2024.01.5

部下を叱れない管理職の「指導恐怖バイアス」解消法

管理職の悩みの質が徐々に変わってきています。

“指導するのが怖い”。
こんな意外なフレーズを耳にすることが多くなってきました。

年々成長意欲が高まっている若手たちは「もっとちゃんと指導してほしい」と望んでいるのに……。

でも、「怖い」と思うのは無理もないこと。
“やられてきた指導”が正解でないばかりか、ハラスメントとして禁止されかねない時代です。

管理職の65%が部下を叱ったことが無い現代。
皆様の職場にも必ず潜んでいる「指導恐怖バイアス」を解消するためのヒントを、本記事でお持ち帰りください。

部下を叱れない管理職の「指導恐怖バイアス」

管理職が、部下を叱るのを怖がるのはどういった理由でしょうか。
弊社リ・カレントが管理職を対象に行った研修においては、このような意見がよく聞かれます。

  • 自分が受けた指導をその通りにやると、今の若手社員にはパワハラと思われる
  • 指導によって休職・退職を招くのではないかと怖い
  • 生温い雰囲気に喝入れしたいが、部下が委縮して発言がなくなると困る

このように部下、特に若手社員に対する指導に及び腰になるがあまり、管理職自身のマネジメント・エフィカシー(自己効力感)を持てない状況が生まれやすくなっています。

さらに昨今、管理職に急速にインプットされているのが「心理的安全性」や「コンプライアンス順守」です。
いずれも大変重要な概念ですが、これらを意識しすぎることで「指導恐怖バイアス」が生み出されていると考えられます。

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マネジメント・エフィカシー(自己効力感)低下が招く、管理職のプレイヤー化

自身のマネジメントに対する「自己効力感」が低下した管理職は、部下に仕事を任せずに自身がプレイング業務に傾倒するといった行動をとりがちです。
過去に達成感を得た経験をなぞり、「自己肯定感」を高めることでバランスを取ろうとするのです。

レベルの高い仕事は自身で抱え込み、管理職ばかりが忙しく部下に仕事が任されない。
こうした状態が続くと、部下側の昇進意欲などにも影響が出てきます。

若手社員の意識:成長実感なき職場が転職意欲を増加させる

では、指導される側の若手社員はどのような意識を持っているのでしょうか。

新型コロナウイルスの流行など、不測の事態が続く時代となった今。キャリアに対する考え方も変化しています。

成功の指標は役職・報酬といった外的なものから自己実現・社会貢献などの内的な要素へと変わり、終身雇用を前提としないキャリアプランが一般的となりつつあります。
それゆえ、「どんな状況でも自己実現ができる」ことを優先目標として自身の市場価値を高める「自己成長」がキーワードとなっています。

自身の成長につながるなら「叱られたい」若手社員

Job総研による『2023年 上司と部下の意識調査』を見ると、「叱られた経験なし」20代が75.2%で最多回答に対し「叱られたい」の最多回答も20代で23.8%。

叱られたくない、叱られるとモチベーションが下がるとの回答が多数派ではありますが、叱られたい理由は「自身の成長につながる」が68.2%で最多回答。

Job総研『2023年 上司と部下の意識調査』

自身の成長のためには叱られる・指導されることが必要だと感じている20代社員が少なからず存在することが分かります。

また、彼らのコメントを見てみると、

  • 上司の感情で「怒られる」のとは違うので、しっかり見てくれているという愛を感じる(20代)
  • 入社してから一度も叱られた経験がないので、自分の意見は言いやすいですが、経験してこられた上司の観点からダメ出しは欲しい(20代)

など、適切な指導であれば、むしろ歓迎している様子さえ見えます。

【Job総研『2023年 上司と部下の意識調査』調査概要】
調査対象者    :全国 / 男女 / 20~50代
調査条件     :1年以内~10年以上勤務している社会人
20人~1000人以上規模の会社に所属
調査期間     :2022年12月28日~2023年1月4日
有効回答数    :682人
調査方法     :インターネット調査
https://job-q.me/articles/14748

