クライアント企業はとある政令指定都市に約80店舗を展開する自動車販売会社。10数年前にメーカー直営の企業と地元の販売会社が合併して誕生したという経緯があります。当時、自然災害や高齢者の免許返納などの社会情勢に影響を受け、顧客数の減少が加速しているという環境変化を抱えていました。
問い合わせを頂いたのは、同社経営企画部のご担当者様。
「経営層により2年間保留となっていた経営課題の解決に向けてプロジェクトを再始動させたい」とのご相談を受け、人材組織開発プロデューサーのヒアリングから案件が始まりました。
まずは直接相談を頂いた経営企画部の方へヒアリングを行うことに。
ディスカッションをする中で、4つの経営課題が浮き彫りになりました。
入社3年以内の退職率が他業種と比較して倍近く高い水準が続き、採用コストは年々増加するも採用目標数は達成できず、人材の定着ができていない状況でした。
若手が定着しないことも相まって高齢社員の比率が高まり、人手もギリギリなため残業や平均賃金が上昇。結果としてコストを圧迫していました。
本社部門から各店舗へ、販促キャンペーンや事務作業といった指示が多く飛び交っており、無駄な仕事が増えて日常業務が滞ってしまっている状況に陥っていました。
例年の顧客満足度調査では常に全国平均未満で、下から数えた方が早い状態。この結果に対してメーカーからも指摘が絶えない状況でした。
これらの経営課題が整理されたところで、社長をはじめとした経営陣とのディスカッションを実施。
表面上の課題から、さらに本質を探っていきました。
社長をはじめとした経営陣が集まる社内会議に同席し、課題の本質を探っていきました。
経営企画部では社員アンケートやストレスチェックの結果を分析して報告。すると経営層からは
「うちの業界構造は特殊なのだから仕方ない」
「こんなネガティブな結果だけ出しても社員が失望するだけだ」
といった声が返ってきました。
会議の後、人材組織開発プロデューサーは困惑する経営企画部の担当者とともに今後のプロジェクトの方針を議論しました。
「どうしたら、経営陣と共にこれからの会社の未来を考えていくことができるようになるのか」
様々なアプローチを検討した結果、「店舗社員がさらに顧客へ向き合うための支援と変革」という方向性にまとまり、全体の約半数の店舗を実際に訪れて現場ヒアリングをすることに。
経営企画部が抽出した46店舗を、人材組織開発プロデューサーを中心にしたプロジェクトメンバーで訪問し、整備士や営業スタッフの方々へインタビューをしました。
「自分は車が好きでこの会社に整備士として入った。車は好きだけど今の仕事はとても辛い」
「来店したお客様に対して全員が本気で向き合うお店にしたいんです」
読むだけで辛い切実な声、胸が温かくなるような声。
たくさんの声を集約、分析して実態調査報告書としてまとめあげました。
現場ヒアリング調査を踏まえて経営陣・現場との間に生じているギャップこそが今回の問題の真因と定めた人材組織開発プロデューサー。それぞれの声を整理したうえで、経営陣や現場の店直クラス社員を集めたワークショップという形で現状を伝えました。
ワークショップでは「原因や犯人探しではなく、理想の組織像を作り出そう!」という方向性のもと、3つのステップで現状把握から在りたい組織像を描いていきました。映像資料やビジネスケースを用いて問題を客観的に見つめなおし、ディスカッションを通じて自分たちの組織の在りたい姿を描くことで他責意識から共犯意識へと変えていくのです。
具体的な問題解決のためのワークショップを実施後、真っ先に変化があったのは社長自身でした。
あらゆる会議や社外との打合せよりも、自ら車を飛ばし、店舗の生の声を聞くことに注力しました。
すると、辛辣な声を上げていた一部の店舗にも徐々に変化が起き始めました。
敵と見なしていた本社を、共にお客様に価値を生むための味方として見るようになったのです。
むしろ、今まで「忙しい」「仕方がない」という口癖で、顧客対応を疎かにしていたことを悔い改めるような意見が出てきました。
本社は、自己満足になっていた施策の乱発を反省し、店舗にとって本当に必要な施策を部署横断で見極め、ベテラン店長と協議する場を設けるようになりました。その結果、必要なときに必要な打ち手が投下される仕組みを構築し、本社から店舗へのメール数は半減。本社と店舗の間には「大丈夫?しんどくない?」「お客さん喜んでいたよ」と心を通わせるコミュニケーションが増えていました。
2年間にわたる組織変革プロジェクトの成果。それは、本社、店舗、経営陣、それぞれの立場の人たちが「車を通じてお客様と心を通わせたい」という共通の願いに向かっている姿でした。
人材組織開発プロデューサーがクライアント企業と2年間にわたって協働し築いたのは、組織変革の実現に向けた大きな変化、そのはじまりの「きっかけ」だったのです。