ヒューマンキャピタル2019レポート JT葛城様

アドラー流1on1ミーティングで社内を活性化~「勇気づけ」をキーワードに取り組むJT九州支社の事例~|ヒューマンキャピタル2019 セミナーレポート

2019.10.17

JT九州支社が始めたアドラー流1on1
「勇気づけ」で新たなチャレンジを生み出す方法とは?

HCP2019 JT葛城様、小倉講師、リ・カレント石橋

(登壇者)
葛城 憲治様(日本たばこ産業 九州支社 営業企画部 戦略企画担当次長)
小倉 広講師(小倉広事務所 代表取締役社長)
石橋 真 (リ・カレント 代表取締役)

日本たばこ産業株式会社(JT)九州支社は事業環境が急速に変化するなか、組織を活性化し、新たなムーブメントを自ら生み出すため、現場のチャレンジ精神を高める研修施策に取り組んでいます。そのベースとなっているのがアドラー心理学に基づいた1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングです。これはいわゆる1on1が目標管理になりがちなコーチング型ではなく、カウンセリング型の1on1として、上司と部下の間で対話をすることを通じて、管理職が自分自身と部下の「勇気づけ」を行い、部下の自信と心理的安全性を醸成し、新たな挑戦意欲を高めることを狙いとしています。

本講演では、前半に同支社営業企画部次長の葛城憲治氏に具体的な取り組み内容やその成果についてご紹介いただき、後半は葛城氏のほか、アドラー流1on1ミーティングを提唱する株式会社小倉事務所代表取締役社長の小倉広氏も加わった座談会を行い、その実践や効用について掘り下げました。

アドラー流1on1ミーティングで、
強みを最大化し、新たなムーブメントを目指す

JT九州支社の葛城氏は同支社が実践している1on1ミーティングの導入に至った背景として、事業環境の急速な変化を挙げました。具体的には、健康増進法の改正、広告規制などが厳しくなる見通しや、たばこ増税の影響、加熱式たばこの伸長などめまぐるしい商品変化を指摘。「たばこ業界は他産業に比べ先が読みやすい環境で私たちの会社は成長してきた」と述べたうえで、今後、たばこ業界も変化が激しくなっていくなかで、「変化に対応し、自分たちで変化を起こす」ために、まず私たちの強みを考えていく必要性を認識したといいます。

葛城氏:
「私たちの強みの一つとして、仲間を大切にする社内風土があります。お節介と思われかねないほど、困っている人がいるとすぐ助ける。
 部下を思いやる管理職も多く、お客様への誠実な姿勢を持った、多様な人財に恵まれている点が私たちの強みです」

「半面、自分たちで何か新しいものをつくっていくときには失敗がつきものではありますが、”失敗を嫌う”風土が強いと考えています」

1on1ミーティング導入のきっかけは、こうした同支社の強みを最大限発揮し、社員が思い切りチャレンジできるようにするにはどのような環境整備ができるのかを考えた結果、その一環として新しい習慣をつくることが必要だと思い至ったとのこと。

そのためにも葛城氏は継続的に続く施策の導入とともに、社員の意識や行動を促すためのコミュニケーションが重要になると判断し、コミュニケーションの施策を検討するなかで、組織人事コンサルタントでアドラー心理学にも精通した小倉氏がJT九州支社での講演で語った「勇気づけ」を、同支社のマーケティングビジネスにもつなげられないかと考えました。

小倉氏は、ティーチングやコーチングではなく、カウンセリング型の1on1を推奨しています。これは、部下の目標達成を促すコーチングとは異なり、「勇気づけ」と「傾聴」のスキルを用いて部下の全人格的成長を図るのが目的です。

小倉氏が提唱するアドラー流1on1との出会い

葛城氏は、小倉氏に会って同氏流の1on1ミーティングについて説明を受け、「自分たちが抱えている課題と現場の環境にすごく合っていて、強みを生かせる」と感じたと振り返ります。

JT九州支社は1on1ミーティングを導入することによって、

①マネジメントがメンバーを「勇気づけ」する

②メンバーに対して自信と心理的安全性を醸成する

③現場から新たなチャレンジを促進するムーブメントを生んでいく

以上の3点を目指しました。

同支社は1on1ミーティングの導入にあたって、2019年の1~3月を「研修期間」および「練習期間」と位置づけ、小倉氏による研修をマネジャー向けに月に1回、3ヵ月連続で行った上で、研修で学んだ内容を実践し、定着を図りました。

研修では参加者のアンケートも実施し、結果を適宜フィードバック。さらに、4~6月は「実施期間」とし、マネジメントに権限移譲する形で、全メンバーを対象とするミーティングを2週間に1回、30分程度行ったとのこと。

葛城氏は小倉氏による研修で一番良かった点として、「スキル、メソッド、マインドの中のスキルを教えてもらったこと」を挙げました。

葛城氏:
「コミュニケーションはどうしても感覚的になるため、ある程度フレームワークを持つことで汎用性の高いものになりました。さらに、メンバーをどのような気持ちにさせたら良いのかについて、ロールプレイングを通じてマネジャーがイメージできたことも良かった点です」

