2020.07.10

イノベーションを創造する人材と組織 ~人事・総務がつくる未来創造型事業戦略~

イノベーションは、経営陣や一部の新規事業担当だけが責任を負うものと思っていませんか?真の変革は、社員一人ひとりが環境の変化を自覚し、自社のあるべき姿を言語化することから始まります。イノベーションが成功する組織や人材育成の仕組みづくりは人事・総務こそが仕掛けられるのではないでしょうか。

今回のセミナーでは、数々のイノベーションを支援し、事業創造を行ってきた河瀬氏、竹林氏、及び研修で職場の意識改革を行ってきたリ・カレント堀井の3名で、人事・総務がつくるイノベーションについて議論しました。

セミナー当日の講演資料の一部をこちらよりダウンロードいただけます。

河瀬氏第一部:
MK&Associates 代表 
河瀬 誠(かわせ まこと)氏
立命館大学・経営管理研究科(MBA) 客員教授(国際経営戦略担当)
早稲田大学日本橋校(WASEDA NEO)プログラム・プロデューサー
情報経営イノベーション専門職大学・客員教授
東京大学工学部計数工学科(数理工学専攻)卒業
ボストン大学経営大学院 理学修士(MS・情報システム)および経営学修士(MBA)修了
王子製紙(株)にて 、製造プラントの設計・建設、また生産管理システムの構築を担当
A.T.カーニーにて、主に通信と金融業に対して、新規事業戦略策定などを担当
                   ソフトバンクにて、放送事業持株会社の企画部長として、新規事業・買収などを担当
                   コンサルティング会社 ICMG にて、経営人材の育成・新規事業創造などを担当

1. イノベーションと経営

そもそも、なぜイノベーションは必要なのでしょうか?それは、事業にライフサイクルがあり、事業創出ののち、成長・成熟を経て、将来的に衰退することは避けられず、イノベーションにより新しい事業創出を行わなければ、企業の成長力が衰えてしまうからです。

「親が稼いでいる間に、『問題児』を育てなければいけません」

プロダクト・ポートフォリオの4象限で分類すると、新規事業は「問題児」、成長事業は「スター」、成熟事業は「金のなる木」、衰退事業は「負け犬」。成熟事業が売上を作っている間に、問題児である新規事業に投資をするべきです。

従来から日本企業が行っている「カイゼン(持続的イノベーション)」も必要ですが、カイゼンのみを続けても事業のライフサイクルや事業環境の変化に伴い緩やかに衰退してしまいます。企業が成長力・競争力を持ち続けるためには、新規事業(破壊的イノベーション)を立ち上げ、成功させていくことが重要です。

事業ポートフォリオの変化のきっかけは、事業環境の変化によって訪れます。変化を見極め新規事業創造・事業変革を行うことは、企業経営戦略の根幹であるといえます。

2. DXの組織へのインパクト

イノベーションの手段としてよくとりあげられるのが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。既存の業務をデジタルに置き換えることがDXではなく、プロセスの必要性そのものを問い、事業変革を起こすことがDXです。

パターン化できる業務については機械化と相性がよく、過去も農業から頭脳労働まで様々な業務が機会に代替されてきました。

最近では人事業務でパターン化可能な業務を機械化する「HRTech」の事例も多く見られるようになり、ソフトバンク社が新卒採用のエントリーシート選考にAIを導入したことでも話題になりました。パターン化された業務については、機械のほうが人間よりも早く正確に、披露することなく何時間でも作業できるため適しています。

「職場のプラットフォーム化」を行ったあるIT企業では、社員の全行動がデータに記録された結果、次の2つの仕事を切り分けることで大幅な業務時間削減に成功したといいます。

①パターン化できる「業務」

②創造性が必要な「(本当の)仕事」

就業時間の大部分を占めていたのは①の「業務」であり、これを機械化したことで社員がより創造的な仕事に時間を費やすことができ、さらに週休3日制の導入に成功しました。

この事例から分かることは、「創造性を必要としない仕事は、機械に代替される」ということです。つまり、これからは創造性のみが問われる時代であり、社員が「真剣に遊べる」環境を整える組織が勝ち残ると言えるのではないでしょうか。

