う」と思われると“詰み”
人は、既存のコミュニティに入っていくときに「目立たない」「同調する」といった行動を選択しがちです。これは新入社員に限った話ではなく、周りと異なる行動をとって「何か違う」と思われないことが大事なのです。
特に、SNSでネガティブな情報を共有されてしまう恐れがある中で育ってきたZ世代では、「周りと違う」と思われてしまえば「詰み」。
こうした、既存コミュニティに適応するための生存戦略が、“大人しさ”に繋がっているのです。
課題の分析:「正解探し」と「歪んだ一人前思考」
次に、育成部門はどんなことを実施していく必要があるのかを分析していきます。
「報連相ができない」の正体とは
ご相談の中でも多いのが、「報告・連絡・相談ができない新入社員が多い」というものです。だからと言って、研修で報連相のパートを長くしたところで、改善は期待できません。
というのも、彼らは報連相の
・仕方がわからない
・経験がない
・必要性を理解していない
わけではないのです。
「今じゃなくていいかな」「怒られたくない」など無用な気を遣ってしまい、相談や報告ができていないと考えられます。
これは、「組織社会化が不十分」な状態です。
組織社会化とは:4つのポイントと、新入社員が抱えている2つの誤解
人が新しい組織に対して適応・順応するプロセスのことを「組織社会化」といいます。
これには、4つのポイントがあるといわれています。
① 自身の役割や期待を理解しているか?
② 既存メンバーとの関係性があるか?
③ 組織内で必要な知識・技術を持っているか?自分で認識できているか?
④ 組織の文化や習慣を理解しているか?
このような組織社会化対し、多くの新入社員が抱えている誤解は以下の2つです。
- 正解通りにやらなくてはいけない
- 一人だけでできるようにならなくてはいけない
新入社員から、「これで合っていますか?」「これで大丈夫ですか?」と聞かれた経験はありませんか?
いわゆる、“正解探し”です。
まだまだ自分たちは「子ども」で、先輩や上司が「大人」、会社は「完璧な組織」というのが、彼らの持っているひとつの誤解です。
また新入社員は、「早く一人でできるようにならなければ」という“歪んだ一人前思想”も持ち合わせています。これは自信がないことの裏返しであり、「ひとりで」「ミスなく」「完遂」できて、はじめて一人前だという誤解があるのです。
必要なのは、“余白”を創ること
ではこれらを、育成体系や導入研修にどのように反映すればよいのでしょうか。
主体性を引き出し、誤解を解く“余白創り”
新入社員の主体性を引き出すポイントはひとつ、「余白を創って任せてみる」ことです。
私たちは、仕事の一環として研修を企画します。目標に到達するための「仕掛け」を用意し、何回やっても、誰がやってもうまくいくだけの準備をしなければなりません。
そこには、“余白”は基本的にないはずです。
しかし、そういった余白のなさが、新入社員たちを「学習者(主体者)」ではなく「生徒」にしてしまっているかもしれません。
導入研修コンセプト|自分のための一年間にしよう
私たちは、「ちゃんとした社会人になるためにこれを学習しなさい」ではなく、「長い社会人人生のよいスタートを切るための大事な一年にしていこう」というスタンスをとっています。
主に伝える項目は、以下の3つです。
- いろんなことをやってみよう
- いろんな人に関わってみよう
- 自己決定していこう
企画・講師に必要なスタンス
また、講師のスタンスはこれまで以上に重要な要素となります。
「新入社員の鼻をへし折ってください」とのご依頼をいただくことも少なくありませんが、今の新入社員達には逆効果でしょう。
「ちゃんとした社会人になれないぞ」と鼻をへし折ろうとすると、彼らは講師から一歩引いたスタンスで研修に臨むようになります。なぜなら彼らは導入研修を通して「自分らしいキャリアを歩める会社かどうか」を知りたがっており、ちゃんとした社会人との価値観に重きを置いていないためです。
ビジネスマナーひとつをとっても、「社会人として必要」だからではなく、「マナーができておらず不当な評価を受けるような事態は避けたいので」学習していきましょう、といったメッセージが必要です。
まとめ
上述したように、“大人しすぎる”と誤解されがちな新入社員ですが、元来大人しいわけではありません。彼らの能動性や主体性を引き出すためには、今の若者たちが育ってきた環境やそこから生まれる価値観、考え方に寄り添うことが大切です。
ぜひ、組織社会化の促進や研修の余白などを取り入れながら、育成設計を進めてみてください。