JT九州支社の1on1ミーティングの実践は、支社長がラインマネジメントである支店長7人に対して行い、各支店長はさらに管下メンバー(5~16人)に対して実施。また、営業企画部長がスタッフマネジメントである5人の部長/チームリーダーとミーティングし、さらにそれぞれの部長/チームリーダーが管下メンバー(3~15人)と実施します。単位組織別の進め方や回数など運用については原則、所属長に権限移譲しているそうです。

1on1の研修を通じて得た考え方が日常会話に溶け込むように

1on1ミーティングについて葛城氏は、「おおむね順調な滑り出し」とみています。ミーティングを体験したメンバーからは「いままでは上司に遠慮していたから助かる」「話を聞いてもらえると素直にうれしい」といった前向きな声があり、マネジメントからも「部下を知っているつもりだと気づいた」「新たな一面に気づいた」といった反応があったとのこと。

社内で研修を通じて得た考え方が日常会話の中に溶け込んで、「手応えを感じている」と葛城氏は語ります。

葛城氏:
「1on1ミーティングがメンバーとマネジメントの”自立的な気づきと成長の機会”になっていることは評価に足る結果だと感じています。

今後の取り組みを加速させる次の一手として、自立性を担保しつつ形骸化させないための運営方法を、PDCAサイクルを回しながら検討しています」

 

ヒューマンキャピタル2019 JT九州支社 アドラー流1on1ミーティング小倉講師セミナーレポート

1on1ミーティングにJT流のチューニングをして、さらなる効果を

今後の1on1ミーティングの運営について、JT九州支社流に「チューニングしていきたい」と葛城氏は話しました。期待される点として葛城氏が挙げたのは、「組織力の強化」「成長支援」「イノベーション」の3つです。

「組織力の強化」:上司と部下の関係の質とエンゲージメントを向上させるとともに、あらゆる面でスピードと品質を高め、強みを伸ばす

「成長支援」:経験学習サイクルによって、学びと成長の機会を提供し、可能性を高め、チャレンジを後押しする

「イノベーション」:1on1ミーティングを実施している本来目的を忘れないこと。その上で、現場ならではの新しい取り組みを進め、お客様への提供価値を高めていく

一方、葛城氏個人として1on1ミーティングを通じて実現したいこととして、仲間および会社の「want/will」を掲げました。すなわち、メンバーの活躍を後押しするとともに、JTが経営理念やビジョンなどを追求し社会に必要とされる存在となることです。さらに、ご自身の自己実現の中で会社に対する愛情を深め、ご自身とご家族の「want/will」も追い求めたいと話しました。

アドラー流1on1とは何か──小倉講師が解説する実践と効用

葛城氏の講演後、リ・カレント代表取締役の石橋が進行役となり、座談会形式で葛城氏と小倉氏にお話を伺いました。

──石橋:まずは小倉さんに質問です。小倉さんが提唱するアドラー流1on1ミーティングは一般的なものとどういった違いがあるのでしょうか。

小倉氏:
「一般的に1on1はビジネスとの親和性が高いコーチングの文脈で使われることが多いですね。その上で、私はあえてカウンセリング型の1on1ミーティングを勧めています」

「コーチングの目的は部下の目標達成の支援です。これに対して、カウンセリングの型の1on1は”部下の人格的成長を支援すること”が目的であり、そのためには信頼関係を構築していくことが大事になります」

ただ、ビジネスでは常に成果が問われます。この点との兼ね合いについて石橋から重ねて問われると、小倉氏は1on1を実践している企業はYahoo!やGoogleといった外資のITというイメージが強いとした上で、「社風やコミュニケーションは、外資のIT企業と日本企業ではかなり違う」と指摘。

「日本の企業、とくにコミュニケーションが上意下達であるなど、縦の関係が強い企業では、カウンセリング型の方が安心だと助言している」と述べました。

小倉氏によれば、日本企業では、もともとコーチング的なコミュニケーションが多いため、コーチング型の1on1では対話の内容が日常業務で交わす会話と同じようになってしまう。結果として、1on1の場でも日々の仕事や目標達成の話ばかりになってしまい、本来の1on1ではない、目標管理と同じ内容になってしまう懸念があるとのことです。

──石橋:1on1を適切に実施するためにはどうすればよいのでしょうか。

小倉氏:
「1on1の『対話』と業務上の『会話』が混同されないようにきちんと線引きをすることが大切です。1on1では”関係構築と信頼づくり、部下の成長支援”に集中し、日常と全然違う関係にすることですね。

部下から『いつもと違う』『優しすぎて気持ち悪い』と思われるぐらいでないと、中途半端な対応では普通の業務と変わらない対話になってしまいます」

そうした環境では1on1は根付かないとして、カウンセリング型のアプローチを勧めているとの説明を受け、葛城氏も「世の中が多様化し、社内にも多様性があるなかで、いろいろな方法を取らなければいけない」と指摘。

「新しい価値やイノベーションを起こすためには、さまざまな取り組みが必要だ」として、「部下が何を抱えていてどんなことをやりたいのか、相手を知って、部下との間のセーフティーネットをしっかり構築する、そういう環境をつくることが業績を達成するためにも近道ではないか」と語りました。

