Z世代の解体新書

Z世代の解体新書
  

最終更新日: 2023年12月15日

イントロダクション

いまの時代はVUCAと呼ばれ、将来の予測は難しく、また社会の変化も激しく複雑になっています。
コロナを機にリモートワークの導入が大きく進み、それにより “ニューノーマル”という言葉のように組織も個人も当たり前が変わったことはまさにその一例と言えるでしょう。

併せて組織のあり方も変わってきており、高度経済成長期のようなトップダウン型の組織から、現場の視点を経営に反映させたり、若手や担当者レベルからの意見やアイディアを活かしたりするような「ボトムアップ型」組織へと変わってきています。
また先に挙げたVUCA時代に対応・適応すべく、年次や職種を超えて多くの人や組織がつながり、価値を創造する「ネットワーク型組織」を目指す企業も増えてきました。

このように社会や組織が変わる一方で、働く個人も変わってきています。
人生100年時代と叫ばれ、健康寿命の延伸や社会保障制度の変容もあり、私たちは「80歳まで働く」ことが求められています。
いままで当たり前にあった終身雇用モデルも、いまでは多くの人が転職やジョブチェンジを前提としたキャリア形成をしています。
社会も、組織も、個人もこの数年で大きく変わってきており、まさに「多様化」の時代と言えます。

新人・若手に対する理解を「多面的に持つ」

その中でいま、多くの企業が目指すものに「自律型人材の育成」があります。
複確実性の高く変化の激しい社会にありながら、経営からの具体的な指針や指示なく「自分の頭で考え行動できる」自律性の高い人材を増やしていきたいという方針は必然の流れと言えるでしょう。

しかし自律型人材の育成を進めていくうえでネックになっているのが「Z世代育成の難化」です。
Z世代とは一般に1990年代後半以降生まれの世代を指し、多くの企業で新人・若手社員として現場業務の中心になっています。
つまり彼らをどのようにマネジメントし、育てていくかが“いま”の成果にも直結し、また管理職候補として“将来”の経営にもインパクトがある、まさに急務の課題となっています。

読者のみなさんも「Z世代育成の難化」について、組織よりも個、将来よりもいま、仕事よりもプライベート、そのような“私たちと違う”価値観を持つZ世代に対し、自律性を高めるような研修や指導を行っても「響かない」と感じることが多いと思います。
自律型人材の育成を進めたい企業・経営・人事と、仕事で“がんばりすぎたくない”Z世代。
この気持ちのギャップを埋めて彼らの自律性を高めるためには、彼らの“価値観”をよく知り、私たち育成側からの伝え方・教え方・関わり方をアップデートさせる必要があると考えます。

本資料ではZ世代が持つ、仕事にまつわる考え方を「キャリア」「上司・先輩」「自分」の3つの観点から解説し、なぜそのような考えを持つのか、そういった考えによって現場や組織にどういった影響があるかを記しています。
後半にはそんなZ世代の彼らへの育成施策に対する重点すべきポイントを解説しています。
本資料を通してみなさまと一緒にZ世代育成をより効果的なものにできればと考えております。

Z世代を紐解く3つの観点
鷲尾 大樹
監修者
鷲尾 大樹
略歴
リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部

監修者詳細

1.キャリア編

特徴的な思考:いまの仕事は“なんか違う”

自律型人材の育成にあたり「キャリア」を考えることは外せません。
また新人・若手社員のうちからキャリア設計を行うことは日々の業務のモチベーションや自社に対するエンゲージメントを高めることもあり、早期からキャリア研修・教育を行う企業が増えてきました。

しかし新人・若手社員にキャリア研修を行うと必ずと言っていいほど「イメージが湧かない」という声とともに「◯◯(いまの担当業務)をできるようになりたい」といった、綺麗で同じような言葉がアウトプットされます。
では彼らがいまの業務に対し充実感や満足感を持っているかというと、そうでもない様子です。

キャリア面談や1on1、最悪のケースでは退職時のヒアリングにおいて「いまの仕事・職場、なんか違うんですよねぇ」と不安・不満まがいの声が聞こえてきます。
彼らの感覚としては「やりたいことは明確にない(イメージできていない)」が「いまの仕事が『やりたいこと』ではない」というものから「なんか違う」につながっていると言えるでしょう。