3. イノベーションと戦略

組織においてイノベーションの芽を育てるために必要な考え方があります。それは、新規事業が「問題児」であるということです。

問題児は、子供と同じです。
 ・稼がない(ほとんどが赤字)
 ・育たない(成功確率が低い)
 ・新規事業は、短期の財務的には愚か
 ・新規事業は、「子ども」の事業
これらの特徴から、組織は新規事業を利益を出すための事業運営ではなく実験だと考えることが重要だといえます。

企業の売上を支える既存事業のオペレーション人材と新規事業に取り組むイノベーション人材は衝突しがちです。企業の未来に向けた「実験である」という視点をもち、すぐ先の未来の世界を想定した自社のあるべき姿を描くことが重要なのではないでしょうか。

竹林氏第二部:
オムロン株式会社 経営基幹職
竹林 一(たけばやし はじめ)氏
一般社団法人 データ流通推進協議会発起人理事
一般社団法人 官民データ活用共通プラットホーム協議会外部理事
経団連 サプライチェーン委員会委員、DXタスクフォース委員会委員
公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会 PLL促進会議有識者委員
京都大学経営管理大学院客員教授

1. イノベーションって何ですか?

イノベーションが必要だとよく言われますが、そもそもイノベーションとは何でしょうか。イノベーションを初めて定義した経済学者シュンペータは、経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することとイノベーションを定義しています。また、イノベーションは新しいプロダクトや事業を生み出すだけではなく、生産方法、販路、供給源、組織を「新結合」することもイノベーションであると述べています。

重要なのは、自社にとってイノベーションとは何か?を定義できることです。

コロナによって経済が大きく影響を受けましたが、コロナがなかったとしても、今までの会社の仕組みや働き方、ビジネスモデルの「賞味期限」は切れつつあり、新しい価値創造であるイノベーションが求められていました。コロナウィルスの感染拡大をきっかけに、イノベーションに対する意識ががらっと変わったといえます。

DXはイノベーションのための手段です。社会・産業・生活の在り方が劇的に変化する中で、ITを活用しビジネスモデルや組織構造、個人の意識の本質的な変化を起こすことです。これらを現場任せではなく、経営視点で行うことが重要です。

2.  イノベーションを創造する人材と育成する仕組み

新しい価値創造には、バラエティに富んだ人材が必要です。竹林氏は、「起承転結人材モデル」を提唱しています。

<起承転結人材モデル>
 起 : 0から1を仕掛ける人材
 承 : 0~1をN倍化(10、100・∞)する構造をデザインする人材
 転 : 1をN倍化する過程で効率化・リスクを最小化する人材
 結 : 最後に仕組みをきっちりオペレーションする人材
(※竹林氏のセミナー当日資料より抜粋)

起承転結の「起承」がクリエーション人材、「転結」がオペレーション人材を表現しています。ベンチャーやハッカソンの場には、アイデアにあふれた「起承」人材が多く集まりますが、「転結」人材がいなければ、アイデアが膨らむだけで戦略やプロダクトの機能設計に具体化されません。

マネジメントスタイルも、「起承」人材と「転結」人材で異なります。「転結」人材が既存事業の更なる収益化を目指すのに対し、「起承」人材は新しい価値への転換・創造を目指します。いわば「転結」人材の経営スタイルは家を支える1階部分であり、「起承」人材は先行きを眺望する2階部分です。

イノベーションの成功には、起承転結の掛け算を起こし、クリエーションが得意な「起承」人材とオペレーションが得意な「転結」人材がうまく協力することが重要です。またベンチャー・既存企業に偏在する起承転結の人材が協力するために、「起承」人材の多く所属するベンチャーと「転結」人材が多い既存企業が連携する仕組をつくることは、イノベーションのエコ・システムづくりに有用な施策であると述べています。

企業の人事にとっては、このように起承転結人材を育成し、コラボレーションできるような仕組み作りが求められているのではないでしょうか。

リ・カレント堀井講師画像

第三部:
リ・カレント株式会社 人材組織開発プロデュース部 
マネジャー 堀井 悠(ほりい ひさし)
慶應義塾大学 総合政策学部卒
スターバックスコーヒーでビジョンを中心としたチーム作りを経験し、人材開発に興味を持つ
大学在学中に音楽レーベルを立ち上げ、現在も継続
大学卒業後は大手学習塾、リクルートライフスタイルで営業職を経験
広告によって飲食店を支援する傍ら、持続的な店舗の発展に独自の評価手法を開発