相手の話を傾聴する・シカゴスタイルのアクティブリスニング

ここで、石橋から小倉氏が推奨するシカゴスタイルのアクティブリスニングの紹介がありました。これは10分間、聞き役は一言も発しないで相手を観察しながら、相手の話をただただ聞くという手法です。実際に体験した石橋は、相手に黙って聞いてもらっているだけで、自分でも話が止まらないことに驚いたと言います。

HCP2019 アドラー流1on1 JT葛城様、小倉講師、石橋パネルディスカッション

小倉氏はこの点について「聞き役がちゃんと聞いているから、話が続く」と指摘。「『話が続かないだろう』と思うのは、相手との関係ができておらず、本当に話を聞いてくれているのか不安を感じるから」であり、相手との関係ができていれば話す上での躊躇がなくなると指摘します。

葛城氏:
「メンバーが話を聞いてもらいたいと思っていることはアンケート結果などからも分かります。1on1ではメンバーが8割以上話せる状態にしたいと考え、上司側がメンバーに相応の話す時間を実際に与えたと思っていても、実施後のアンケートを見ると、部下であるメンバーが話し足りないと感じていることが窺えました」

──石橋:研修プログラムを見ると、まずスキルの習得から入り、メソッド、マインドセットへと移っています。なぜこうした流れを採用したのでしょうか。

小倉氏:
「研修では1回目を実施後、1ヵ月あけて2回目を行い、さらに1ヵ月あけて3回目というように、各研修の間に1ヵ月ずつ時間を取るのが効果的です。それぞれの研修の間にある1ヵ月のなかで自主トレーニングを行い、1on1のロールプレイングを宿題としてやってもらいます。1on1の自主トレーニングを実施するためには、まずスキルを学ぶことが必要になるのです」

「マインドセットが分かっただけでは、1on1の自主トレーニングを自ら実施するのは難しい。そこで、”スキルを学んで即使う”という流れで研修を設計しています。プロセスの最後にシカゴスタイルの意図や効果を種明かしする形になっています」

HCP2019 アドラー流1on1 小倉講師1on1導入研修にあたって

©2019 OGURA HIROSHI OFFICE ,Inc.

葛城氏も、実際の職場での受講者の様子から「スキルから入る方がいい。最初にマインドセットの話をしてしまうと、マネジメント層の受講者は『そんなことはわかっているよ』と思って実践しなくなってしまう恐れがある」と共感。

スキルから入ると、新たな知識を得たうえに、最後にマインドセットを伝えることで、それまでに研修で実施した内容が概念化され、「スキルの必要性についての納得感がさらに増す」と話しました。

これに関連して小倉氏は、ロールプレイングではマネジャーが「部下役」として部下の立場を体験することが大切だと指摘。「余裕があれば、モデレーターとかオブザーバーとか、第三者の視点をつくる。これは非常に勉強になる」と述べました。

同氏によると、自分だけの視点でなく、いろんな視点に立つことが重要であり、アドラー心理学ではコモンセンス(共通視点)と呼ばれていると言います。

──石橋:一方で私から問題提起したいのですが、マネジャーがメンバーの声に耳を傾けられずに評価権限をちらつかせるなどの行動を取るのは、「自分の中に不安や恐れがあるから」ではないでしょうか。

小倉氏:
「上司が1on1で部下の話を十分に聞かないのは”自信がないから”でしょう。自己肯定感が低い上司は、自信がないから頑張るのですが、ある意味どっしり構えて、すごい上司だと思われなくてもいいから、答えを言わずにじっと部下の成長を待つ。こういうことができるといいですね」

講演の最後に小倉氏はJTの取り組みが九州支社で始まったことに触れ、次のように話しました。

小倉氏:
「今回のJT九州支社様の取り組みは、草の根から1on1ミーティング導入を始める、とてもいいパターンだと感じています。本社から始めるといろいろな決裁が必要で時間がかかりますが、地方や一事業部門から始めることによって決裁にも時間がかからず、スムーズに取り組みやすいのではないでしょうか」

企業の1on1ミーティングでは、目標達成を支援するコーチング型では、ともすると質問のトーンが詰問的になる、対話の中身が日常業務の中で行われているやりとりの延長線に留まるなどの懸念があります。

これに対し、小倉氏が提唱するカウンセリング型の1on1は、全人格的成長の支援を目的とし、必要なスキルも主に「傾聴」と「勇気づけ」になります。

このアドラー流1on1を実施しているJT九州支社の取り組みはまだ始まったばかりですが、担当者である葛城様からは手応えを実感していただいている様子が、講演でのお話から伝わって参りました。

・コーチング手法だけでは、部下の本音は引き出せない…
・キャリア面談や評価面談は定期的に行うが、結局、業務の話に偏りがち…
・そもそも忙しい中、用事もないのに部下とじっくり対話なんてできない!

こうしたお悩みの声が社員から上がっている人事・人材育成ご担当者の皆様は、ぜひ、リ・カレントまでご相談ください。

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