「いまの仕事はなんか違う」と離職していくZ世代

思考背景:選択肢が多くて決められない、しかも遠回りもしたくない

キャリア研修を実施しても「イメージが湧かない」という言葉が出たり、いまの仕事や会社に対して「なんか違う」と思ったり、Z世代がはっきりした回答を持たないのはなぜでしょうか。
そこには彼らを取り巻く環境と、彼ら自身の思考が関わっていると考えられます。

まず「選択肢が多すぎる」という環境要因があります。
かつてのような早く出世して多くの収入を得てマイカーやマイホームを持つ、といった“所有”の人生観から、シェアリングやミニマルな暮らしなど“所有しない生き方”が支持されるなど、いまや仕事は「多くの収入を得るための手段」ではなくなりつつあります。
ワークライフバランスも謳われ、最近ではFIRE(経済自立に基づく早期リタイア)という言葉も出てきており「なるべく働かない」考え方も生き方・働き方に大きく影響を与えています。

このように「どう生きるか」が多様化するにつれ「どう働くか」の選択肢も増え、彼らのキャリア観を形成するうえでの1つの障壁となっています。
先輩社員との座談会などで具体的なキャリアパスを提示する企業もありますが、後述する自己評価の低さもあり彼らには「あの先輩は◯◯だからね……私には無理だな……」という意識から、人事が意図するような自分事化はなかなか達成されません。

加えて「遠回りをしたくない」という世代特有の考え方もあります。
これは「周囲から遅れをとりたくない」とも言い換えることができますが、SNSなどの影響を大きく受けた考え方と言えるでしょう。

Z世代の視点に立ってみると、SNSを開くと学生時代の知人・友人や旧友の“キラキラした人生”が必ずと言っていいほど目に入る、それが日常です。
もちろんそれはその人たちの人生の一部ですが「いまの自分よりももっと充実した生き方・くらしがある」という「満たされない」感覚をもたらします。
先述のように選択肢の多さゆえに明確に自分の生き方や働き方に軸を持たない彼らにとっては「遠回りをしていない(無駄なことをしていない)」「周囲と遅れをとっていない」という考え方だけが、自身の生き方・働き方に対する安心材料になるのです。

つまり彼らとしては遠回りを避けた・効率よく生きた(働いた)ゴールが明確にあるわけではなく、とにかく遠回り・遅れをとった状況を避けたい、といった心理状態にあると考えられます。
そしてこの「ゴールなき遠回り嫌悪」は “タイパ”(=タイムパフォーマンス)などと言われ「Z世代はタイパ重視」なんて言葉は聞いたことがあると思います。

どんな影響?:キャリアを考えるための材料が集まらない

本来キャリアとは“一見無駄に見えるもの”や“当時は重要さを理解していなかったもの”の連続や積み重ねによって「自分はなにがしたいのか」という問いが生まれ徐々に形成されるものです。

つまり新人・若手のときこそ目の前の仕事に一生懸命に取り組み、社内外問わず多種多様な人と関わることが自身のキャリアを考えるための材料になると言えます。

そのため「なんか違う……」という感覚から目の前の仕事に対するコミットメントを下げ、最低限の“こなし業務”をする、無駄なこと(無駄に見えること)に対する嫌悪感から「任された仕事や言われたこと」だけする等の受け身的な姿勢は、彼らのキャリア形成を遅らせていると言えます。

2.上司・先輩編

特徴的な思考:上司・先輩は完璧な存在であるべき

研修の場で新人・若手社員の方と対話をすると「上司・先輩によって言うことが異なりストレスを感じる」という声をよく聞きます。
どうやら彼らは「上司・先輩は考えや言動が統一されているべき」と思っているように見えます。

また彼らに「自分は子どもだと思うか、大人だと思うか」と聞くと、ほとんどの人が「まだ子どもだと思います……」と控えめに答えます。
謙虚な姿勢とも言えるでしょうが、捉え方によっては子どもである自分たちは上司や先輩、そして会社という“上の存在”としての大人たちから指導や育成など“施し”を受けて当然であるといった考えを潜在的に持っているようにも見えます。

ここ数年、Z世代と上の世代の対面でのコミュニケーションに関するトラブルもよく聞くようになりました。
もちろん世代間の価値観ギャップなどもありますが、新人・若手の想像力を欠いた言動が上の世代の尊厳を傷つけている側面もあるように感じます。