働き方改革や会社・管理職側の意識の変化によって不満を感じる要因は減った一方で、自己成長に対して高い意欲を持つ若手社員は適切な指導が行われないことで「この仕事/この会社で働きたい」と感じる動機づけ要因も減少している可能性があります。

管理職が指導できるようになることは業務面だけでなく、若手社員の離職防止にも関わるのだと言えます。

「叱れない」管理職が適切な指導を身につける2つのポイント

では、指導恐怖バイアスによって部下を叱れない管理職が、適切に指導を行える自信をつけるには、何が必要となるでしょうか。

解決策はシンプル。ゆえに多くの人が「できて当然」と軽視している“言うべきことを正しく伝える (ティーチング・フィードバック)原理原則”を身に着けることです。

大元となるのは次の2つです。

  • マネジメントの基本スタンス「ピープル・ファースト」
  • ティーチング/コーチングの使い分け

マネジメントの基本スタンス「ピープル・ファースト」

ピープル・ファーストとは、チームマネジメントの焦点を個々のメンバーに当て、彼らの成長や満足度を優先事項とするマネジメントスタンスです。

ビジネス環境では、しばしばお客様や業績を追求することが最優先となりがちですが、この過程でメンバーへの関心が薄れてしまうと、チームのエンゲージメントが低下します。

管理職は、バランス感覚を持ち、自己内省を欠かさずにチームメンバーと向き合うことが重要です。
お金や業績だけでなく、人や情報への適切な優先順位づけが求められます。

マネジメントにおいてピープル・ファーストの理念を実践するためには、チームメンバーとのコミュニケーションを深め、彼らのニーズや成長をよく知ることでより良い結果が生まれます。

ティーチング/コーチングの使い分け

特に経験の浅い若手社員に対する指導において欠かせないのが、ティーチングとコーチングの使い分けです。
管理職の中には「若手社員にはティーチングだけで十分」と考える方もいますが、実際にはコーチングも欠かせません。

コーチングは自己決定感を促進し、育成を助ける方法です。

一般的に、自己決定感が高いほど仕事に対するコミットメントは向上します。
そのため、自己成長意欲の高い若手社員に対する効果的な育成には、答えを教えて導くティーチングだけではなく、彼らの答えを引き出して自己決定を促すコーチングを使い分けることが重要です。

では、どのようにこの二つを使い分けると良いのでしょうか。

リ・カレントが提供する研修では、経験の浅い人にはティーチングを主とした指導を行い、仕事をおよそ自己完結できる段階に来たらコーチングを用いるのが適しているとお伝えしています。

つまり、適切な指導を行うには「相手が今どんな状態にあるのか」を知ったうえで、相手に合わせた指導方法を選ぶことになります。

指導対象の状態を見極めには、先述した「ピープル・ファースト」の基本スタンスが活きてくるでしょう。

まとめ:「成長を望む若手」と「指導恐怖バイアスを持つ上司」のギャップを解消する

本記事では、管理職の指導恐怖バイアスを解き、「過剰なコンプラ意識によるぬるい・ゆるいマネジメント」から解放する2つのポイントをご紹介しました。

管理職が職場の心理的安全性やコンプライアンス順守を強く意識するがあまり、生まれてしまう「指導恐怖バイアス」。
部下、特に若手社員に対する指導に及び腰になるがあまり、管理職自身のマネジメント・エフィカシー(自己効力感)を持てない状況が生まれやすくなっています。

一方で指導される側、特に若手社員は自己成長への意欲が高く、適切な指導が彼らの仕事に対する意欲を高める要因になることも分かりました。

記事の後半では、管理職が適切な指導を身につけるための2つのポイントを解説しました。

  • マネジメントの基本スタンス「ピープル・ファースト」
  • ティーチング/コーチングの使い分け

管理職の65%が部下を叱ったことが無い時代。

皆様の職場にも必ず潜んでいる「指導恐怖バイアス」を解消するためのヒントを、本記事でお持ち帰りください。

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