1. 職場の口癖変革でイノベーションの芽をはぐくむ

職場でよく使われる「口癖」を変えることで、社員一人ひとりの意識の変化が起こります。ある研究開発機関、自動車メーカーの事例では、新規有用な挑戦やアイディアが出ない、品質低下という問題を抱えていました。2社の職場を調査したところ、「もし間違ったら、どうするのですか」「なぜ私ばかりが・・・」のように、マイナスな考えを誘う口癖が多いことが分かりました。

両社に共通していたのは、社員のスキルセットの問題ではないという点でした。そこでリ・カレントでは、「やり方」ではなく「考え方、在り方」を重視し下記の学習ポイントに絞った研修プログラムを作成しました。
・環境変化への恐れ、不安を言語化して認知する
・未来を起点とした職場での挑戦行動を設定・習慣化する

研修後、職場の口癖は大きく変化しました。「もし間違ったら、どうするのですか」は、「一緒に考えてもらえませんか」に、「なぜ私ばかりが・・・」は「~してみよう」とポジティブな提案に変わりました。

このように社員の態度を変えた研修の一部をご紹介します。

2. 環境変化を手がかりに仕事の「考え方」を言語化、認知するトレーニング

口癖がポジティブに変化した理由は、環境変化に対する職場の仕事の位置づけや、意味を言語化し、自分事として捉えることができたからです。

研修は、時代の変化・業界の変化・自社の変化・自身の変化と、マクロからミクロに落とし込むことで、徐々に自分事化できるようプログラムを構成しています。

①時代の変化

定量的・定性的両側面から、時代の変化を捉えます。定量的変化の例では、3G、4G、これから普及する5Gにおいて、データダウンロードの速度がいかに早くなったか?をクイズ形式で確認します。定性的変化の例では、消費の在り方がモノ消費→コト消費→イミ消費と変化し、付加価値を生み出せる企業・人材が求められていることを捉えます。

②業界の変化

ケーススタディ「コダックVS富士フイルム」にて、フイルム関連事業に固執したコダックと、第2の創業を宣言し化粧品・医薬品業界に参入した富士フイルムでいかに明暗が分かれたかを伝えます。ここで業界の変化を自分事化する機会として、自社に関連する業界の変化に関する解説記事を1つ取り上げ、自分の立場を示したうえで発表するというワークを行います。

③自社の変化

自社の未来を考えるワークとして、5年後の新卒採用イベントでの自社紹介プレゼン作成を行います。ワークによって、未来を描き、ビジョンを言語化することの重要さ・難しさに気づくことができます。

未来を描くポイントとなるのは、バックキャストとフォアキャスト両方の考え方を使うことです。日々の改善を繰り返すフォアキャスト思考だけでなく、ありたい姿・ビジョンからやるべきことに落とし込むバックキャスト思考をかけ合わせることで理想の姿に早く近づくことができます。日々の職場の口癖は、ビジョンに近づくための言葉なのか、内省を通して気づきを得ます。

④自身の変化

人を動かし、変化させるのは「Wny(想い、情動)」です。自分の「Why」を言語化することで、自身がこれからどう変化していきたいかを落とし込みます。

研修では、「Will×Skill対話シート」というワークシートを用い、Will(価値観、好きなこと)、Skill(職能、できること)を言語化したうえで、自分がとるべき仕事(チャレンジ)を考えます。チャレンジを行うために行うべき努力、つくるべき習慣まで分解し、メンバーと上司が共有します。すると、自然と「一緒に~しませんか」という言葉が使われるようになります。

3. これからの社会に求められるリーダー像

リーダーシップを構成する要素をあらわすPM理論で説明されるP:Performance(目標達成能力)とM:Maintenance(メンバー間の人間関係をケアする能力)に加え、これからのリーダーには、C:Change(仕事に変革を生み出す)、Challenge(困難に挑戦する)、Create(新しい価値を作る)の能力が求められるのではと提唱しています。変革促進へのアプローチになるC機能をはたすリーダーとして、職場の口癖変革からイノベーション人材を育ててみてはいかがでしょうか。

セミナー当日の講演資料の一部をこちらよりダウンロードいただけます。

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