「Z世代が思い描く理想の上司像・職場コミュニケーションに関する調査」(株式会社HUUK)を加工して作成
「Z世代が思い描く理想の上司像・職場コミュニケーションに関する調査」(株式会社HUUK)を加工して作成

思考背景:コミュニティに関する認識ギャップ

なぜこのような上司・先輩、ひいては会社に対して誤解が生まれるのか。
そしてなぜ彼らは他者に対しての想像力がはたらかないのか。
それには「コミュニティの変化」が大きく関わっていると考えます。

コロナ前までは、学生時代までに経験するコミュニティとは家庭・学校(部活・サークル)・アルバイトといったものでした。
このコミュニティは物理的に近い者同士で形成され、部活やサークル、アルバイトなどある程度学力や考えが近い人たちで構成されてはいるものの世代や性別、価値観や生育環境など多様な人が属しているものでした。
こういったコミュニティ内で私たちは“価値観の違う人”や“生育環境や経験など共通の文脈・背景を持たない人”と共に活動していく経験を培ってきました。
その経験のなかで多様な人の多様な思考や言動の背景にある考えなどに触れ「想像力」を養ってきたとも言えます。

一方コロナ禍を経て、このような物理的に近いコミュニティに代わりオンラインでいつでも繋がれる“心理的に近いコミュニティ”が彼らの一部になってきました。
オンラインゲームや推し活など、共通の趣味嗜好を持った人たちがリアルタイムに繋がっているこのコミュニティには、その集団特有の文化や共通言語・文脈(身内ネタ)が存在しています。
これはもはや、大学のゼミやアルバイト先などリアルで泥臭いコミュニティよりも心地よく、自分らしさを存分に発揮できる居場所として機能しています。
彼らがSNSなどで趣味アカウント、愚痴アカウント、日常アカウントなどを使い分け、そのコミュニティを微妙に分けているのも同様の心地よさと言えるでしょう。

この“心理的に近いコミュニティ”では「想像力」は必要としません。
むしろそれすら不要なくらい考えも価値観も近いからこそ、その心地よさが実現しているのです。
しかし社会や会社組織でいうコミュニティは前者の“物理的に近いコミュニティ”になります。
そこでは異なった価値観や考え、経歴や能力を持った人たちが共生しており、それぞれに合った“泥臭い(面倒臭い)”コミュニケーションが求められます。

このパラダイムシフトをどう体感しトレーニングしていくかが、入社後に求められていると考えます。

どんな影響?:お客様意識が抜けず、配慮に欠けた言動が目立つ

会社組織は上司・先輩のみならず本当に多様な人たちで溢れています。
だからこそ多様な価値を生み社会に届けていると言えますし、それこそチームとしての必要な機能とさえ言えるほどです。
そこに先に挙げたような感覚を持つZ世代が入ってくると、彼らは「お客様」として振る舞い、その機能を低下させる恐れがあります。

本来新入社員と言えどその個性や潜在能力を変われ入社してきており、“一人の大人”としてその発揮を期待されています。
もちろん環境適応やOJTなど必要な関わりはある一方で、心持ちとしてそういった姿勢は求められているはずです。

しかしいつまでも彼ら自身が自分たちを「(施しをうけるべき)お客様」として誤認していると「言われていないのでやりません」「どうして上司と先輩の言うことが違うのか」「会社の言ってることが二転三転して一貫性がない」といった他人事のような言動がなくなることはありません。
いずれは組織の中核を担ってほしい期待された人材だからこそ、上司や先輩という多様な人たちが日々悩み考えながら動く、そういった不完全で変化に富んだ組織こそ会社であるという認識を持ち、自身もその一部であるという自覚を持ってもらう必要があります。

3.自分編

特徴的な思考:何もできないからこそ「足を引っ張りたくない」

「Z世代には主体性がない」とよく言われます。
たしかに研修や配属先で積極的に意見や主張をし、周囲を引っ張っていくような言動は見られなくなりました。
だからと言って彼らに主体性がないと決めつけるのは少し早計でしょう。
(そもそも人事としても主体性を持つ人を採用しているはずです)

このZ世代の主体性については「主体的ではない」というより「(意図的に)主体性を発揮していない」と捉えた方が適切だと考えます。
実は新入社員に「社会人に最も必要なものは?」とアンケートを取ると必ずそのトップに「主体性」という結果が出ます。
つまり彼らはその必要性・重要性を理解しているのです。

しかし彼らの声を直接聞くと「周囲に迷惑をかけたくない」「余計なことをして足を引っ張りたくない」といった消極的な発言が出てきます。
彼らとしては主体性の重要性を理解し、その素養は持ちながらも、周囲からの目を気にして「敢えて発揮をしていない」という選択を取っていると考えられます。

「働くことへの若手意識調査 2023」(リ・カレント株式会社)
「働くことへの若手意識調査 2023」(リ・カレント株式会社)

思考背景:高すぎるセルフイメージから生まれる「自傷的自己認知」

「自己肯定感」という言葉をよく見るようになりました。
私たち育成側がZ世代を語る時も、Z世代が自身を語るときも「自己肯定感が低い」と表現されることが多いように感じます。
心理学には近い概念としてもう1つ「自己効力感」というものがあり、この2つはZ世代を理解する上で非常に重要な要素になります。

「自己肯定感」とは「自分の存在そのものを尊重する力」と言われています。
これについては、その高さ低さがどうかを考えるよりも、Z世代の特徴として「自分で自分を肯定することが苦手(他者の承認によってはじめて肯定している)」と「自己肯定感を傷つけられた経験が少ない(他者に否定されたりした経験が少ない)」という2つの側面を理解することが重要です。

先述のように周囲の目を気にして主体性を潜めた彼らに「何かを成し遂げた」という成功体験は少なく、それはつまり自分で自分を認める自己承認の少なさに直結しています。
それゆえ彼らが求めるのは他者からの「いいね」であり、この承認欲求の強さは読者のみなさんも実感しているかもしれません。

そして学校教育や家庭環境の変化から「怒られたことのない」世代とも言える彼らは、他者からの叱責や否定により自己肯定感を損なった経験が少なく、自分で自分を否定するような状況を回避しようとします。
プライドが高いと感じたり、過剰に謙虚に見えたりする彼らの言動は「自分のダメな部分」に向き合うことを恐れた予防線とも言えるでしょう。

この損なわれることのなかった「自己肯定感」は「自分はこんなはずじゃない」「自分はもっと認められるべきだ」という高いセルフイメージを生み、そのイメージに到達しない自分への予防線として「自分なんてまだまだ……」という言動を引き起こします。

どんな影響?:いびつな自己評価による自傷行為

これらの歪な自己認知の最大の問題は、この予防線のような謙虚な言動が、本来成功体験や成長実感に結びつく経験すらも「先輩たちのおかげで……」と否定的な捉え方をさせ、自己評価を下げてしまうことです。

こういった自傷的な自己認知が主体性を阻害し「足を引っ張りたくない」という意識につながっていると言えると考えます。
採用面接時点では主体的だった人材が現場や人事からのポジティブな声かけ虚しく消極的になってしまったり、自信を持てずメンタル不全を起こしたりする原因として、この自傷的な自己認知は理解しておくべき内的活動だと考えます。

Z世代の歪な自己評価による自傷的思考

本質的な打ち手:認知を変える

ここまでの内容を総括すると、彼らの特徴および課題の根本には「歪な認知」があるといえます。

キャリアや周囲の人、そして自分に対しての認知が歪んでいることにより、本来ポジティブに受け止めるべき賞賛や励ましを無下にしてしまっていると考えられます。
しかしこの歪な認知は彼らに起因しているものではなく、社会や家庭、教育など社会要因に基づくものと言えるでしょう。

つまり彼ら自身に非があるわけではないということです。

むしろ彼らの持つ強みやポテンシャルは素晴らしく、特にその多様な感性と技術適応から生まれる創造力や革新性は間違いなく今後の組織・社会に不可欠なものと言えるでしょう。
だからこそ私たちは彼らに対して会社・仕事というフィールドで様々なモノ・ヒト・コトを経験させ、自身や周囲に対する認知を変えていくことで、彼らがその能力を発揮できるような、そんな能力開発を進めていくことが必要になります。

資料の中では大きく3つ、私たち育成側が彼らにすべき関わりのポイントを紹介いたします。

Z世代育成のための本質的な3つの打ち手

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